発売日: 2015年9月18日
ジャンル: ポストパンク、インディーロック
カナダのポストパンクバンドOughtによる2作目のアルバム『Sun Coming Down』は、前作『More Than Any Other Day』からさらに一歩踏み込んだ、冷徹で鋭利な視線が感じられる作品である。デビュー作の熱狂と日常的なテーマを引き継ぎつつも、本作はより暗く、実験的なサウンドに満ちている。アルバム全体を通じて、不安と緊張が高まる展開が多く、聴き手を混沌とした精神世界へと誘うような独特の雰囲気が漂う。
プロデューサーには再びマット・マットランドが参加し、無骨で歪んだギターサウンドや、感情を抑えながらもどこか挑発的なボーカルが一層際立つようなアレンジが施されている。前作同様、レーベルConstellation Recordsからのリリースであり、商業的な成功とは異なる次元でのアート性やメッセージ性が重視されている。ティム・ダーシーの尖ったボーカルや、リズムセクションの変拍子と不協和音が作り出す圧倒的な緊張感は、社会のルールや日常のルーチンへの冷笑的な視点を反映している。
トラック解説
1. Men for Miles
アルバムのオープニングトラックで、疾走感あるドラムとカッティングの効いたギターがリスナーを引き込む。ティム・ダーシーのボーカルは、まるで叫ぶように響き渡り、日常の反復や無意味さへの憤りを感じさせる。重厚なサウンドと歌詞の皮肉が相まって、日常を超えるエネルギーが充満している。
2. Passionate Turn
この曲は、リズムの緩急とミニマルなアレンジが印象的。ダーシーのボーカルがひときわ控えめに抑えられ、まるで感情を押し殺すかのような冷ややかさが漂う。ゆったりとした進行に緊張感が宿り、曲が進むにつれて焦燥感が増していく感覚は、聴く者の心を揺さぶる。
3. The Combo
不穏なイントロから始まり、断続的なギターと絡み合うベースラインが、まるで一貫したテーマを拒むように展開する。歌詞には、現実に対する漠然とした不安や疎外感が含まれており、その不安がリズムにも反映される。緊張感を保ちつつも、どこか狂気的な一面が見える楽曲だ。
4. Sun’s Coming Down
アルバムの表題曲でもあるこのトラックは、暴力的ともいえるほど激しいリズムが印象的で、バンドのエネルギーが最大限に発揮されている。「太陽が沈む」というテーマは、日々の終わりを暗示し、どこか避けられない破滅的な予感を与える。ギターとドラムが一体となってサウンドの波を作り、リスナーに強烈な印象を残す。
5. Beautiful Blue Sky
約7分に及ぶ本作のハイライト的な楽曲で、ティム・ダーシーの独特なボーカルスタイルが最大限に発揮されている。「How’s the family?」「Fancy seeing you here!」といった皮肉めいたリフレインが続き、平凡な会話の裏に潜む虚無感が伝わってくる。反復的なメロディと冷淡なフレーズが、現代社会の皮肉をまざまざと感じさせる。
6. Celebration
シンプルなリズムに支えられた、内省的な一曲。音数が少なく、ダーシーのぼそぼそとしたボーカルが曲全体を支配している。タイトルとは裏腹に、どこか沈んだ雰囲気が漂い、祝祭というよりも孤独や疎外感が滲み出ている。曲が進むにつれて、徐々に盛り上がりを見せるが、決して解放感には至らない。
7. On the Line
このトラックはギターとドラムが絡み合い、終始繰り返しながらも少しずつ変化する構成が特徴。歌詞には決断や危機の瞬間を暗示するような表現が散りばめられ、ティム・ダーシーがしっかりとリズムに乗り、焦燥感が一層高まる。この曲の不安定なエネルギーが、アルバム全体の雰囲気をさらに強調している。
8. Never Better
アルバムの最後を締めくくるこの曲は、激しいビートと不穏なギターがぶつかり合う、まるでカオスの中で解放を探すかのようなサウンド。タイトルの「Never Better」が、皮肉と諦観のように響き、全てを受け入れるようなフィナーレを感じさせる。力強いエンディングが、リスナーの中に強烈な余韻を残す。
アルバム総評
『Sun Coming Down』は、Oughtがそのスタイルを確立しつつ、さらに複雑で挑戦的なサウンドへと深化した作品である。冷徹な視点で社会や日常を見つめ、破壊的なエネルギーと抑圧された感情が交錯する楽曲が揃っている。暗い予感を孕みながらもどこか皮肉めいた軽快さがあり、リスナーに現代社会の冷淡な一面を突きつけるような迫力がある。各曲に込められたメッセージと、緻密に計算されたサウンドが見事に融合しており、Oughtの実力と革新性が強く感じられるアルバムだ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
The Argument by Fugazi
硬派なポストハードコアサウンドと社会的メッセージが詰まった一作。鋭利な歌詞とテンションの高い楽曲は、Oughtのファンにとっても聴きごたえがある。
Unknown Pleasures by Joy Division
ポストパンクの原点ともいえるアルバム。冷たいサウンドと内省的な歌詞がOughtの世界観に通じ、感情の深い部分に訴えかけてくる。
Turn On the Bright Lights by Interpol
陰鬱で美しいメロディラインが特徴のこのアルバムは、Oughtと同じく内面の葛藤や疎外感をテーマにしている。深いリリックと緊張感あふれるサウンドが共通点だ。
Room Inside the World by Ought
バンドの進化が感じられる3作目で、サウンドにさらなる深みが加わっている。『Sun Coming Down』に共感するリスナーなら、次のステップとしてこのアルバムも必聴。
Masseduction by St. Vincent
アートポップの傑作であり、社会への鋭い視点と挑発的な表現がOughtの精神と共鳴する作品。ポップでありながらも冷ややかな風刺が感じられる点が似ている。
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