1. 歌詞の概要
「Swastika Eyes」は、1999年にリリースされたPrimal Screamのアルバム『XTRMNTR(エクスターミネーター)』に収録された、バンド史上最もアグレッシブかつポリティカルな楽曲のひとつである。そのタイトルからも明らかなように、この曲はナチスの象徴である「鉤十字(Swastika)」を比喩として用い、現代社会における監視、権力、暴力、情報操作、軍事化といった構造的な暴力を激しく糾弾する。
歌詞は非常に直接的で、怒りと警鐘に満ちている。反資本主義、反帝国主義、反マスメディアという明確な立場を持ち、腐敗した政治的権力と結びついた企業、軍隊、そしてそれを隠すメディアを「スワスティカ・アイズ=鉤十字の目」として描いている。これは、目に見えないファシズムの形──すなわち、市民を支配する“優しげな”暴力──を象徴する言葉である。
音楽的にもリリース当時のシーンにおいて異質なほど攻撃的で、リスナーにとって心地よい聴取体験ではなく、むしろ意図的に不快さを伴う“暴力的なサウンド”が用いられている。それは、内容と音響の両方で「目を覚ませ」と叫ぶ、異例のプロテストソングとなっている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Swastika Eyes」は、1990年代末のグローバル化、監視社会、そして資本の暴走に対するPrimal Screamの強烈なリアクションとして書かれた。タイトルは極めて挑発的だが、バンドが意図したのはナチズムの美化ではなく、現代社会に潜む“無意識のファシズム”を暴くことである。
この曲には2つのバージョンが存在する。ひとつはThe Chemical Brothersによる「Chemical Brothers Mix」、もうひとつはJagz Koonerによる「Jagz Kooner Mix」で、後者がアルバムに収録されたバージョンである。いずれもインダストリアル、ブレイクビーツ、エレクトロニック、ノイズロックなどを融合したアグレッシブな音像で、当時のレイヴ/クラブ・カルチャーとも一線を画す、強い政治的メッセージを持った作品となっている。
バンドのフロントマンであるボビー・ギレスピーは、かねてより政治的な発言を繰り返しており、「Swastika Eyes」はその思想が音楽として最も明確な形をとった瞬間だった。『XTRMNTR』というアルバム全体が一貫して権力への怒りと抵抗をテーマにしており、本曲はその中核を担う。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下は「Swastika Eyes」の象徴的な一節(引用元:Genius Lyrics):
You got the money, I got the soul
お前らは金を持ってる 俺は魂を持ってる
Can’t be bought, can’t be owned
俺は買えないし、支配もされない
You got the guns, got the bombs
お前らは銃を持ってる、爆弾を持ってる
Got the money, got the control
金もある、支配力もある
Swastika eyes
スワスティカ・アイズ(鉤十字の目)
They’re watching you
奴らはお前を監視してる
They’ve got control
奴らはすべてを支配している
この繰り返されるフレーズ群は、スローガンのように響き、まるでプロパガンダの反転のような効果を持つ。ギレスピーのヴォーカルは叫びに近く、リスナーに問いかけるというよりも、叩きつけるように真実を暴露する。
4. 歌詞の考察
「Swastika Eyes」は、近代国家やグローバル企業が行っている暴力や監視を、ナチズムのメタファーを通じてあからさまに暴露するプロテスト・ソングである。ここで使われる「スワスティカ」は、歴史的な象徴というよりも、目に見えないファシズム=市民を服従させるシステムの隠喩である。
特に「You got the guns, got the bombs」というラインは、武力や経済力による世界の支配構造を象徴しており、「Swastika eyes」=すべてを見張る監視者は、その支配を視覚的・感覚的に表現したものである。彼らが「目」であるというのは、視覚文化と監視社会が不可分であることを示唆している。
さらに、「Can’t be bought, can’t be owned」というラインに現れる語り手の姿勢は、明確な反抗の意思表示である。資本に屈しない、暴力に屈しない、自由を放棄しない──そうした“魂の抵抗”がこの曲のコアにある。
リスナーがこの楽曲に接するとき、ただ“かっこいい曲”として消費するのではなく、「誰が情報を操作し、誰が世界を見張っているのか?」という根源的な問いを突きつけられる。まさにこの曲は、ポップ音楽が持ち得る政治性の極限を提示している。
(歌詞引用元:Genius Lyrics)
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Testify by Rage Against the Machine
メディアと権力に対する怒りを、攻撃的なロックとヒップホップの融合で表現した代表的なプロテストソング。 - Idioteque by Radiohead
世界の終焉と情報の不安を、電子音と断片的な歌詞で描いた、近未来的な焦燥の音楽。 - The State I Am In by Belle and Sebastian
一見繊細なフォークソングながら、宗教と支配についての内省を描いた、静かな抗議。 - Come to Daddy by Aphex Twin
ノイズと映像による不安の視覚化。現代社会における暴力性を音響的に体現した実験的作品。 - Black Steel by Tricky(Public Enemyのカバー)
軍隊への反抗、黒人の囚人化をテーマにした政治的ヒップホップを、トリップホップの文脈で再解釈した傑作。
6. 音楽と政治の最前線:「XTRMNTR」時代の叫び
「Swastika Eyes」は、Primal Screamというバンドが単なるサイケデリック・ロックの枠を超え、政治的表現の領域へと突入した瞬間を象徴する作品である。1990年代末、冷戦の終結とともに“自由”が約束されたかのように思われた世界で、逆に強まる監視、情報操作、権力の集中。そんな空気の中で、この曲はただの警鐘ではなく、「音楽による武装」として機能した。
アルバム『XTRMNTR』全体もまた、暴力的、急進的、そして怒りに満ちているが、それは単なる怒鳴り声ではない。理性と直感が共鳴するような、サウンドとメッセージの融合がそこにある。「Swastika Eyes」は、その象徴として、今日でもなお“目を背けられない現実”を突きつけてくる。
この曲を聴くとき、私たちは同時に問い直される。「お前は誰の目でこの世界を見ているのか?」「誰に監視され、誰のために生きているのか?」──その不快な問いに、目をそらさずに立ち向かう。それこそが、この楽曲の最も強烈なメッセージなのである。
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