That Life by Unknown Mortal Orchestra(2021)楽曲解説

1. 歌詞の概要

「That Life」は、Unknown Mortal Orchestraが2021年にリリースしたシングルであり、2023年に発表されたアルバム『V』にも収録された楽曲である。この楽曲は、表面的にはリラックスしたファンク調のグルーヴが心地よく、夏のビーチや南国を思わせるサウンドが広がるが、歌詞の内容には明確な皮肉と苦味、そして現代社会への問いかけが込められている。

タイトルの“That Life”は、「そういう人生さ」とも訳せるフレーズであり、どこか投げやりで達観した響きを持っている。歌詞は、富や快楽を享受しながらも、心の奥底では何かが欠けていることを知っている人物の視点から描かれており、その人物が「そういう人生だ」と自分に言い聞かせながら現実と折り合いをつけようとする姿が浮かび上がる。

つまりこの楽曲は、快楽主義と虚無感、現代の贅沢と空虚のコントラストを描いた作品であり、楽観的なサウンドに騙されていると、リリックの持つシニカルなメッセージに驚かされるだろう。

2. 歌詞のバックグラウンド

Unknown Mortal Orchestraは、リーダーであるルーバン・ニールソンの個人的経験と哲学をもとに、ジャンルにとらわれない音楽を作り続けてきた。彼はサイケデリック、R&B、ファンク、ローファイ、アートロックなどを独自のスタイルで融合させ、リスナーに心の深部を揺さぶるような作品を提供してきたが、「That Life」では特に資本主義社会における幸福の形とその偽りを批評的に描いている。

ミュージックビデオには、巨大なぬいぐるみの着ぐるみを着たキャラクターが贅沢な暮らしを送りながらも、孤独で不安定な精神状態に陥っていく姿が描かれており、豊かさの裏に潜む孤独と無意味さを視覚的に補完している。これは現代のSNS時代における“表面的な充足”の危うさを象徴する演出として高く評価された。

楽曲の背景には、パンデミックによる人間関係の断絶や、アメリカ西海岸における富と成功の偏在に対する批評的視点も見え隠れしており、多幸感の裏側にある現実を音楽というメディアで捉え直そうとする試みが感じられる。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「That Life」の印象的な歌詞を抜粋し、日本語訳を併記する。

She wants to be somebody
彼女は“誰か”になりたがっている
Who can’t be replaced
替えのきかない存在に

She’s taking vitamins
彼女はビタミンを摂って
Drinking smoothies in the morning
朝にはスムージーを飲んでいる
But she just can’t shake that feeling
だけど、どうしてもこの気持ちは消せない

That life
それが人生ってやつだろ

出典:Genius – Unknown Mortal Orchestra “That Life”

4. 歌詞の考察

「That Life」の歌詞は、一見して日常的で、むしろ幸福であるかのような描写から始まる。「ビタミンを摂る」「スムージーを飲む」「健康的な生活を送る」といったフレーズは、現代のウェルネス文化や自己啓発的な生活習慣を象徴している。しかし、そこにあるのは満足ではなく、「なにかが満たされない感覚」「常に自分を“アップデート”し続けなければならないというプレッシャー」だ。

「She wants to be somebody who can’t be replaced(彼女は替えのきかない存在になりたがっている)」という一節には、現代社会におけるアイデンティティの不安や、他者との競争に疲弊する感覚が投影されている。見えない比較の中で、誰もが「特別でありたい」と願いながら、実際にはその願いが消耗へとつながっている。

サビの「That life」というフレーズは、ある種の諦観を伴って繰り返されることで、幸福のステレオタイプに対する冷めたまなざしを浮き彫りにする。「そういうもんさ」と自嘲気味に言い聞かせることで、語り手は不安を隠し、表面的な快楽の中で生きる術を模索しているのだ。

楽曲全体が軽快で洒脱なサウンドで構成されているため、耳心地は非常に良い。しかしその裏には、“現代的な空虚”への鋭い批評性が通底しており、聴き進めるほどにリスナーはその二重構造に気づかされる。この矛盾こそが、「That Life」の最大の魅力であり、芸術性である。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Instant Destiny by Tame Impala
    自己実現と虚無感のあいだで揺れる意識を描いた、モダン・サイケの傑作。

  • Lost in Yesterday by Tame Impala
    過去への執着と時間の流れをテーマにした、軽やかさと切なさが交錯する一曲。

  • Seasons (Waiting on You) by Future Islands
    感情の変化と愛の不確かさをシンセ・ポップで昇華した名曲。

  • Digital Witness by St. Vincent
    社会的承認欲求と自己喪失をテーマにした、皮肉なリリックとファンクが融合した楽曲。

  • Losing My Edge by LCD Soundsystem
    “時代遅れ”への恐れと文化的優越感を痛烈に風刺した、ポストモダンな名トラック。

6. 見せかけの幸福と、その裏側にある真実——「That Life」に込められた現代批評

「That Life」は、Unknown Mortal Orchestra美しくも苦い人生の一幕を音楽に変換した作品である。南国のバカンスのようなビート、ファンキーなギター、ソウルフルなボーカルの背後には、**幸福という名の“重圧”**がひそんでいる。

現代人が目指す「理想のライフスタイル」は、本当に望んでいるものなのか。それとも、“そうするべき”という幻想の中に生きているだけなのか。この曲は、その問いを明確に言葉にすることなく、語り口のユーモアと音楽の開放感を借りて、静かに問題を浮き彫りにしていく

それは、楽しくて、切なくて、そしてちょっと怖い。そんな「That Life」は、ただのサマー・アンセムではない。私たちが生きるこの時代の“鏡”であり、“風刺画”であり、“慰め”でもあるUnknown Mortal Orchestraはここで、“軽やかに生きることの重さ”を、誰よりも美しく描いてみせたのである。

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