アルバムレビュー：The Last Record Album by Little Feat

発売日: 1975年11月
ジャンル: ジャズロック、ファンク、ルーツロック

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概要

『The Last Record Album』は、Little Featが1975年にリリースした6作目のスタジオ・アルバムであり、タイトルの皮肉とは裏腹に、彼らの音楽的野心がさらに高まった作品である。
本作からは、ジャズ的なコード進行や浮遊感のあるアレンジが目立つようになり、単なるルーツロック／ファンクを超えた、知的で洗練されたサウンドへとシフトし始めている。
ローウェル・ジョージの存在感はやや控えめとなり、キーボーディストのビル・ペインやギタリストのポール・バレールの楽曲が増え、バンド内の創造力が多元化する様子が見て取れる。

同時期のSteely Danにも通じるような、都会的かつ複雑な音楽性。
一方で、ニューオーリンズ・ファンクの土台も残されており、浮遊感と泥臭さが絶妙にブレンドされた一枚である。
タイトルの“最後のレコード・アルバム”という言葉には、時代の転換やバンドの内面の揺らぎもにじんでいる。

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全曲レビュー

1. Romance Dance

ビル・ペイン作の軽快なオープニング・ナンバー。
70年代中盤の都会的なディスコ／ファンクの影響を取り入れつつ、複雑なコードと洗練された展開が耳を引く。
“恋と踊り”というテーマが、音楽という娯楽の核心を柔らかく照射している。

2. All That You Dream

ポール・バレールとビル・ペインの共作で、本作中もっともキャッチーな楽曲のひとつ。
幻想と現実のあわいを漂うようなサウンドと、夢をめぐる切ないリリックが印象的。
のちにリンダ・ロンシュタットのカバーでも知られるようになる。

3. Long Distance Love

ローウェル・ジョージ作の名バラードで、彼の繊細で傷つきやすい内面がにじみ出た楽曲。
遠距離恋愛の寂しさ、電話越しの空虚さが静かなメロディに込められており、多くのファンから愛される名曲である。
本作でのローウェルの貢献として、特に重要な位置づけを持つ。

4. Day or Night

ビル・ペインによるジャズ・ロック色の強い楽曲。
リズムの切り替えやテンション・コードを多用した構成は、もはやフュージョンに近い。
都会の昼夜を漂うような抽象的な詞世界が広がり、Steely Dan的アプローチを感じさせる。

5. One Love Stand

ポール・バレールとビル・ペインの共作によるロック・ナンバー。
“一夜限りの愛”をテーマに、虚しさと享楽の入り混じる感情が描かれる。
やや泥臭いギターと、洗練されたバックが絶妙な対比を生む。

6. Down Below the Borderline

ローウェル作のブルース色が強いナンバーで、国境地帯の荒涼とした風景が広がる。
メキシコやアメリカ南部の情景を思わせるギターとパーカッションが、アルバム中でも異色の生々しさを放つ。
ローウェルのナラティヴな才能が発揮された佳曲。

7. Somebody’s Leavin’

アルバム後半の陰影を担う曲で、別れをテーマにしたビル・ペインのバラード。
ピアノを中心としたアレンジが静けさと孤独を強調し、繊細な感情の機微を描く。
ビルのヴォーカルはやや素朴ながら、誠実さが響く。

8. Mercenary Territory

ビル・ペインによる壮大なクロージング・ナンバー。
商業主義と個人の誠実さの衝突をテーマにした詞が印象的で、ブラスアレンジも重厚。
ジャズ、ソウル、ロックを融合させたようなスケール感を持ち、アルバムを締めくくるにふさわしい構成である。

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総評

『The Last Record Album』は、Little Featが音楽的に最も複雑で実験的なフェーズへと突入したことを告げるアルバムである。
前作『Feats Don’t Fail Me Now』のファンク路線を受け継ぎながらも、さらにジャズやAORへの接近を見せ、都会的な音像と精神性を手に入れている。
ローウェル・ジョージの影がやや薄くなる中、ビル・ペインやポール・バレールの楽曲が主軸となり、バンド全体の調和と緊張感が独特の美しさを生んでいる。

また、“愛”や“夢”、“境界”といった抽象的テーマが多く、これまでのような土臭さよりも、内省的かつ詩的な空気感が強調されているのも特徴だ。
それは同時に、バンドが音楽と現実のバランスを模索していたことの証かもしれない。
ローウェルはのちにソロ活動へと傾いていくが、その前夜におけるバンドの知的な結晶とも言える本作は、聴くたびに新しい発見をもたらす。

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おすすめアルバム（5枚）

1. Steely Dan – Katy Lied (1975)
   　複雑なコードとジャズ的構成、シニカルなリリックなど、本作と非常に近い音楽性を持つ。
2. Weather Report – Mysterious Traveller (1974)
   　ジャズロック／フュージョンの代表作。インスト中心ながら、『Day or Night』の方向性と重なる。
3. Boz Scaggs – Silk Degrees (1976)
   　AORとソウルの美しい融合。リトル・フィートの洗練された一面と共振する作品。
4. Van Morrison – Veedon Fleece (1974)
   　詩的で内省的なリリックと、ジャジーな演奏。『Long Distance Love』に通じる深い感情性がある。
5. Doobie Brothers – Takin’ It to the Streets (1976)
   　ファンクとAORの橋渡しをした作品。ビル・ペインが参加しており、音の接点も多い。

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