
1. 歌詞の概要
Starcrossed Losersは、スコットランド・グラスゴー出身のロック・バンド、The Fratellisが2018年に発表した楽曲である。
5作目のスタジオ・アルバムIn Your Own Sweet Timeに収録され、アルバムでは2曲目に置かれている。アルバムは2018年3月16日にCooking Vinylからリリースされた。プロデュースはTony Hoffer。The Fratellisらしい陽気なロックンロール感を残しながら、よりカラフルで、少し演劇的なポップ感覚が広がる作品である。
Starcrossed Losersというタイトルは、かなり印象的だ。
Star-crossed loversという言葉は、シェイクスピアのRomeo and Julietで有名な表現で、星に運命を邪魔された恋人たち、つまり不運な宿命を背負った恋人たちという意味で使われる。そこから一文字だけずらし、loversではなくlosersにしたのがこの曲のタイトルである。
運命に引き裂かれた恋人たちではなく、星に見放された負け犬たち。
この言葉遊びだけで、The Fratellisらしさがよく出ている。
ロマンチックなのに、少し茶化している。
悲劇的なのに、どこか笑える。
古典的な恋愛物語の響きを借りながら、もっと酒場っぽく、もっと俗っぽく、もっと人間くさい方向へずらしている。
歌詞の中心にあるのは、出会うべきではなかったような二人の物語である。
男はどこか正気ではなく、女もまた普通のラブストーリーに収まる人物ではない。
二人は互いに惹かれるが、その関係はきれいな幸福へ向かうというより、最初から少し破滅の匂いがある。
愛なのか、妄想なのか、運命なのか、ただの間違いなのか。
その境界が曖昧なまま、曲は軽快に進んでいく。
The Fratellisの楽曲には、昔からこうした物語性がある。
Chelsea DaggerやHenriettaの頃から、彼らの歌には酒場の人物、軽薄な恋、欲望、冗談、演劇的なキャラクターがよく登場してきた。Jon Fratelliは、まっすぐな告白だけを書くタイプではない。むしろ、少し胡散臭い人物たちを登場させ、彼らの滑稽さや切なさを、キャッチーなメロディに乗せて描くのがうまい。
Starcrossed Losersも、その系譜にある。
ただし、この曲は初期のThe Fratellisほど荒っぽくない。
もっと整っていて、もっと明るい。
ギターは軽快で、メロディは大きく開き、コーラスは歌いやすい。
しかし、その明るさの奥には、どうしようもない人たちの恋がある。
この曲は、ロマンチック・コメディのようであり、場末の悲喜劇のようでもある。
聴き終わると、幸せな恋の歌を聴いたような気もする。
でも、よく考えると、登場人物たちはかなり危うい。
その危うさを、The Fratellisは深刻に沈めず、軽やかなロック・ポップへ変えている。
Starcrossed Losersは、愛の失敗を笑い飛ばす曲であり、同時に、その失敗の中にある妙な輝きを見つける曲でもある。
2. 歌詞のバックグラウンド
Starcrossed Losersが収録されたIn Your Own Sweet Timeは、The Fratellisにとって5作目のスタジオ・アルバムである。
The Fratellisは、2006年のデビュー・アルバムCostello Musicで一気に注目を浴びた。Chelsea Dagger、Flathead、Whistle for the Choirなど、酒場で大合唱できるような曲と、グラスゴーの荒っぽいロックンロール感を持ったバンドとして、2000年代UKロックの中でも強い個性を放った。
しかし、彼らは単なるパブ・ロック的な一発屋ではなかった。
2作目Here We Standではやや重くなり、解散と再結成を経て、We Need Medicine、Eyes Wide, Tongue Tiedと作品を重ねる中で、音楽性は少しずつ変化した。初期の暴れるような勢いだけでなく、よりメロディを磨き、ポップな構成やスタジオ・ワークにも意識を向けるようになっていった。
In Your Own Sweet Timeは、その流れの中にあるアルバムだ。
録音はロサンゼルスのThe Hobby Shop Recording Studiosで行われ、プロデューサーはTony Hoffer。Tony Hofferは、Beck、Air、Phoenix、M83などとの仕事でも知られ、インディー・ロックやポップの音をカラフルに整える手腕を持つプロデューサーである。
このアルバムでも、その明るく艶のあるサウンドが効いている。
The Fratellisの荒さを完全に消すのではなく、少し光沢を加える。
ロックンロールの勢いは残しながら、ポップ・ソングとしての輪郭をよりはっきりさせる。
