
発売日:2009年2月3日 / ジャンル:ポップ・ロック、ピアノ・ロック、オルタナティヴ・ロック、成人向けコンテンポラリー・ロック
- 概要
- 全曲レビュー
- 1. Syndicate
- 2. Absolute
- 3. You Found Me
- 4. Say When
- 5. Never Say Never
- 6. Where the Story Ends
- 7. Enough for Now
- 8. Ungodly Hour
- 9. We Build Then We Break
- 10. Happiness
- 11. Uncertainty
- 12. Fair Fight
- 13. Be the One
- 総評
- おすすめアルバム
- 1. The Fray – How to Save a Life
- 2. Coldplay – A Rush of Blood to the Head
- 3. Keane – Hopes and Fears
- 4. Snow Patrol – Eyes Open
- 5. OneRepublic – Dreaming Out Loud
- 関連レビュー
概要
The Frayの2作目『The Fray』は、2000年代後半のアメリカン・ポップ・ロックにおいて、ピアノを中心に据えた叙情的なロック・サウンドと、普遍的な人間関係の痛みを結びつけたアルバムである。デビュー作『How to Save a Life』によって広く知られるようになったThe Frayは、コロラド州デンバー出身のバンドで、アイザック・スレイドの感情を帯びたヴォーカルとピアノ、ジョー・キングのギターとヴォーカル、デイヴ・ウェルシュのギター、ベン・ワイソッキのドラムを軸に、Coldplay以降のピアノ・ロック、U2的なスケール感、アメリカのラジオ向けロックの明快なメロディを融合させてきた。
セルフタイトル作である『The Fray』は、バンドがデビュー作の成功を受けて、自分たちの核となる音楽性を再確認しながら、より重厚で内省的な方向へ進んだ作品である。1作目『How to Save a Life』は、タイトル曲や「Over My Head (Cable Car)」のヒットによって、テレビドラマ、ラジオ、映画的な感情表現と強く結びついた。特に「How to Save a Life」は、喪失、救済、すれ違いをテーマにした楽曲として広く受け入れられ、The Frayのイメージを決定づけた。2作目では、その成功を単純に反復するのではなく、より大きな音像と、信仰、疑念、関係の破綻、自己認識といったテーマを掘り下げている。
本作のサウンドは、ピアノを中心にしたミディアム・テンポの楽曲が多く、劇的なコード進行、力強いコーラス、広がりのあるギター、安定したリズムによって構築されている。Coldplay、Keane、Snow Patrol、U2、Switchfoot、Counting Crowsなどと同じ文脈で語られることが多いが、The Frayの特徴は、過度に抽象的なサウンドスケープへ向かうのではなく、感情の焦点を明確に保つ点にある。歌詞は難解な比喩よりも、対話、葛藤、後悔、願いといった日常的な感情を中心にしており、聴き手が自分の経験に引き寄せやすい。
2009年という時期を考えると、『The Fray』はロック・バンドがアメリカのメインストリームでまだ大きな存在感を持っていた最後の時代の作品ともいえる。ストリーミング時代が本格化する前、ラジオ、CD、テレビドラマの挿入歌、音楽番組、映画予告編などを通じて、感情的なロック・バラードが広い層に届いていた時代である。The Frayの音楽は、その環境に非常に適していた。大きな声で叫ぶハードロックではなく、クラブ・ミュージック的な身体性でもなく、日常の痛みや希望を大きなメロディに託すタイプのロックである。
歌詞の面では、本作は人と人との距離を中心にしている。愛する相手を理解できないこと、救いたい相手を救えないこと、自分自身の弱さを認めること、信じたいものを信じきれないこと。The Frayの音楽において、救済は常に完全な形では訪れない。むしろ、救いたいという願いと、救えないという現実の間にある緊張こそが、楽曲の感情的な核になっている。これはデビュー作から続くテーマだが、セルフタイトル作ではより個人的かつ内面的に深められている。
