アルバムレビュー:Straight Shooter by Bad Company

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発売日: 1975年4月2日
ジャンル: ハードロック、ブルースロック、アリーナロック


正直者の美学——影と炎をまとった“第二章”

Straight Shooterは、前作Bad Companyの成功を受けてリリースされたバッド・カンパニーの2作目にして、バンドとしての自信と円熟味が滲む一枚である。
タイトルの“Straight Shooter”には、「正直者」「率直な人間」といった意味が込められており、Paul Rodgersのソウルフルな歌唱や歌詞世界がその精神を体現している。

前作の延長線上にありながら、本作では楽曲の構成や音の厚みに一層の深みが加わっており、よりメロディアスで叙情的な側面が強調されている。
バンドとしての一体感と職人的なミニマリズムはそのままに、ロマンと哀愁が混ざり合った70年代英国ハードロックの“陰影”がここにはある。


全曲レビュー

1. Good Lovin’ Gone Bad

力強いリフとキャッチーなコーラスが印象的なオープニングナンバー。
激しい愛の終焉をテーマにしながら、サウンドはむしろ爽快でドライブ感に溢れる。
Paul Rodgersのシャウトが全開の、ライブ映えするロックアンセム。

2. Feel Like Makin’ Love

本作最大のヒットにして、バッド・カンパニーの代名詞ともいえるバラード・ロック。
アコースティックギターの穏やかな導入から一転、サビで爆発するダイナミズムが心を打つ。
情熱的でいて抑制された、まさに“男のラブソング”。

3. Weep No More

ピアノとストリングスを導入し、よりソウルフルで洗練されたアレンジが光る。
喪失と再生を静かに描き出す一曲で、Simon Kirkeがリード・ヴォーカルを務めている点も特筆に値する。

4. Shooting Star

アルバム中でも最もドラマティックなナンバー。
名声とドラッグに飲み込まれた架空のロックスター“Johnny”を描いたこの曲は、1970年代の音楽業界を象徴する寓話でもある。
Rodgersの語り口が物語性を帯び、ラストには悲しみと教訓が静かに残る。

5. Deal with the Preacher

ゴスペル的なタイトルを持つ、エネルギッシュでブルージーなロック。
ギターとピアノの絡みがスリリングで、Paul Rodgersの咆哮が説教師のように響く。
熱量の高い一曲。

6. Wild Fire Woman

アップテンポでややファンキーなロックンロール。
“危険な女”というロック定番のテーマを、軽妙に、そして奔放に描く。
コーラスワークとギターの絡みが印象的。

7. Anna

アコースティック主体の穏やかなナンバー。
女性“Anna”への切ない思いを綴るラブソングで、内省的なRodgersの表現力が光る。
アルバム全体の中で、深呼吸のような存在。

8. Call on Me

感情のこもったバラードで幕を閉じる本作。
助けを求めてくれるならいつでもそばにいる、という包容力と信頼のメッセージ。
Rodgersのソウルフルな声が、ラストにふさわしい余韻を残す。


総評

Straight Shooterは、Bad Companyの成功を踏襲しつつ、より深く、静かに進化を遂げた作品である。
ハードロックの力強さと、ソウル/ブルース由来の情感が絶妙に溶け合い、単なる“ロックンロール・バンド”を超えた表現へと昇華している。

Paul Rodgersという圧倒的なフロントマン、Mick Ralphsの研ぎ澄まされたギターワーク、そしてリズムセクションの確かな支え。
その三位一体が、“正直で誠実なロック”というシンプルで強固な美学を築き上げた。

このアルバムは、決して派手ではない。
だが、まっすぐで、力強くて、そしてどこまでも人間的である。
それこそが、バッド・カンパニーが今なお語り継がれる理由なのだ。


おすすめアルバム

  • Free – Highway
    Paul Rodgersが在籍したバンドの後期作。抑制されたサウンドと深い情感が共通する。
  • Rod Stewart – Every Picture Tells a Story
    ロックとソウル、フォークが交差する叙情的な傑作。Rodgersの世界観と通じる部分が多い。
  • Faces – Ooh La La
    酒場の喧騒のような温かみとラフさが魅力。バッド・カンパニーの人間臭さと相性が良い。
  • Thin Lizzy – Fighting
    物語性とハードロックが融合した作品。Shooting Starが好きなリスナーにおすすめ。
  • Led ZeppelinHouses of the Holy
    叙情性とエッジの効いた演奏が共存する、より洗練されたハードロックのかたち。

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