Tame by Pixies(1989)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Tame」は、Pixiesの代表作であるセカンド・アルバム『Doolittle』(1989年)に収録された、最も激烈で凄まじい衝動を孕んだ楽曲のひとつである。

曲名の「Tame(飼いならされた、従順な)」という言葉には、抑圧された何かが蓄積されているような不穏な響きがある。実際、歌詞の中ではその言葉が何度も反復され、主人公の内部に渦巻く怒りや皮肉、暴力性が、爆発的なエネルギーとして吐き出されていく。

Pixiesの音楽的特徴である“ラウド・クワイエット・ラウド”(静と爆発の交錯)を極限まで押し広げたこの曲では、囁きのようなヴァースが緊張を高め、その後のサビで一気に怒声と轟音へと切り替わる。わずか2分足らずの短い楽曲でありながら、その密度と衝撃は、まるで音楽が拳になって殴りかかってくるような凄みを持っている。

2. 歌詞のバックグラウンド

Pixiesのボーカル兼ソングライターであるBlack Francis(フランク・ブラック)は、この曲において、性的なフラストレーション、自己嫌悪、そして社会的な“従順さ”への嘲笑といったテーマを歌っているように思える。

「Tame」は、表向きには非常にシンプルな構成と歌詞を持つが、その反復とデリバリーの異常性によって、次第に聴き手の中に異常な緊張を生み出していく。楽器の演奏も最小限に抑えられたミニマリズムを基盤としながら、Kim Dealの低くドライなベースラインとDavid Loveringのタイトなドラムが、殺気立った空気を支えている。

この曲が生まれた1989年という時代背景を考えると、インディー・ロックがよりエクストリームな表現を模索していた中で、Pixiesのこのようなアプローチは、Nirvanaをはじめとする次世代アーティストへの重要な布石となっていたことは間違いない。

3. 歌詞の抜粋と和訳

引用元:Genius Lyrics – Pixies “Tame”

Tame, Tame / Tame, Tame
飼いならされてる、お前は飼いならされてる

You’re so pretty when you’re unfaithful to me
君は浮気してるときの方が魅力的だよ

You’re so pretty when you’re unfaithful to me
俺を裏切ってるその顔が、たまらなく美しい

You’re so pretty when you’re unfaithful to me
浮気してるときの君は、まるで人間じゃないみたいだ

Tame! TAME!
従順な奴が! 飼いならされた奴が!

4. 歌詞の考察

「Tame」の歌詞は、一見単純なリフレインの連続で構成されているように見えるが、その背後には強烈な皮肉とフラストレーションが渦巻いている。

“浮気しているときの君は美しい”という繰り返しは、恋人に対する矛盾した欲望、愛と憎しみの同居を示している。そこには性的な興奮と軽蔑、自分への嫌悪と他者への依存という、複雑な感情の交錯が表れている。

そしてサビにおける「Tame!」の叫びは、その内面の複雑さを、感情の爆発として一気に吐き出す役割を果たしている。これは恋人に対するものかもしれないし、社会に対する怒りかもしれない。あるいは自分自身に向けた叫びでもあるのかもしれない。

「Tame」とは、野性を失った存在、つまり“抑圧された人間像”のメタファーだ。それに対して語り手は反発し、破壊衝動を隠すことなくぶつける。Pixiesが描くのは、私たちが日常の中で押し殺している獣性や欲望、そしてそれを自覚したときの居心地の悪さと快感なのである。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Territorial Pissings by Nirvana
    野性的な怒りと反骨精神が炸裂する一曲。Pixiesから直接的な影響を受けたNirvanaの本質が凝縮されている。

  • Death to the Pixies by Pixies
    ベスト盤のタイトルにもなったコンセプチュアルなトラック。自虐性と暴力性のバランスが「Tame」と共鳴する。

  • Freak Scene by Dinosaur Jr.
    曖昧な関係性と疎外感を、ノイジーなギターとともにぶちまけた楽曲。Pixiesと同時代に共鳴しあったインディー精神が感じられる。

  • TV Eye by The Stooges
    攻撃的でアニマル的、原始的なロックンロールの名曲。Pixiesの獣性に近いルーツがここにある。

6. 叫びとしての音楽、あるいは“静かなる怒り”のかたち

「Tame」は、Pixiesの“音楽としての怒り”が最も剥き出しになった曲であり、それが暴力的な音量やスピードによらず、構成とリズム、そして言葉の繰り返しによって実現されている点が驚異的である。

この曲を聴くことは、感情の境界線に立たされることでもある。そこには明確な出口も答えもなく、ただ“叫び”という行為そのものに身を委ねるほかない。フランク・ブラックの声は言語ではなく、身体の奥から絞り出される“原始的な情動”として響き、リスナーの無意識に直接触れてくる。

このような曲が『Doolittle』という名盤の中に収められていることは、このアルバムがいかに多面的で、破壊と美、狂気と詩情が共存している作品であるかを改めて証明している。

「Tame」は、暴力的で過激で、そしてどこまでも“人間的”な楽曲である。それは私たちの中にも潜む何かを、無理やり引きずり出す力を持っているのだ。

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