Starcrossed Losersは、その効果がよく出た曲だ。
この曲は、アルバム発売前の2018年2月にミュージック・ビデオが公開されている。Billboardでは、The FratellisのStarcrossed Losersのビデオが紹介され、アルバムIn Your Own Sweet Timeからのシングルとして扱われた。映像もまた、曲の持つ演劇的で少しコミカルな物語性を強めている。
歌詞の世界にあるのは、古典的な恋愛悲劇のパロディのような空気だ。
Star-crossedという言葉は、ただの恋愛表現ではない。運命、星、宿命、悲劇という非常に大きな響きを持つ。そこにlosersという言葉をぶつけることで、The Fratellisは壮大な恋愛神話を、少し俗っぽい人間たちのドタバタへ引き下ろしている。
この引き下ろし方が、バンドらしい。
彼らの歌に出てくる人物たちは、完璧な恋人ではない。
立派な英雄でもない。
どこかズレていて、酒に弱く、見栄っ張りで、嘘つきで、でも憎めない。
Starcrossed Losersの二人も、まさにそのような存在だ。
Romeo and Julietのような清らかな悲恋ではなく、もう少し街角の匂いがする。
運命に引き裂かれた美しい恋人ではなく、自分たちの愚かさにも引きずられていく負け犬たち。
それでも、そこにはロマンがある。
The Fratellisは、こうした人物たちを冷笑しきらない。
茶化すけれど、捨てない。
笑うけれど、愛情がある。
だからStarcrossed Losersは、皮肉なタイトルなのに冷たくならない。むしろ、どうしようもない人間たちへの優しい視線がある。
3. 歌詞の抜粋と和訳
It started out as nothing in the strangest sense
和訳:
それは、奇妙な意味で何でもないものとして始まった
He was never in his right mind
和訳:
彼は一度もまともな状態ではなかった
Starcrossed losers
和訳:
星に見放された負け犬たち
この曲の冒頭は、物語の始まり方としてとても優れている。
It started out as nothingという言葉には、恋の始まりの曖昧さがある。最初から大事件だったわけではない。運命的な雷が落ちたわけでもない。むしろ、何でもないようなところから始まった。
けれど、in the strangest senseと続くことで、その何でもなさが普通ではないことがわかる。
何でもない。
でも奇妙だ。
小さな始まり。
でも、どこか不穏だ。
この感覚が、Starcrossed Losers全体を支えている。
He was never in his right mindというフレーズは、登場人物の輪郭を一気に作る。彼はまともではない。正気ではない。恋に落ちたせいでそうなったのか、もともとそういう人間だったのかははっきりしない。
この曖昧さがいい。
The Fratellisの歌詞に出てくる人物は、しばしば最初からどこかおかしい。だから、恋が彼らを狂わせたというより、狂った人間が恋に巻き込まれたようにも見える。そこに可笑しさと切なさが生まれる。
そしてStarcrossed losersというタイトル・フレーズが、すべてをまとめる。
彼らは恋人たちである。
でも、英雄的な恋人たちではない。
運命に祝福された二人ではない。
星の配置からして、少し負けている。
それでも、曲は彼らを見捨てない。
歌詞の権利はJon Fratelli、Tony Hofferおよび各権利管理者に帰属する。ここでは批評・解説を目的として、短い範囲に限定して引用している。
4. 歌詞の考察
Starcrossed Losersの最大の魅力は、ロマンチックな言葉と滑稽な人物像のバランスにある。
star-crossedという言葉は、本来ならかなり重い。
星に運命を定められた恋人たち。
出会うべきではなかった二人。
愛し合っているのに、世界がそれを許さない二人。
この言葉には、悲劇の大きな影がある。
しかし、The Fratellisはそこにlosersをつける。
この一語で、世界は急に酒場に近づく。
高貴な悲恋が、少し情けない人間たちの話になる。
悲劇は悲劇のままなのに、どこか笑えるものになる。
このずらし方が見事だ。
人間の恋は、いつも美しく整っているわけではない。
むしろ、実際の恋はかなり不格好だ。
言わなくていいことを言う。
必要なときに黙る。
変なタイミングで出会う。
相手を理想化しすぎる。
自分の弱さを相手にぶつける。
そういう不格好さがあるから、恋はロマンチックであると同時に、滑稽でもある。
Starcrossed Losersは、その滑稽さをよくわかっている。
歌詞の中の二人は、純粋な恋愛の象徴ではない。どちらも、どこか問題を抱えた人物のように描かれている。完璧な相性の二人というより、お互いの欠点に引き寄せられてしまった二人だ。
