発売日: 1977年12月
ジャンル: エレクトロニック / プロトパンク / ノーウェーブ
Suicideは、ニューヨーク出身のデュオSuicideによるセルフタイトルのデビューアルバムであり、エレクトロニック・ミュージックとパンク精神を融合させた革新的な作品だ。アラン・ヴェガ（ボーカル）とマーティン・レヴ（キーボード、ドラムマシン）によるこのアルバムは、当時のパンクシーンと一線を画し、電子音楽とアバンギャルドなアプローチで新たな地平を切り開いた。
このアルバムが持つ無機質な電子音、暴力的なまでに生々しいヴェガのボーカル、そして反復される冷酷なリズムは、1970年代後半の混沌とした社会情勢を反映している。同時に、未来のノイズロック、シンセポップ、インダストリアルなどのジャンルに多大な影響を与えた。
トラック解説
1. Ghost Rider
アルバムの幕開けを飾る名曲で、シンプルなシンセベースと冷たいドラムマシンのビートが疾走感を生む。アラン・ヴェガのシャウトするようなボーカルが、「ゴーストライダー」というアンチヒーローの孤独を表現しており、退廃的な美学が際立つ一曲だ。
2. Rocket U.S.A.
ゆったりとしたリズムと、不吉さを感じさせるシンセサウンドが特徴の楽曲。アメリカ社会への皮肉と不安感が歌詞に滲み出ている。「ロケット」という象徴が、技術的進歩とそれに伴う破滅の可能性を暗示する。
3. Cheree
このアルバムの中では比較的ロマンチックなトラック。ミニマルなシンセと、ヴェガの柔らかいボーカルが官能的な雰囲気を醸し出している。「Cheree」という名前を繰り返す歌詞が、儀式的で催眠的な効果を生んでいる。
4. Johnny
暴力的なエネルギーを感じさせる一曲で、ヴェガのボーカルが叫びや嘆きのように聞こえる。サウンドはミニマルながらも攻撃的で、不安定なリズムが緊張感を生み出している。
5. Girl
シンプルなビートとシンセがメロディを支える中、ヴェガのボーカルが直感的で自由な表現を見せる。歌詞は抽象的で、聴く者にさまざまな解釈を許す。
6. Frankie Teardrop
アルバムのハイライトにして、最も衝撃的な楽曲。10分を超えるこのトラックは、一人の労働者「フランキー」が追い詰められ、家庭内の悲劇を引き起こすストーリーを描いている。反復される無機質なビートと、ヴェガの狂気じみた叫びが聴く者に恐怖と緊張を与える。聴き終えた後の余韻は凄まじく、今なお議論を呼ぶ問題作である。
7. Che
アルバムを締めくくるこのトラックは、他の楽曲とは異なり、アンビエント的で神秘的な雰囲気を持つ。反復的なシンセサウンドが流れる中、ヴェガが囁くようなボーカルで「Che」を唱え、アルバム全体の緊張感を静かに終わらせる。
アルバムの背景: ニューヨークのカオスと未来への挑戦
1970年代のニューヨークは、経済的混乱と犯罪の増加に苦しむ一方、アートや音楽の実験的シーンが活況を呈していた。Suicideは、当時のパンクバンドとともにCBGBやMax’s Kansas Cityといったライブハウスで活動しながら、従来のバンド編成に縛られないエレクトロニック・ミュージックを追求した。
アラン・ヴェガのステージパフォーマンスはしばしば暴力的で挑発的であり、観客の反感を買うことも少なくなかった。しかし、この挑発的な姿勢こそがSuicideの音楽の本質であり、その後の音楽シーンに多大な影響を与えることになった。
アルバム総評
Suicideは、音楽史において先駆的な位置を占める作品だ。その無機質でミニマルなサウンドと暴力的なまでに生々しい表現は、リリースから何十年を経ても色褪せることがない。ときに聴く者を不快にさせるその音楽は、心地よいメロディやカタルシスを提供するのではなく、現代社会の冷たさや人間の暗部を鋭く突きつける。挑戦的な作品でありながら、その影響力は計り知れない。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
The Idiot by Iggy Pop
シンプルで冷たいサウンドと内省的な歌詞が、Suicideと共通点を持つアルバム。
Unknown Pleasures by Joy Division
暗く無機質なサウンドと、人間の孤独や苦悩を描いた歌詞が共鳴する。
The Velvet Underground & Nico by The Velvet Underground
アンダーグラウンドな実験精神と芸術的アプローチが影響を与えた作品。
Closer by Joy Division
冷たさとドラマ性を持ち、Suicideの世界観に通じる作品。
Hex Enduction Hour by The Fall
攻撃的でアバンギャルドなアプローチが、Suicideのファンにも刺さる一枚。
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