発売日: 1994年10月17日(UK)
ジャンル: ポップ、ダンス・ポップ、R&B、バラード
概要
『Steam』は、イースト・ロンドン発のボーイズ・グループ East 17(イースト・セブンティーン) による2枚目のスタジオ・アルバムであり、
デビュー作『Walthamstow』(1993)で確立したストリート感とポップ感の融合をさらに洗練させ、
グループ最大のヒット曲「Stay Another Day」を収録したキャリアの頂点作として知られている。
このアルバムでは、ヒップホップやダンス・ミュージックの要素を残しつつも、
よりメロディアスで情感豊かなバラードやミッドテンポの楽曲が中心となり、グループの“ポップ・アーティスト”としての成熟が顕著に表れている。
タイトルの“Steam”は、文字通り“蒸気”=情熱や勢い、内に秘めた熱量を象徴しており、
それは彼らがこの時期、ティーンアイドルの枠を超えようとしていた姿勢とも重なる。
全曲レビュー
1. Steam
アルバムの冒頭を飾るタイトル曲にして、East 17らしさを詰め込んだ一曲。
ヒップホップ調のラップ、レイヴ風シンセ、分厚いコーラスが交錯するハイブリッドなポップ・チューン。
2. Let It Rain
アーバンなR&Bとユーロポップの要素を併せ持ったミッドテンポ・トラック。
“涙と再生”をメタファーにしたラブソングで、しっとりとした抒情が光る。
3. Around the World
陽気でスムーズなメロディと、ワールドミュージック的なアレンジが融合した人気曲。
「世界中どこへでも、君のために行ける」というロマンティックなメッセージが耳に残る。
4. Stay Another Day
グループ最大のヒット曲にして、East 17のイメージを塗り替えた名バラード。
冬の空気感を感じさせるストリングスと切ないメロディ、感情の込められたボーカルが融合し、
**“90年代UKポップにおけるクリスマスの定番曲”**となった。
5. Let It Be (With You)
オールドスクールR&Bに影響を受けたミッドテンポのラブソング。
タイトルはビートルズの名曲を想起させるが、内容は完全にEast 17の路線。
6. Be There
友情と連帯をテーマにしたバラード。
“どんな時でもそばにいる”という信頼のメッセージが、グループの“仲間感”を象徴している。
7. Deep (Remix)
前作からの再録リミックス。より洗練されたプロダクションで、R&B寄りのムードを強化。
リスナーに人気の高いセクシュアルなラブソング。
8. Hold My Body Tight
ソウルとポップの中間に位置するスロージャム。
肉体的な親密さを繊細に描いた、官能的ながら優しさを失わない一曲。
9. Thunder
リズミックでグルーヴィなナンバー。
人生の苦難を“雷鳴”に例え、それを乗り越える力を歌うエンパワーメント系の楽曲。
10. Do U Still?
別れた恋人への想いを問いかける切ないミディアムバラード。
リリックとメロディのシンプルさが感情を直撃する。
11. In the Light of Day
アルバムを締めくくる静かなピアノ・バラード。
夜が明けたあとに残る想いを描いた、美しく穏やかな余韻が心に残る。
総評
『Steam』は、East 17が“UKボーイバンドの異端児”というポジションから脱却し、
感情豊かな表現者としての進化を遂げた作品であり、特に「Stay Another Day」はその象徴的成果である。
前作のストリート色を適度に残しつつ、
バラードやラブソングで“泣けるEast 17”の側面を全面に打ち出した点が本作の最大の特徴。
当時のファン層(特に女性)に向けたメッセージ性も強く、
音楽的にも感情的にも、リスナーとの距離が近い作品である。
アルバムタイトルのとおり、そこには激しさよりも“内なる熱”がある。
それは成熟であり、柔らかな変化であり、East 17というグループが“アイドル”から“アーティスト”に近づいた瞬間の記録なのだ。
おすすめアルバム(5枚)
- Take That『Nobody Else』
同時期のボーイズグループによるバラード中心作。『Stay Another Day』との比較が興味深い。 - Backstreet Boys『Millennium』
ポップとバラードのバランス感覚。East 17の後継的存在としての世界標準型。 - Boyz II Men『II』
スローでエモーショナルなR&Bバラードを極めた作品。East 17のバラード路線と通じる。 - Blue『One Love』
2000年代初頭のUKボーイバンド。『Steam』からの影響が感じられるポップ構成。 - Eternal『Power of a Woman』
同時代UK R&Bグループによるエモーショナル・サウンド。East 17とのコラボ歴もある。
後続作品とのつながり
『Steam』の成功を受けて、East 17は続く『Up All Night』(1995)でよりR&B・ダンス志向を強めていくが、
大衆との“心の接続”という点では、本作が最もバランスの取れた完成形だったと見る向きは多い。
『Walthamstow』で見せた衝動を内面化し、
『Steam』でそれを感情に変換したEast 17は、ここで一つの到達点に達したのである。
コメント