そういう恋は、現実にもある。
安心できる相手ではない。
でも、なぜか気になる。
うまくいかないとわかっている。
でも、出会ってしまった以上、物語は動き出す。
この曲のロマンは、うまくいかないことを前提にしているところにある。
最初から祝福された恋ではない。
それでも、二人には二人なりの輝きがある。
負け犬たちにも、星空はある。
この視点が優しい。
The Fratellisの歌詞は、しばしば登場人物の細部をすべて説明しない。会話の断片、性格の匂い、奇妙な言い回しを並べることで、人物を立ち上げる。Starcrossed Losersでも、二人がどう出会い、何があって、最後にどうなったのかを明確な物語として語るわけではない。
むしろ、読者や聴き手は、歌詞の隙間を埋めることになる。
彼はなぜ正気ではないのか。
彼女はなぜ彼に惹かれたのか。
二人は本当に愛し合っているのか。
それとも、互いの孤独に反応しているだけなのか。
曲は答えを決めない。
その代わりに、メロディが答えのように鳴る。
Starcrossed Losersのサウンドは、非常に明るい。
少なくとも、題材の不穏さに比べればかなり陽気だ。
ギターは軽快で、リズムは弾み、コーラスは大きく開く。
サビには、The Fratellisらしい合唱したくなる力がある。
ここに、歌詞とのギャップがある。
歌詞は負け犬たちの恋を歌う。
でも、曲は勝ち誇るように明るい。
これが不思議な幸福感を作る。
The Fratellisは、登場人物が負け犬であることを悲惨に描かない。むしろ、負け犬だからこそ愛おしいものとして描く。勝者の恋愛よりも、少し失敗した人たちの恋のほうが、歌に向いているのかもしれない。
なぜなら、そこには物語があるからだ。
完璧な二人が完璧に結ばれるだけなら、歌にするには少し退屈だ。
しかし、不完全な二人が出会い、間違いながら近づくなら、そこには笑いも涙もある。
Starcrossed Losersは、その物語の匂いをうまく使っている。
また、この曲にはミュージカル的な明るさもある。
Jon Fratelliの書くメロディには、時々キャバレーやヴォードヴィルのような演劇性がある。ロック・バンドでありながら、曲が小さな舞台の上で演じられているように聞こえることがある。Starcrossed Losersもまさにそうだ。
登場人物たちが舞台袖から出てきて、少し大げさに恋を演じる。
観客は笑う。
でも、最後には少し胸が痛くなる。
この感覚が、曲の核心にある。
5. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Whistle for the Choir by The Fratellis
The Fratellisの中でも、ロマンチックで少し酔ったような名曲である。Starcrossed Losersの物語性や、情けない男の恋の視点が好きなら、この曲の夜の街角感も強く響くだろう。軽く口笛を吹くようなメロディの裏に、かなり切ない感情がある。
- Chelsea Dagger by The Fratellis
バンドの代表曲であり、The Fratellisの酒場的な合唱感を最もわかりやすく味わえる一曲である。Starcrossed Losersよりも荒っぽく、より初期衝動に満ちている。人物像の胡散臭さ、掛け声の強さ、踊れるロックンロールとしての魅力が詰まっている。
- The Next Time We Wed by The Fratellis
In Your Own Sweet Timeに収録された楽曲で、Starcrossed Losersと同じアルバムの中でも近い演劇的な明るさを持っている。タイトルからして結婚や関係のやり直しを茶化すような響きがあり、The Fratellisらしいロマンと冗談の同居を楽しめる。
- Henrietta by The Fratellis
デビュー期のThe Fratellisらしい、勢いとキャラクター性に満ちた楽曲である。Starcrossed Losersのような少し成熟したポップ感とは違い、こちらはもっと荒々しいが、登場人物の名前を軸にした物語感は共通している。バンドの原点を知るには欠かせない。
- Romeo and Juliet by Dire Straits
star-crossed loversという言葉の背景にある悲恋のイメージを、ロック/フォークの文脈で美しく描いた名曲である。The FratellisのStarcrossed Losersが古典的悲恋を茶化す方向にあるなら、Dire StraitsのRomeo and Julietはその悲しみをまっすぐ抱きしめる曲だ。聴き比べると、恋愛悲劇の扱い方の違いがよくわかる。
