発売日: 1985年
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、カレッジロック、フォークパンク、スカ
- ジャンルを越境するユーモアと知性——80年代アンダーグラウンドの異端児たち
- 全曲レビュー
- 1. Border Ska
- 2. The Day That Lassie Went to the Moon
- 3. Wasted
- 4. Yanqui Go Home
- 5. Oh No!
- 6. Balalaika Gap
- 7. Mao Reminisces About His Days in Southern China
- 8. Tina
- 9. Payed Vacation: Greece
- 10. Where the Hell is Bill?
- 11. Vladivostok
- 12. Skinhead Stomp
- 13. Tina (Reprise)
- 14. Take the Skinheads Bowling
- 15. Opi Rides Again/Club Med Sucks
- 16. Colonel Enrique Adolfo Bermudez
- 総評
- おすすめアルバム
ジャンルを越境するユーモアと知性——80年代アンダーグラウンドの異端児たち
1985年、カリフォルニアの大学街出身のバンドCamper Van Beethovenが放ったデビュー作 Telephone Free Landslide Victory は、オルタナティヴ・ロックの地平を広げる挑戦的な一枚である。
当時のUSインディー・シーンでは、R.E.M.やMinutemenといったバンドがカレッジラジオで注目を集めていたが、本作はその中でも異彩を放つ存在だった。
サーフロック、フォーク、スカ、サイケ、カントリー、さらには中東音楽風の要素までを自在に織り交ぜ、なおかつそれらがすべて「冗談のように見えて、実は鋭い」知的なセンスに裏打ちされていたのだ。
リーダーのDavid LoweryはのちにCrackerでも成功を収めるが、この時点ですでに彼のアイロニーとメロディセンスは完成されていた。
Telephone Free Landslide Victoryは、アメリカン・インディーロックのひとつの源流として、今なお多くのミュージシャンに影響を与えている。
全曲レビュー
1. Border Ska
陽気なスカビートが印象的なオープナー。
カリフォルニアの国境地帯を思わせるサウンドだが、どこか「何かがずれている」ユーモアが漂っている。
2. The Day That Lassie Went to the Moon
牧歌的なメロディと、突拍子もない歌詞が絶妙に融合する。
“ラッシーが月に行った日”という奇妙な物語に、どこかノスタルジックな哀愁が滲む。
3. Wasted
ブラック・フラッグの曲をカバーしながら、まったく異なるテンポとアレンジに仕立てた異色の一曲。
パンクへの皮肉か、愛か——その曖昧さもこのバンドの魅力である。
4. Yanqui Go Home
中東風の旋律とサーフギターが交錯するインスト。
アメリカの対外政策への皮肉とも受け取れる、政治的な含意が感じられるタイトル。
5. Oh No!
テンポの速いナンバーで、若さと不安、混乱がそのまま音になったような一曲。
6. Balalaika Gap
ロシア風の旋律に乗せて、冷戦下の政治状況をちゃかすような風刺的インスト。
アコースティックな響きが、どこかパロディにも聴こえる。
7. Mao Reminisces About His Days in Southern China
毛沢東が南中国での思い出を語る…?
そんな妄想をトラディショナルなアジアン・モチーフで包み込んだ怪作。
8. Tina
わずか30秒ほどのインスト小品。
アルバム全体の構造をゆるやかにつなぐブリッジ的な役割。
9. Payed Vacation: Greece
スライドギターが哀愁を帯びた旅情を誘う。
“有給休暇でギリシャ”という設定が、アメリカンなアイロニーを思わせる。
10. Where the Hell is Bill?
パンキッシュなテンポとコミカルな問いかけが冴える。
Billは誰で、どこにいるのか?その謎を巡って音が駆け巡る。
11. Vladivostok
極東ロシアの都市をタイトルに冠したインスト。
地理的なイメージを喚起させる奇妙で異国情緒のあるメロディが特徴。
12. Skinhead Stomp
スカとパンクの中間を突き進む一曲。
タイトルにはサブカルチャーへの示唆も感じられる。
13. Tina (Reprise)
再び現れる”Tina”。アルバムのモチーフをゆるやかに反復し、緩やかな構造美を築く。
14. Take the Skinheads Bowling
バンド最大の“ヒット曲”。
キャッチーなメロディに、皮肉たっぷりの歌詞。
「スキンヘッドをボウリングに連れて行こう」という無意味にも思えるフレーズに、80年代中盤の米国サブカルチャーの混沌が投影されている。
15. Opi Rides Again/Club Med Sucks
ツアーと観光資本主義への風刺が滲む。
後半はレゲエ調に展開し、軽やかながらも毒のあるサウンドに。
16. Colonel Enrique Adolfo Bermudez
ニカラグア内戦を指揮した実在の人物を皮肉るタイトル。
音楽はカリブとラテンのエッセンスが混ざり合い、風刺性を増幅させている。
総評
Telephone Free Landslide Victoryは、音楽的にはとらえどころのないようでいて、強烈な美学に貫かれた作品である。
ジャンルを自在に横断し、ユーモアと政治性、アイロニーとポップネスが一体となったこのアルバムは、のちのオルタナティヴ・バンドたちに多大な影響を与えた。
たとえばThey Might Be GiantsやBeck、さらにはNeutral Milk Hotelなども、この自由な精神に触発されたアーティストたちである。
ある意味で、これは「脱ジャンル」の先駆けなのだ。
そして、その裏には、アメリカという大国の文化的断片を笑い飛ばしながら愛する、静かで深い知性が潜んでいるようにも思える。
おすすめアルバム
- Cracker / Cracker
David Loweryの次なるプロジェクト。より骨太なロックに傾倒しつつも、皮肉と知性は健在。 - They Might Be Giants / Lincoln
ジャンルの境界を軽やかに飛び越える知的ポップ。風変わりなユーモアが光る。 - Beck / Mellow Gold
フォークとヒップホップ、スラッカー文化をミックスしたオルタナ名盤。ユーモアと孤独が交差する。 - Violent Femmes / Violent Femmes
アコースティック・パンクの金字塔。青年期の焦燥をむき出しで描いた原点。 - The Dead Milkmen / Big Lizard in My Backyard
パンクとユーモアを融合させたインディーシーンの異端児。CVBと同じ精神を持つバンド。
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