発売日: 2022年4月8日
ジャンル: インディーロック、オルタナティブロック
概要
『Sunflower: Deluxe』は、Briston Maroneyが2021年リリースのデビューアルバム『Sunflower』に新たな楽曲やアコースティックバージョンを加えて再構成したデラックスエディションである。
オリジナル版『Sunflower』は、成長、葛藤、希望といった普遍的なテーマをエモーショナルに描き出し、インディーシーンで高い評価を得た。
その成功を受けてリリースされた本作は、単なる付け足しに留まらず、Briston Maroneyというアーティストの内面をさらに掘り下げ、彼の音楽的レンジと感情表現をより深く味わえる内容になっている。
新曲とアコースティックテイクが加わったことにより、アルバム全体のストーリー性がより豊かに広がり、聴き手は「迷いながらも光を求める」という彼の旅路を、さらに親密に追体験することができる。
『Sunflower: Deluxe』は、オリジナル盤のファンにとっても、Briston Maroneyという存在を新たな角度から知る貴重な一枚である。
全曲レビュー
1. Sinkin’
荒々しいギターとエモーショナルなボーカルが、アルバムの幕開けを飾る。
内なる焦燥感をストレートにぶつけた、強烈なインパクトを持つオープニング。
2. Bottle Rocket
逃避と自由への渇望を描いた爽快なナンバー。
疾走感の中に、かすかな寂しさが滲む。
3. Freeway
無限に広がる道と、自分探しの旅路を重ね合わせたロードソング。
広がりのあるアレンジが心を開放させる。
4. It’s Still Cool If You Don’t
「変わらなくてもいい」という優しい肯定をテーマにした、フォーキーなミディアムテンポ曲。
リラックスした空気感が心地よい。
5. Deep Sea Diver
内面世界を深海に喩えた、叙情的なハイライト。
徐々に感情が膨れ上がるドラマティックな展開が見事である。
6. Why
短くも爆発力のあるラウドな一曲。
生々しいエネルギーと叫びに近いボーカルが印象に残る。
7. The Kids
青春のきらめきと哀しみを同時に描き出す、叙情的なインディーロック。
甘酸っぱくもほろ苦い余韻を残す。
8. Cinnamon
穏やかなラブソング。
温もりを象徴する「シナモン」のイメージが、アルバム全体のトーンに優しさを添えている。
9. Say My Name
存在の確認と承認欲求をテーマにしたエモーショナルなナンバー。
ギターのきらめきと、切実なリリックが交差する。
10. Flower
静かな希望を歌う、アルバムのクロージングナンバー。
向日葵のように、太陽に向かって伸びていこうとする意志が感じられる。
11. Paradise
デラックス版で追加された新曲。
逃避と理想への憧れをテーマにしつつ、現実の不完全さを受け入れる姿勢がにじむ。
シンプルなアレンジが、リリックのリアルさを引き立てている。
12. Breathe (Demo)
未発表デモ音源。
ラフなサウンドながら、感情の揺らぎがそのまま閉じ込められており、Bristonの素顔に触れられる貴重な一曲。
13. It’s Still Cool If You Don’t (Acoustic)
原曲のフォーキーさをさらに研ぎ澄ましたアコースティックバージョン。
素朴なギターとボーカルだけの構成により、リリックの優しさがいっそう際立つ。
総評
『Sunflower: Deluxe』は、オリジナルの『Sunflower』が持つテーマと感情の流れをさらに深く、豊かに拡張した作品である。
Briston Maroneyは、自身の内面と丁寧に向き合い、成長と葛藤のリアルなプロセスを音楽として誠実に描き続けている。
追加曲「Paradise」やデモ音源「Breathe」など、新たに加えられた楽曲たちは、アルバムの物語性を広げると同時に、彼の持つ未完成さ＝人間らしさをより際立たせている。
また、アコースティックバージョンによって、原曲に込められた感情のピュアな核があらわになり、リスナーはより親密な距離で彼の世界に触れることができる。
『Sunflower: Deluxe』は、迷いながらも光を求め続けるすべての人に、静かに、しかし力強く寄り添うアルバムなのである。
おすすめアルバム（5枚）
- Sam Fender『Hypersonic Missiles』
若さと不安、希望を高らかに歌い上げるロック作品。 - Wallows『Tell Me That It’s Over』
青春の揺らぎを瑞々しく描いたインディーロック。 - Phoebe Bridgers『Punisher』
繊細な内省と広がるサウンドスケープの融合。 - Dayglow『Harmony House』
ポップセンスと内省的リリックのバランスが美しい。 - Mt. Joy『Rearrange Us』
温かみのあるメロディと人生観を歌うモダンフォークロック。
制作の裏側（Behind the Scenes）
『Sunflower: Deluxe』では、オリジナル盤のセッションから生まれた未発表曲や、別アレンジバージョンが選ばれて収録された。
プロデューサーのJohn Congletonと共に、楽曲本来の温度感を壊さないよう慎重に仕上げられており、特にアコースティック曲では「一発録りに近いライブ感」を大切にしている。
また、Briston自身がアートワークやコンセプト作りにも深く関与しており、『Sunflower』という作品世界を自らの手で拡張・補強していく過程そのものが、『Deluxe』盤の意義となっている。
このような制作姿勢は、Briston Maroneyの「誠実なアーティスト」としての在り方を強く感じさせるものなのである。
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