『The Fray』というタイトルには、バンド名をそのまま掲げることで、自分たちの音楽的アイデンティティを明確にする意図が感じられる。初期衝動を記録したデビュー作に対し、本作は成功後の自己定義のアルバムである。商業的な期待、バンドとしての成熟、ポップ・ソングとしての完成度、誠実な感情表現のバランスを取りながら、The Frayは自分たちがどのようなバンドであるかを提示している。
全曲レビュー
1. Syndicate
オープニング曲「Syndicate」は、アルバム全体のサウンドを象徴する力強い楽曲である。ピアノのリズムとギターの広がりが重なり、The Frayらしい叙情性とロック・バンドとしてのスケール感が同時に提示される。タイトルの「Syndicate」は、組織や連合を意味する言葉だが、この曲では単なる社会的組織ではなく、人生を共に進もうとする者たち、あるいは困難な状況の中で結びつこうとする関係性を象徴している。
歌詞では、人生のある地点から共に動き出す感覚が描かれている。過去を背負いながらも、新しい方向へ踏み出そうとする姿勢があり、アルバムの冒頭にふさわしい前進感を持っている。ただし、その前進は単純な楽天性ではない。The Frayの楽曲では、希望はしばしば不安と隣り合わせに存在する。この曲でも、明るいメロディの裏側には、迷いや危うさが残されている。
音楽的には、ピアノ・ロックを基盤としながら、ギターが大きな空間を作る点が重要である。The Frayはピアノを中心にしたバンドとして認識されやすいが、この曲ではバンド全体のアンサンブルが前面に出ている。ドラムは堅実に曲を押し進め、コーラス部分では音の厚みが増す。オープニングとして、バンドがデビュー作の繊細なイメージから、より大きなロック・サウンドへ進もうとしていることを示す一曲である。
2. Absolute
「Absolute」は、本作の中でも特に内面的な葛藤が強く表れた楽曲である。タイトルの「Absolute」は「絶対的なもの」を意味し、確かな信念、完全な愛、揺るがない真実への希求を連想させる。しかし、The Frayの音楽において、そのような絶対性は簡単には手に入らない。むしろ、この曲は確かなものを求めながらも、それを信じきれない人間の不安を描いている。
サウンドは、ピアノとギターが重なりながら徐々に高揚していく構成を持つ。ヴァースでは比較的抑制されたトーンで始まり、コーラスに向かうにつれて感情が広がっていく。この構成はThe Frayの得意とするもので、個人的な独白が大きなロック・アンセムへ変わっていくような効果を生んでいる。
歌詞では、自分がどこに立っているのか、何を信じるべきなのかという問いが中心にある。人はしばしば、愛や信仰、関係性の中に絶対的な答えを求める。しかし現実には、どれほど強く求めても、すべてを保証してくれる答えは存在しない。この曲は、その欠如を悲観的に描くというより、欠如を抱えたまま進む人間の姿を描いている。
「Absolute」は、The Frayの楽曲にしばしば見られる信仰的な響きも持っている。ただし、それは明確な宗教的メッセージとしてではなく、救いを求める感情として表れている。確かなものを探し続けること自体が、この曲の核心である。
3. You Found Me
「You Found Me」は、『The Fray』を代表する楽曲であり、バンドのキャリア全体でも重要な位置を占める曲である。ピアノの印象的な導入、次第に厚みを増すバンド・サウンド、そして痛切な歌詞が組み合わさり、The Frayが得意とする喪失と救済のテーマを最も直接的に表現している。
歌詞では、語り手が神と思われる存在と街角で出会い、なぜ苦しみの中にいる人々を助けなかったのかと問いかけるような構図が取られる。この設定は非常に象徴的である。The Frayはここで、信仰を単純な慰めとして描くのではなく、信じたい存在に対する怒りや失望を含めて表現している。救いを求める者が、救いの遅れに対して疑問を抱く。この緊張が曲全体の感情的な強さを生んでいる。
音楽的には、ピアノの反復が曲の核になっている。そこにギター、ベース、ドラムが加わり、コーラスでは大きなスケールへ広がる。アイザック・スレイドのヴォーカルは、過度に技巧的ではないが、声のかすれや切迫感によって歌詞の痛みを伝える。The Frayの魅力は、完璧な歌唱よりも、感情の揺れをそのまま伝えるような声にある。
「You Found Me」は、単なる失恋や個人的な悲しみの歌ではない。そこには、世界の不条理に対する問い、神や運命への抗議、孤独の中で見つけられることへの願いが含まれている。2000年代のアメリカン・ポップ・ロックの中でも、信仰と疑念をメインストリームのロック・バラードとして成立させた代表的な楽曲といえる。
