アルバムレビュー：The Boomtown Rats by The Boomtown Rats

発売日: 1977年9月23日
ジャンル: パブロック、パンクロック、ニューウェーブ、グラムロック

概要
全曲レビュー
総評
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概要

『The Boomtown Rats』は、アイルランド出身のバンド The Boomtown Rats が1977年にリリースしたデビュー・アルバムであり、パブロックの土台にパンクのエネルギーとグラム的演劇性を加えた、ニューウェーブ前夜の騒々しい胎動を刻んだ一作である。
フロントマンであるボブ・ゲルドフの挑発的なヴォーカルと語り口、そして諷刺と暴力性を内包した歌詞群は、セックス・ピストルズの破壊衝動とは異なる“知的な反抗”の路線として、当時のUKロックシーンで一際異彩を放った。

アイルランドのダン・ダン（Dún Laoghaire）からロンドンに拠点を移した彼らは、セントルイスやキンクスなどの60sポップの影響を受けつつ、“アイリッシュらしい語りの強さと社会的批評精神”を融合させたユニークなスタイルを確立していく。
本作はその第一歩として、パンクの刹那性とポップの構築美の狭間で揺れながらも、強烈なキャラクター性と物語性を備えた“語るロック”として高く評価された。

全曲レビュー

1. Lookin’ After No. 1

デビューシングルにして、Boomtown Ratsの美学を明確に提示したキラーチューン。
“自分のことだけ見ていればいい”というタイトルは、個人主義と資本主義への皮肉としても、パンク的な自己主張としても機能する。
高速ビートとシンコペーションの効いたギターが疾走感を生み出し、ゲルドフのスニーカー越しの咆哮が社会の不条理を蹴り飛ばす。

2. Neon Heart

ニューヨークの夜景のように輝き、だがどこか人工的な“ネオンの心臓”を描くストーリーテリング。
グラムロック的なキーボードとゲルドフのドラマティックな語り口が、シティライフの虚構性と高揚を同時に映し出す。

3. Joey’s on the Street Again

6分を超えるスロー・ナンバーにして、本作中最も文学的な楽曲。
“ジョーイ”という名の少年を通して、脱落者たちの悲しみと暴力の連鎖を描く叙情詩的作品であり、ゲルドフの叙述力が存分に発揮されている。
アコースティックな導入からバンド全体でのクレッシェンドが、人生の昇り坂と転落を見事に音楽化している。

4. Never Bite the Hand That Feeds

“与えてくれる手を噛むな”というタイトルが示す通り、恩恵と支配、服従と反抗の関係性を問う一曲。
パンキッシュなコードと鋭利なギターリフが、支配構造の欺瞞を痛烈に撃ち抜く。
ゲルドフの毒舌が冴える、攻撃的な名曲。

5. Mary of the 4th Form

ミドルテンポで展開するグラム風ポップロック。
“4年生のメアリー”という題材は性的かつ社会批評的で、若年者の性的商品化や学校という制度の歪みをテーマにしている。
キャッチーなメロディとは裏腹に、不穏な視点を内包した楽曲。

6. (She’s Gonna) Do You In

ギターとベースが不協和音的に絡み合い、“破滅的な女性像”を皮肉たっぷりに描いた曲。
トーキングスタイルと断続的なテンポ変化が、不安定な関係性と暴力性を可視化する。
歌詞とサウンドのねじれたバランスがスリリング。

7. Close As You’ll Ever Be

哀しみと怒りが混じった、叙情的でブルージーなナンバー。
“お前に近づけるのはここまでだ”という言葉が、諦念と冷笑を込めて響く。
キーボードとギターが絡み合いながら、感情の泥濘を描写する。

8. I Can Make It If You Can

“君ができるなら、僕にもできる”という言葉の裏にあるのは、励ましと依存の両義性。
繊細なアレンジとハーモニーが、Boomtown Ratsのもう一つの顔――人間関係の揺らぎと希望を映し出す。

9. Never in a Million Years

夢の実現に対する虚無感と挑戦が交錯するパワーポップ。
一見明るく爽快なリフの裏に、“絶対に無理”という言葉が持つ否定性と逆説的エネルギーが潜む。
Boomtown Ratsらしい悲観と希望の同居した一曲。

10. All Through the City (Live)

Dr. Feelgoodのカバーであり、Boomtown Ratsのルーツを感じさせるストレートなパブロック。
ライブ録音でのエネルギーが、“都市”という戦場を駆け抜けるスリルをそのまま閉じ込めている。
パンク前夜の感触を持つ、荒削りで魅力的な締め括り。

総評

『The Boomtown Rats』は、1977年のUKにおいて、パンクロックの熱狂を受け止めながらも、より物語性と知性を伴った“異端のデビュー作”として登場した。
このアルバムには、ロンドンの荒れた街角とアイルランドの語り部精神が共存し、ポップでありながら不穏で、攻撃的でありながら詩的という、Boomtown Ratsならではの矛盾美が詰め込まれている。

後年、ボブ・ゲルドフは音楽界以上に政治的活動で名を馳せるが、ここにあるのは“怒れる若者”としての彼の最初の表現爆発であり、その真摯さと挑戦的な姿勢は、今聴いても色あせない。