Someone You Loved by Lewis Capaldi(2018)楽曲解説

 


1. 歌詞の概要

Someone You Loved“は、スコットランド出身のシンガーソングライター、**Lewis Capaldiルイス・キャパルディ)**が2018年に発表し、翌2019年に世界的な大ヒットを記録したバラードです。彼のデビュー・アルバム『Divinely Uninspired to a Hellish Extent』に収録されており、イギリスのシングルチャートで7週連続1位、アメリカのBillboard Hot 100でも1位を獲得した、文字通り世界的なブレイクのきっかけとなった一曲です。

この楽曲では、深く愛していた誰かを失ったあとの喪失感、孤独、空虚さ、そしてその中でどうにか生きていこうとする葛藤が、繊細かつダイナミックに描かれています。歌詞における「someone you loved(かつて愛していた誰か)」は、恋人やパートナー、あるいは死別した家族を象徴する存在として描かれ、聴き手それぞれの“誰か”を重ねやすい普遍性を持っています。

キャパルディの深みのある声と、ピアノを中心としたシンプルなアレンジが、歌詞の感情を極限まで引き立てており、現代の失恋バラードとしては屈指の完成度を誇ります。


2. 歌詞のバックグラウンド

Lewis Capaldiはこの曲を、ある日突然自分の人生からいなくなってしまった誰かへの喪失と再起を描きたかったと語っています。多くのファンは、この曲が恋人との別れについてだと解釈しましたが、キャパルディ本人は後に、祖母を亡くした経験が創作の背景にあったことを明かしています。

このように、恋愛にも死別にも重ね合わせられる二重性を持った歌詞構造により、リスナーはそれぞれの喪失体験とこの曲を自然に結びつけることができたのです。加えて、2019年に公開されたMVでは、俳優ピーター・キャパルディ(Lewisの遠縁にあたる)が登場し、心臓移植で命をつないだ男性の物語が描かれており、曲の主題に“命の継承”というテーマが加えられています。


3. 歌詞の抜粋と和訳

Lyrics:
I’m going under and this time I fear there’s no one to save me
和訳:
「沈んでいくような気分なんだ 今度ばかりは誰も助けてくれない気がする」

Lyrics:
This all or nothing really got a way of driving me crazy
和訳:
「“全てか無か”って考え方が 頭を狂わせそうになる」

Lyrics:
Now the day bleeds into nightfall
And you’re not here to get me through it all

和訳:
「昼が夜へとにじんでいく今
君はもうここにいない この苦しみを共に越えてくれるはずだったのに」

Lyrics:
I let my guard down and then you pulled the rug
I was getting kind of used to being someone you loved

和訳:
「警戒心を解いた途端 君は突然いなくなった
“誰かに愛される自分”に やっと慣れてきた頃だったのに」

(※歌詞引用元:Genius Lyrics)

この歌詞には、失われた愛の温もりと、それをもう一度取り戻すことはできないという絶望が込められており、特に「day bleeds into nightfall」という表現には、時間の移ろいと心の空洞感が静かに響いています。


4. 歌詞の考察

“Someone You Loved”は、失恋や死別といった喪失体験を正面から描きつつ、その苦しみの中でもなお愛の意味を問い続ける楽曲です。

✔️ 愛されることに“慣れた”瞬間の裏切り

この曲の最大の痛みは、単なる“別れ”ではなく、「ようやく心を許した相手に去られた」という心の傷です。「I let my guard down(警戒心を解いた)」という一節には、自分の心をさらけ出すことのリスクと、裏切られたときの衝撃が描かれています。

✔️ 普遍的な“喪失”のイメージ

この曲には、「別れた恋人」だけでなく、「亡くなった家族」や「もう戻らない日々」など、誰もが一度は経験する“喪失”を象徴するイメージがちりばめられています。特定の情景を描くのではなく、感情の余白を大きく残していることで、多くの人が自身の経験と重ね合わせることが可能になっているのです。

✔️ 極限まで削ぎ落とされた言葉と旋律

シンプルなピアノとストリングスの伴奏は、キャパルディの粗削りで切実なボーカルを最大限に引き立てる役割を果たしています。声が震える瞬間、音が落ちるタイミング、すべてが感情の自然な呼吸として機能しており、聴き手の涙腺を刺激します


5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • “All I Want” by Kodaline
     → 別れの痛みと希望を叙情的に描いた現代バラードの代表作。
  • Let Her Go” by Passenger
     → 失って初めて気づく愛の大切さをシンプルに表現。
  • “Jealous” by Labrinth
     → 愛を失った者の怒りと悲しみを見事に言葉にした楽曲。
  • Skinny Love” by Bon Iver
     → 関係が崩れていく過程の切なさと諦念を象徴する名曲。
  • Lose You to Love Me” by Selena Gomez
     → 自己再生と別れをテーマにした共感性の高いバラード。

6. 『Someone You Loved』の特筆すべき点:ポップバラードの“現在地”を再定義した1曲

この曲は、単なる失恋ソングではなく、“喪失の感情”に向き合う現代人のバラードとして、世界中で共感を呼びました。

  • 💔 愛された記憶と、それを失ったあとの“空白”の描写が秀逸
  • 🧠 「誰かに愛されること」に慣れてしまった心の脆さに焦点を当てる
  • 🎹 ミニマルで感情的なサウンドが、リリックと完全に融合
  • 🌍 恋愛、死別、孤独など、国境や文化を越えて共有される“悲しみの言語”として機能

結論

Someone You Loved“は、ルイス・キャパルディというアーティストの核を最もよく示す作品であり、21世紀のポップバラードにおける新たな金字塔です。

人を失うという経験は避けられないものですが、その痛みをどう感じ、どう乗り越えるのか。その答えはこの曲の中にあるわけではありません。ただ、この曲はそっと隣にいてくれる——その痛みを知っている者として

だからこそ、聴くたびに涙が出て、“自分も誰かに愛されていた”という記憶と共に歩み出す力をくれるのです。
そして、そう思えた瞬間こそが、愛の奇跡なのかもしれません。

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