4. Say When
「Say When」は、関係性の境界線を扱った楽曲である。タイトルは「いつか言ってくれ」「合図してくれ」という意味を持ち、相手の決断を待つ状況、あるいは自分では先へ進めない感覚を示している。The Frayの歌詞では、対話が重要な役割を持つが、その対話はしばしば不完全で、言葉が届かないことへの苦しみが描かれる。
サウンドは、静かな導入から徐々に感情を高めていく構成である。ピアノは控えめながらも曲の中心にあり、ギターは広がりを加える。コーラスではメロディが大きく開き、抑えていた感情が解放される。The Frayらしいドラマティックな展開だが、過剰な演出にはならず、あくまで歌詞の感情に沿っている。
歌詞のテーマは、終わりを認めること、あるいは新しい段階へ進むための合図を待つことにある。人間関係では、終わりが明確に告げられないまま、長く不安定な状態が続くことがある。この曲は、その曖昧な時間を描いている。相手が何かを言ってくれれば進めるのに、その言葉がないために立ち止まってしまう。そこには依存、期待、諦めが複雑に入り混じっている。
「Say When」は、アルバムの中で感情的な余韻を深める役割を持つ曲である。The Frayはここで、大きなメロディを使いながらも、関係の終わりにある静かな痛みを丁寧に描いている。
5. Never Say Never
「Never Say Never」は、本作の中でも最も広く知られるバラードのひとつであり、The Frayのロマンティックかつ不安定な感情表現がよく表れている。タイトルは「絶対にないとは言わない」「決して諦めない」という意味を持ち、関係の崩壊と再生の可能性を同時に示している。
サウンドは、穏やかなピアノと柔らかなギターを中心に始まり、徐々に壮大なコーラスへ向かう。テンポは抑えめで、歌詞の言葉が前面に出るように設計されている。The Frayのバラードは、感情を過度に装飾するのではなく、シンプルなコード進行と大きなメロディによって普遍性を生み出す。この曲はその代表例である。
歌詞では、愛する相手との関係が危機にあることが示される。離れてしまいそうでありながら、完全には終わっていない。互いに傷つけ合いながらも、まだつながりを手放せない。そのような状態が描かれている。「never say never」という言葉は、希望の言葉であると同時に、諦めきれない人間の弱さも含んでいる。
この曲が強く響くのは、愛を理想化するだけでなく、関係が壊れかけている現実を見つめているからである。The Frayは、完全な幸福よりも、傷を抱えたまま続いていく愛を描くことに長けている。「Never Say Never」は、その感情を非常にわかりやすく、かつ普遍的な形で表現した楽曲である。
6. Where the Story Ends
「Where the Story Ends」は、物語の終わりをめぐる楽曲である。タイトルは「物語が終わる場所」を意味し、関係や人生のある章が終わる瞬間を示している。The Frayの作品には、映画やドラマのような物語性がしばしばあり、この曲もまた、終幕の場面を思わせる構成を持っている。
音楽的には、ミディアム・テンポのロック・ソングとして、ピアノとギターがバランスよく配置されている。メロディは切なく、コーラスでは感情が大きく広がる。バンド・サウンドは安定しており、派手な実験性よりも、歌の内容を支えることに徹している。
歌詞では、関係の終わりをどのように受け入れるかがテーマになっている。物語には始まりがあり、展開があり、そして終わりがある。しかし人間関係の場合、その終わりを簡単に認めることはできない。終わったはずの物語の中に、まだ感情が残っているからである。この曲は、その余韻を描いている。
「Where the Story Ends」は、The Frayのソングライティングにおける物語的な感覚をよく示している。歌詞は個人的な体験に基づくように聞こえながらも、具体的な説明をしすぎないため、聴き手は自分自身の記憶を重ねることができる。アルバムの中盤に置かれることで、前半の強い感情を受け止め、より静かな内省へ導く役割を果たしている。
7. Enough for Now
「Enough for Now」は、アルバムの中でも特に家族や過去の痛みを感じさせる楽曲である。タイトルは「今はそれで十分」という意味を持ち、完全な解決ではなく、一時的な受容を示している。The Frayの歌詞では、問題がすべて解決されることは少ない。むしろ、不完全な状態を抱えたまま生きていくことが重要なテーマとなる。
