発売日: 1971年1月**
ジャンル: バロック・ポップ、子供向けコンセプト・アルバム、ナラティブ・ポップ
「すべてのものには意味がある」——子どものための寓話、そして大人への優しい哲学
『The Point!』は、アメリカのシンガーソングライターHarry Nilssonが1971年に発表したコンセプト・アルバムであり、
彼自身が原案・脚本・音楽のすべてを手がけた、語りと歌で綴られる“音の童話”である。
本作は、テレビ用のアニメーションとしても制作された異色の作品で、
丸い頭を持つ少年“Oblio”が、すべてに“尖ったポイント”がある国で「無意味な存在」とされ、
忠犬Arrowとともに追放される…という寓話的物語を中心に展開される。
一見すると子ども向けのファンタジーだが、実際には
「意味とは何か?」「違いを排除する社会とは?」「個性と孤独の関係とは?」といった
深い哲学的テーマを柔らかく包み込んだ、隠されたメッセージが詰まった作品なのだ。
Nilssonはこのアルバムについて、「LSDをやっていたときに“世界中に尖ったものが多すぎる”と感じたことがきっかけ」と語っており、
優しさとユーモアに包まれた“意識の寓話”とも言える。
全曲レビュー
※本作にはナレーション・パートもあるが、ここでは楽曲のみを取り上げる。
1. Everything’s Got ’Em
陽気なホーンと快活なメロディで幕を開ける、この物語のテーマ曲的な存在。
「誰もが“何か”を持っている」というフレーズが繰り返され、
“違い”の価値を優しく肯定する。
2. Me and My Arrow
本作の代表曲。
追放されたOblioと忠犬Arrowの絆を描いたバラードで、
メロディの美しさと歌詞の切なさが絶妙に交差する名曲。
後に数多くのアーティストがカバーした、Nilssonの最も愛された一曲でもある。
3. Poli High
少し不穏な転調とユーモラスな語りが特徴的な楽曲。
旅の中で出会う奇妙な人物たちが、“普通”の意味を問いかける。
4. Think About Your Troubles
ジャズ調の軽快なリズムと転調の妙が光るナンバー。
石鹸から死、そして海へと“問題”が巡っていく歌詞は、
悩みもいつかは消えていくという人生の真理を寓話として語る傑作。
5. Life Line
ややメロウで浮遊感のある楽曲。
“命綱”という言葉に託された、孤独な存在がつながりを探し求める願いが感じられる。
6. The Pointed Man
“右にも左にも行かない男”という風刺キャラを描いた楽曲。
ラグタイム調のユーモア溢れるアレンジで、意味のない行動を繰り返す人間の滑稽さを突く。
7. Are You Sleeping?
Oblioの母親が歌う、穏やかで包み込むような子守唄。
愛と安心の記憶が、少年の旅を内面から支える。
総評
『The Point!』は、Harry Nilssonのキャリアにおける最もユニークな作品であり、
音楽と物語を融合させる“語りと歌のアルバム”というジャンルを確立した金字塔でもある。
そこにあるのは、ポップスの楽しさでも、メッセージの押しつけでもない。
物語を通して人の心の奥に語りかける、優しい知性と深い共感のまなざしである。
“すべてのものには意味がある”というシンプルなテーマは、
今も変わらず、多くのリスナーの心に刺さり続けている。
そして何より、『The Point!』は“違っていること”を祝福するアルバムなのだ。
おすすめアルバム
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The Beatles – Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band
物語性と音の劇場的演出という意味での共通項がある。 -
Paul Williams – Phantom of the Paradise Soundtrack
寓話性と音楽の融合において、Nilsson的な要素が見られる。 -
Cat Stevens – Tea for the Tillerman
子どもの視点と大人の哲学を併せ持つ優しい作品。 -
Donovan – A Gift from a Flower to a Garden
サイケデリックと童話の交差点。『The Point!』の精神的兄弟作。 -
Terry Scott Taylor – John Wayne(1998)
語りと歌を織り交ぜたコンセプト・アルバム。Nilsson直系の作品といえる。
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