はじめに
The Charlatans(ザ・シャーラタンズ)は、1990年代のイギリス音楽において、マッドチェスター・ムーブメントの只中から登場し、幾度もの変化を経ながら独自のスタイルを築き上げてきたロックバンドである。
ダンサブルなビート、サイケデリックなオルガン、ロックンロールの衝動、そしてリリックに宿る英国的憂鬱。
彼らの音楽は、常に時代と共振しながらも、自らのグルーヴを失うことなく鳴り続けてきた。
バンドの背景と歴史
The Charlatansは1989年、イングランド中西部のウェスト・ミッドランズにて結成された。
当初はThe Stone RosesやHappy Mondaysといったマッドチェスター勢と並び語られることが多かったが、その中でも彼らは60年代のサイケやアメリカ南部ソウルからの影響を色濃く受け、より“オルガン主体”のサウンドで差異化を図った。
1990年、デビューシングル「The Only One I Know」が全英チャート9位を記録し、一躍注目の的に。
だがその後、メンバーのドラッグ問題やキーボーディストのロブ・コリンズの死といった困難にも直面しながらも、バンドは解散することなく進化を続けていく。
2000年代以降もコンスタントに作品をリリースし、UKロック史における“しぶとく美しい存在”として生き続けている。
音楽スタイルと影響
The Charlatansの音楽は、マッドチェスター期のダンスビートとサイケデリックなギター、レイ・マンザレク(The Doors)のようなオルガンサウンドが絡み合ったハイブリッドなスタイルから始まった。
だが1990年代半ば以降は、ブリットポップのムードも吸収しながら、よりストレートなロックンロールやソウルの要素も取り入れ、年を追うごとに柔軟かつ深みのある音へと変化。
Tim Burgess(ティム・バージェス)の柔らかくも芯のある歌声と、ポップでありながら憂いを孕んだメロディは、常にThe Charlatansらしさを支えてきた。
影響源としては、The Byrds、The Doors、Rolling Stones、Primal Scream、さらにはJames Brown的なグルーヴ感も感じられる。
代表曲の解説
The Only One I Know
彼らの出世作にして、今なお代表曲として知られるナンバー。
1960年代のThe Byrds的ギターと、跳ねるようなリズム、そして印象的なオルガンが絡み合い、ダンサブルながらもサイケな空気を醸し出す。
一度聴けば忘れられないグルーヴと、浮遊感あるサビが魅力。
マッドチェスターの熱狂を凝縮したような楽曲である。
North Country Boy
1997年のアルバム『Tellin’ Stories』収録のキャッチーなナンバー。
ザラついたギターと、ティムのソウルフルなボーカルが印象的。
“田舎者の誇り”を歌ったリリックも英国的で、オアシス以降のブリットポップ文脈でも再評価された名曲。
One to Another
ダンサブルなビートに攻撃的なギターが絡む、The Charlatansの中でも最もアグレッシヴな一曲。
クラブ的高揚感とロックの荒々しさを両立させており、ライブでは常にハイライトとなる。
彼らの“ロックバンドとしての進化”を象徴する楽曲である。
アルバムごとの進化
Some Friendly(1990)
デビュー作にして、マッドチェスター期の空気を完璧に封じ込めた作品。
「The Only One I Know」「Then」など、若々しいエネルギーとダンスビートが前面に出ており、当時のUKクラブカルチャーとロックの架け橋となった。
Between 10th and 11th(1992)
フラッド(Flood)をプロデューサーに迎え、より硬質で内省的なトーンへと進化。
派手さは抑えられたが、音の深みや実験性が増し、The Charlatansの“その先”を示唆する作品となった。
Tellin’ Stories(1997)
バンドの代表作にして、最もバランスの取れた完成度を誇る一枚。
「North Country Boy」「One to Another」「How High」など、ポップ性とグルーヴ感、そして叙情性のすべてが高次元で融合している。
ロブ・コリンズの死という悲劇を乗り越えて作られたアルバムであり、感情の深みも滲む。
Wonderland(2001)
ソウル/ファンク的なアプローチを導入した意欲作。
アメリカのR&Bやヒップホップに影響を受けつつ、ティム・バージェスのファルセットを前面に押し出した、実験的かつ新鮮な方向性を提示した。
Modern Nature(2015)
キーボーディスト、ジョン・ブルックスの死後にリリースされた、哀しみと再生のアルバム。
ストリングスやアコースティックなアレンジが中心となり、バンドとしての成熟と温かみが感じられる作品。
静かに沁みる、“夜明け”のような音。
影響を受けたアーティストと音楽
The Doors、The Byrds、Rolling Stonesといった1960年代のサイケ・ロックやブルース・ロックが彼らの初期を形成。
その後はPrimal ScreamやStone Rosesのダンスミュージックとの融合、さらにはソウルやゴスペルなど、ジャンルを越えて取り入れる姿勢を持ち続けている。
また、バンド内に強い“DJ感覚”があり、クラブカルチャーからの影響も常に感じられる。
影響を与えたアーティストと音楽
The Charlatansは、Oasis、Blur、Kasabian、The Coralなど、後続のUKバンドに対して音楽的・精神的影響を与えた。
特に“踊れるロック”“ファンキーなブリットポップ”という路線においては、先駆的な存在だったと言える。
また、フロントマンのティム・バージェスはソロ活動や書籍、オンラインのレコードクラブ「Tim’s Twitter Listening Party」などを通じて、今なお若い世代のリスナーとアーティストに影響を与え続けている。
オリジナル要素
The Charlatansの独自性は、“移ろいながら変わらないグルーヴ”にある。
時代ごとにサウンドを変えつつも、彼らの根底には常に、グルーヴとメロディ、そして“聴き手の身体を動かす”という意志が流れている。
ティム・バージェスの詩的で人間味のあるボーカルも、バンドの空気感を決定づける大きな要素である。
まとめ
The Charlatansは、マッドチェスターの狂騒を出発点としながら、激動の90年代UKロックを“しなやかに”生き抜いた稀有なバンドである。
派手さはないが、確かな信頼と深みを持ち続けた彼らの音楽は、今聴いても新鮮で、そしてやさしく包み込んでくれる。
時代を超えてグルーヴし続けるロック。
それがThe Charlatansの真の魅力なのだ。
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