サウンドは比較的抑制されており、ピアノとヴォーカルが中心となる部分では、親密な語りのような印象を与える。曲が進むにつれてバンド・サウンドが加わるが、全体としては大きな爆発よりも、静かな重みが重視されている。この控えめな構成が、歌詞の痛みをより強く伝える。
歌詞では、世代を超えて受け継がれる傷や、親子関係の複雑さが感じられる。過去に起きたことを完全に理解することはできず、許しも簡単には訪れない。しかし、それでも今の時点で受け入れられるものを見つけようとする姿勢がある。「Enough for Now」という言葉には、諦めではなく、現実的な優しさがある。
この曲は、本作の中で最も成熟した感情を持つ楽曲のひとつである。The Frayはここで、若い恋愛の痛みだけでなく、家族や記憶に関わる深い問題へ踏み込んでいる。劇的な救済ではなく、不完全な和解を描く点に、この曲の重要性がある。
8. Ungodly Hour
「Ungodly Hour」は、タイトルからして強い印象を持つ楽曲である。「ungodly hour」は、通常なら人が起きていないような非常識な時間、深夜や夜明け前を指す表現である。同時に、「godly」の否定形を含むことで、神聖さから外れた時間、孤独や罪悪感が濃くなる時間を連想させる。
サウンドは、夜の静けさを思わせる抑えた導入から始まり、徐々に感情が広がっていく。ピアノの響きは親密で、ヴォーカルは内省的に響く。The Frayは大きなコーラスを得意とするが、この曲ではむしろ深夜の独白のような雰囲気が重要である。
歌詞のテーマは、孤独な時間に訪れる思考、後悔、誰かへの思いである。夜が深くなると、普段は抑えている感情が浮かび上がる。人はその時間に、失ったもの、言えなかった言葉、選ばなかった道を考える。この曲は、そのような精神状態を静かに描いている。
「Ungodly Hour」は、アルバムの中でも宗教的な響きと日常的な孤独が交わる曲である。神聖ではない時間にこそ、人は救いを求める。The Frayはその矛盾を、過度に説明せず、メロディと声の揺れによって表現している。
9. We Build Then We Break
「We Build Then We Break」は、The Frayの人間関係観を非常によく表した楽曲である。タイトルは「私たちは築き、そして壊す」という意味を持ち、愛情、友情、信頼、人生設計が、作られては崩れていく過程を示している。人間は何かを築く存在であると同時に、自らそれを壊してしまう存在でもある。この曲は、その矛盾を扱っている。
音楽的には、やや緊張感のあるリズムと、力強いピアノ/ギターの組み合わせが特徴である。バラード的な柔らかさよりも、関係が崩れていく際の焦燥感が前面に出ている。コーラスでは感情が高まり、タイトルの言葉が持つ反復性が強調される。
歌詞では、関係性の構築と崩壊が繰り返される。何かを大切に作り上げたはずなのに、誤解、怒り、恐れ、未熟さによって壊してしまう。その過程は個人的な恋愛にも、家族にも、社会的な関係にも当てはまる。The Frayの歌詞が多くのリスナーに届くのは、こうした普遍的な構造をわかりやすい言葉で提示するからである。
「We Build Then We Break」は、アルバム後半において感情の緊張を再び高める役割を持つ。静かな内省が続いた後、この曲によって、壊れていく関係に対する切迫した感覚が再び表面化する。
10. Happiness
「Happiness」は、アルバム本編の最後を飾る楽曲であり、本作のテーマを静かに総括する重要な曲である。タイトルは「幸福」を意味するが、The Frayはここで幸福を単純な喜びとして描かない。むしろ、幸福とは追い求めるほど逃げていくもの、所有しようとすると失われるものとして提示される。
サウンドは控えめで、ピアノとヴォーカルを中心にした静かな構成から始まる。アルバムのラストに大きなロック・アンセムを置くのではなく、内省的な楽曲で締めくくる点が重要である。これにより、本作全体が扱ってきた救済、関係、信仰、喪失といったテーマが、外向きの結論ではなく、静かな問いとして残される。
歌詞では、幸福は正面から追いかけるものではなく、時に手放すことで近づくものとして描かれる。これはThe Frayの世界観において非常に重要である。彼らの音楽では、人は愛や救いを強く求めるが、それを完全に支配することはできない。幸福もまた同じであり、計画通りに手に入るものではない。