6. 負け犬たちにも星は降る、The Fratellis流の恋愛悲喜劇
Starcrossed Losersは、The Fratellisらしい魅力が詰まった曲である。
明るい。
キャッチーだ。
少し胡散臭い。
ロマンチックなのに、まともにロマンチックではない。
笑えるのに、どこか切ない。
このバランスが、The Fratellisの真骨頂だと思う。
彼らは、恋をきれいなものとしてだけ描かない。
恋に落ちる人間のだらしなさや、勘違いや、愚かさも一緒に描く。
けれど、それを冷たく見下ろすのではなく、音楽で祝ってしまう。
Starcrossed Losersの二人は、たぶん完璧な恋人たちではない。
むしろ、最初から少し負けている。
星の配置も悪い。
性格もたぶん面倒だ。
物語はきっとすんなり進まない。
それでも、曲は彼らを主役にする。
ここがいい。
ポップソングの世界では、誰もが主役になれる。
現実には失敗ばかりの人でも、曲の中ではスポットライトを浴びる。
恋に不器用な人でも、サビでは大きなメロディを与えられる。
Starcrossed Losersは、まさにそういう曲だ。
losersという言葉は、本来なら冷たい。負け犬、敗者、冴えない人。だが、この曲ではその言葉が少し優しく響く。なぜなら、The Fratellisの音が彼らを笑い飛ばすだけでなく、抱きしめてもいるからだ。
負け犬であることは、終わりではない。
むしろ、物語の始まりになる。
うまくいかないからこそ、歌になる。
この視点は、ロックンロールの根本にも近い。
ロックは昔から、完璧な人のための音楽ではなかった。
少し外れた人、うまく社会に乗れない人、夜の街で何かを探している人のための音楽でもあった。
The Fratellisは、その伝統を非常にポップな形で引き継いでいる。
Starcrossed Losersには、2018年のThe Fratellisの成熟もある。
初期のように勢いだけで突っ走るのではなく、音の作りはかなり整っている。Tony Hofferのプロデュースによって、ギターやコーラス、リズムの配置は明るく、広がりがある。曲の構成も、シングルとして機能するように磨かれている。
しかし、過剰に洗練されて冷たくなることはない。
The Fratellisの持つ少し雑な人間味は残っている。
そこが大事だ。
この曲が完全に上品なポップになっていたら、負け犬たちの物語には合わなかったかもしれない。The Fratellisの声と演奏には、まだパブの床の少しべたついた感覚がある。そこにロマンチックなタイトルを重ねるから、曲が生きる。
Starcrossed Losersというタイトルは、本当にうまい。
一瞬で意味がわかる。
元ネタも感じられる。
でも、ただの引用ではない。
loversをlosersに変えるだけで、世界観ができあがる。
恋と失敗。
宿命と冗談。
悲劇と笑い。
その全部が、タイトルに入っている。
こういう言葉の選び方に、Jon Fratelliのソングライターとしてのセンスがある。
The Fratellisは、シンプルに盛り上がれるバンドとして認識されがちだ。もちろん、それは間違っていない。Chelsea Daggerのような曲は、今でもスタジアムやパブで大きな力を持つ。しかし、彼らの本当の面白さは、キャッチーなメロディの中に、ちょっとした物語や人物の情けなさを入れるところにある。
Starcrossed Losersは、その面白さがよく出た曲だ。
大げさな恋愛悲劇をやるのではない。
しかし、完全な冗談にも逃げない。
ちょうどその間で、負け犬たちの恋を歌う。
それは、かなり人間的なラブソングである。
なぜなら、ほとんどの恋は、Romeo and Julietほど美しくはないからだ。
でも、完全にくだらないわけでもない。
本人たちにとっては大事件であり、外から見れば少し滑稽で、後から思い出せば少し眩しい。
Starcrossed Losersは、その感じをよく知っている。
だから、聴いていると笑顔になる。
でも、ほんの少し胸も痛む。
The Fratellisは、そこを狙えるバンドなのだ。
参照元
- The Fratellis – Starcrossed Losers Lyrics / Dork
- The Fratellis – Starcrossed Losers Track Info / Dork
- In Your Own Sweet Time – Wikipedia
- The Fratellis – Starcrossed Losers Official Video / YouTube
- The Fratellis’ Starcrossed Losers Video Premiere / Billboard
- The Fratellis – In Your Own Sweet Time / Discogs

コメント