アルバムレビュー：…The Dandy Warhols Come Down by The Dandy Warhols

発売日: 1997年7月15日
ジャンル: サイケデリック・ロック、オルタナティブ・ロック、ネオ・サイケデリア、ドリーム・ポップ

概要

『…The Dandy Warhols Come Down』は、アメリカ・ポートランド出身のバンド、The Dandy Warholsが1997年にリリースしたセカンド・アルバムであり、彼らの名を一躍インディー・ロック・シーンに広めたブレイクスルー作品である。

前作『Dandys Rule OK』のローファイでガレージ色の強い作風から一転、本作では広がりのあるプロダクションとサイケデリックな音響処理を大胆に導入。
ドリーミーなメロディ、反復するグルーヴ、ナンセンスとシニカルが同居する歌詞など、The Dandy Warholsらしい都会的な退屈さとロックの快楽性を同時に提示するスタイルが確立された。

本作はEMI傘下のCapitol Recordsからのメジャー・デビュー作でもあり、プロデューサーにはイーサン・ジョンズ（Ethan Johns）が参加。
ブリットポップ終盤からアメリカ西海岸の新たな動きまでを巻き込む形で、1990年代後半の“オルタナ・サイケ”を代表する一枚として、多くのミュージシャンに影響を与えた。

また、のちに映画やCMで広く使われることになる「Not If You Were the Last Junkie on Earth」や「Every Day Should Be a Holiday」など、バンドの代表曲が多数収録されており、聴き手の脳裏に残る中毒性と浮遊感が際立つ名盤となっている。

全曲レビュー

1. Be-In

9分超のサイケデリック・ジャムで幕を開ける本作。
轟音ギターと反復するコード、ドラッギーなテンポが、トリップの始まりを告げる。

2. Boys Better

ストレートなロックンロールの中に、性別と欲望のアイロニーが込められた一曲。
キャッチーなコーラスとディストーション・ギターが快楽的。

3. Minnesoter

カントリー調のコードと脱力系ボーカルが混ざり合う、奇妙なサイケ・フォーク。
アメリカ的ルーツとアートロック的距離感が同居する好例。

4. Orange

実験的インストゥルメンタル。
ギターの残響と電子音が交差し、作品全体にリズムと空気感のコントラストを与える。

5. I Love You

甘ったるいタイトルと裏腹に、痛々しくも美しいバラード。
「愛してる」と繰り返すボーカルは、執着や空虚の象徴のようでもある。

6. Not If You Were the Last Junkie on Earth

代表曲のひとつ。
退廃とユーモアのバランスが見事な中毒性のある楽曲で、MTVでのヘビーローテーションも話題に。
“Heroin is so passé”という決め台詞が印象的。

7. Every Day Should Be a Holiday

もうひとつの代表曲。
浮遊感のあるコード進行と、リズムの緩さが心地よい。
怠惰で享楽的なリリックが、バンドの美学を象徴する。

8. Good Morning

タイトル通り、朝の幻のような曲。
ピアノとストリングス、ぼんやりとしたボーカルが夢の中の光景を思わせる。

9. Whipping Tree

ダークでインダストリアルな質感が際立つ異色曲。
歪んだギターと不穏なボーカルが、アルバムにスパイスを加える。

10. Green

ビートルズ的なコード進行とフォーク・ポップの穏やかなバランス。
色彩と感情の連想を引き起こす、ミニマルな美しさがある。

11. Cool As Kim Deal

Pixiesのキム・ディールを称える（あるいは揶揄する？）ポップ・アンセム。
シューゲイザー風ギターと力の抜けた歌声が相まって、皮肉と憧れが混ざり合う。

12. Hard On for Jesus

宗教的テーマを、性的暗喩とともにブラックユーモアで包んだ一曲。
大胆なタイトルに反して、トラック自体はメロウでドリーミー。

13. Pete International Airport

バンドのキーボード奏者にちなんだタイトルで、サウンド的にはモンド風サイケ・インストゥルメンタル。
架空の空港から旅立つような、音響的なトリップ感。

14. The Creep Out

アルバムのラストを飾る幽玄なインスト曲。
徐々にフェードアウトしていく構成が、アルバム全体の陶酔感を見事に締めくくる。

総評

『…The Dandy Warhols Come Down』は、90年代オルタナティブ・ロックの終着点とサイケデリック・ポップの再解釈が出会った場所であり、The Dandy Warholsのイメージを決定づけた作品である。

グラム・ロック、ドリーム・ポップ、アート・ロック、シューゲイザー、アメリカーナ的要素などが絶妙に調合されており、それが商業主義とは距離を置いたまま、大衆にも接近できる特異なポップセンスを生み出している。

ドラッグと退屈、皮肉と快楽、ポップと実験が、緩やかに同居するこのアルバムは、ただの“サイケ風”ではなく、都市の孤独や曖昧な感情を捉えたリアルな音の記録としても評価されるべきだろう。

The Dandy Warholsは、この作品によって“オルタナの異端児”から“新たな美意識の象徴”へと進化したのである。

ビジュアルとアートワーク

本作のアートワークは、白黒の中にサイケ的なタイポグラフィが踊るシンプルな構成。
この“余白の多さ”は音楽の反復性や恍惚感、そしてThe Dandy Warholsのアンチ・グラマラスな姿勢を象徴しているとも言える。

また、バンドのヴィジュアルも、グラムとグランジの中間のようなルックスで、90年代後半の“退廃的クール”を象徴する存在となった。
彼らは“サイケデリック”を単なる懐古ではなく、ポップの態度として再構築したのである。

アルバムレビュー：…The Dandy Warhols Come Down by The Dandy Warhols

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