「Happiness」は、The Frayのバラードの中でも特に哲学的な性格を持つ曲である。大きな解決を提示せず、むしろ人間が幸福とどのように向き合うかを問いかける。この曲でアルバムが終わることにより、『The Fray』は単なる恋愛や喪失の作品ではなく、生きることそのものの不確かさを扱ったアルバムとして印象づけられる。
11. Uncertainty
デラックス版などに収録される「Uncertainty」は、タイトル通り「不確かさ」をテーマにした楽曲である。本編の「Happiness」が幸福の捉えがたさを描く曲だとすれば、この曲はその前提となる人生の不安定さをより直接的に表現している。The Frayの音楽には、一貫して確信を求めながらも確信に届かない感覚があるが、この曲はその感覚を端的に示している。
サウンドは比較的シンプルで、ピアノ・ロックの枠組みの中でメロディを丁寧に聴かせる構成である。大きな実験性はないが、The Frayらしい感情の焦点が明確である。ヴォーカルは迷いを抱えたまま前に進むように響き、曲全体に内省的な空気を与えている。
歌詞では、先が見えない状況の中で、何を信じるべきかを探す姿が描かれる。不確かさは不安を生むが、同時に人を動かす力にもなる。未来が決まっていないからこそ、人は選び、迷い、関係を築こうとする。この曲は、その曖昧な状態を否定せずに受け止めている。
本編の流れに加えて聴くことで、『The Fray』の中心テーマがよりはっきりする。確かな救済を求めながらも、不確かさの中で生きるしかないという認識が、本作全体を貫いている。
12. Fair Fight
「Fair Fight」は、タイトルが示すように、公平な戦い、正面から向き合うことをテーマにした楽曲である。The Frayの歌詞では、人間関係はしばしば衝突の場として描かれるが、その衝突は単なる対立ではなく、互いを理解しようとする過程でもある。この曲は、そうした関係の緊張を扱っている。
音楽的には、The Frayらしいピアノとバンド・サウンドの組み合わせを持ち、感情の高まりを素直に表現する。メロディは明確で、歌詞の言葉を支えるように構成されている。大きな派手さよりも、誠実なロック・ソングとしての強さがある。
歌詞では、対等であることの難しさが浮かび上がる。人間関係における衝突は、必ずしも公平ではない。どちらかが多くを抱え、どちらかが言葉を失い、どちらかが先に傷つくこともある。その中で「fair fight」を求めることは、相手と本当に向き合いたいという願いの表れである。
この曲は、本作のテーマである対話と葛藤を補足する楽曲として機能する。The Frayにとって、愛や信頼は静かな平和だけではなく、時に戦いのような緊張を伴うものでもある。
13. Be the One
「Be the One」は、相手にとって特別な存在になりたいという願いを扱った楽曲である。タイトルの「the one」は、唯一の存在、選ばれる存在、支えになる人物を意味する。The Frayの音楽において、この願いは単なる恋愛感情にとどまらず、誰かを救いたい、誰かに必要とされたいという深い欲求と結びついている。
サウンドは、穏やかでメロディアスな方向にあり、アルバムの感情的な余韻を広げる。ピアノとギターは柔らかく重なり、ヴォーカルは切実に響く。大きなロック的爆発よりも、言葉の誠実さが重視されている。
歌詞では、自分が相手にとって意味のある存在になれるのかという問いが中心にある。これはThe Frayの楽曲に繰り返し現れるテーマである。人は誰かを救いたいと願うが、その願いは時に自己確認の欲求とも重なる。相手のためであると同時に、自分が必要とされたいという感情も含まれる。この曲は、その複雑さを比較的ストレートに表現している。
「Be the One」は、本編の重い問いを受けて、より個人的な関係性へ戻る曲として聴くことができる。The Frayの音楽が持つ、救済と依存の境界線がよく表れている。
総評
『The Fray』は、デビュー作の成功によって確立されたThe Frayのイメージを受け継ぎながら、より重厚で内省的な方向へ深めたアルバムである。ピアノを中心としたメロディアスなポップ・ロック、広がりのあるギター、感情の高まりを意識した構成、そして喪失や救済をめぐる歌詞が、本作全体を貫いている。セルフタイトルという形式にふさわしく、The Frayがどのようなバンドであるかを明確に示した作品といえる。
本作の最大の特徴は、感情の普遍性にある。The Frayは複雑な音楽的実験よりも、誰もが経験しうる痛みや迷いを、明快なメロディと大きなサウンドに乗せることを重視している。関係が壊れること、誰かを救えないこと、信じたいものを信じきれないこと、幸福を求めてもつかみきれないこと。これらのテーマは、抽象的な思想ではなく、日常の中で起こる感情として描かれる。そのため、本作はメインストリームのポップ・ロックでありながら、単なる消費的なラブソング集にはなっていない。
特に「You Found Me」は、本作の核となる楽曲である。この曲では、神や運命への問い、救済の遅れ、孤独の中で見つけられることへの願いが、ピアノ・ロックの形で表現されている。また「Never Say Never」では、壊れかけた関係を手放せない人間の弱さと希望が描かれ、「Happiness」では幸福そのものの捉えがたさが静かに示される。これらの楽曲によって、アルバム全体は単なる恋愛の痛みを超え、人生における不確かさと向き合う作品になっている。
音楽的には、ColdplayやKeaneに近いピアノ・ロックの流れを感じさせながらも、The Frayはよりアメリカ的なラジオ・ロックの明快さを持っている。Coldplayがしばしば抽象的な音響や壮大な世界観へ向かうのに対し、The Frayはより具体的な感情、人間関係、対話に焦点を当てる。Keaneがピアノ主体の美しいポップに寄るのに対し、The Frayはギターとドラムによるロック・バンドらしい厚みを保っている。
一方で、本作には弱点もある。楽曲のテンポや構成には似通った部分があり、アルバム全体を通して聴くと、感情のトーンが一定になりやすい。また、実験的な音楽性や大胆なアレンジを期待するリスナーにとっては、保守的に感じられる可能性もある。しかし、The Frayの目的は革新性そのものではなく、感情をできるだけ広い聴き手に届く形で表現することにある。その点で本作は非常に一貫している。
日本のリスナーにとって『The Fray』は、Coldplay、Keane、Snow Patrol、OneRepublic、Lifehouse、Switchfootなどのメロディアスなロックを好む層に適した作品である。特に、ピアノを中心にした感情的なロック、ドラマや映画の挿入歌のようなスケール感、歌詞における喪失や救済のテーマに惹かれるリスナーには届きやすい。派手な技巧や過激なサウンドよりも、歌の誠実さとメロディの強さを重視する作品である。
『The Fray』は、2000年代後半のアメリカン・ポップ・ロックを象徴する一枚であり、バンドがデビュー作の成功を一過性のものにせず、自分たちの音楽性を確立しようとした作品である。大きな変化よりも深化を選び、ピアノ・ロックの枠組みの中で、信仰、疑念、愛、喪失、幸福をめぐる問いを丁寧に描いたアルバムとして評価できる。
おすすめアルバム
1. The Fray – How to Save a Life
The Frayのデビュー作であり、バンドの基本的な音楽性を確立した重要作。ピアノを中心としたポップ・ロック、救済と喪失をめぐる歌詞、親しみやすいメロディが特徴である。『The Fray』を理解するうえで、前作の成功とテーマの出発点を確認できる一枚である。
2. Coldplay – A Rush of Blood to the Head
2000年代ピアノ・ロック/オルタナティヴ・ロックの代表作。ピアノの印象的なフレーズ、感情的なヴォーカル、広がりのあるバンド・サウンドは、The Frayの背景を理解するうえで重要である。The Frayよりも抽象的で英国的な陰影を持つ作品である。
3. Keane – Hopes and Fears
ギターをほとんど使わず、ピアノを中心に構築された英国ポップ・ロックの代表的アルバム。透明感のあるメロディと内省的な歌詞は、The Frayのピアノ・ロック的側面と共通する。より柔らかく美しいポップ・サウンドを求めるリスナーに関連性が高い。
4. Snow Patrol – Eyes Open
2000年代の感情的なロック・バラードを代表する作品。大きなコーラス、恋愛や喪失を扱う歌詞、ドラマティックなサウンドは『The Fray』と近い文脈にある。ラジオ向けロックと叙情性のバランスを知るうえで重要なアルバムである。
5. OneRepublic – Dreaming Out Loud
Ryan Tedderを中心としたOneRepublicのデビュー作。ピアノ、ストリングス的な広がり、ポップ・ロックの明快なメロディを組み合わせたサウンドは、The Frayと同時代のアメリカン・ポップ・ロックの空気を共有している。よりポップ寄りの感覚を持つ関連作として聴くことができる。

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