アルバムレビュー：Some Change by Boz Scaggs

アルバムレビュー

2025.05.03

発売日: 1994年4月5日
ジャンル: AOR、ブルース、ソフトロック

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム
歌詞の深読みと文化的背景
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概要

『Some Change』は、ボズ・スキャッグスが1994年に発表したアルバムであり、
約6年ぶりとなる本格的なスタジオ復帰作である。

80年代後半の『Other Roads』でシンセサイザーを多用した都会的なサウンドを展開した彼だが、
本作では一転して、よりオーガニックで温かみのある音作りを志向。
アコースティックギターや生楽器を中心に据え、飾らず自然体のボーカルで、円熟した音楽世界を築き上げている。

プロデューサーには、ボズ自身と、元TOTOのリック・ハーシュを迎え、
シンプルながらも味わい深い、密度の高いサウンドスケープを生み出した。

1990年代初頭の音楽シーンは、グランジやヒップホップなど新たな潮流に沸いていたが、
そんな中にあって『Some Change』は、派手さとは無縁な、
“変わるものと、変わらないもの”を静かに見つめた、大人のためのアルバムとなっている。

全曲レビュー

1. You Got My Letter

温かみのあるアコースティックサウンドで幕を開ける。
遠く離れた恋人への想いを、柔らかく、しかし力強く歌い上げている。

2. Some Change

アルバムタイトル曲。
人生の変化と、それにどう向き合うかを静かに綴ったバラードであり、
ボズの成熟した歌声が胸に沁みる。

3. I’ll Be the One

心地よいミディアムテンポのラブソング。
愛する人への揺るぎないサポートを誓う、優しいメッセージが込められている。

4. Call Me

ジャズの香り漂うリラクシングなナンバー。
気取らない軽やかさと、大人の余裕が絶妙に同居している。

5. Fly Like a Bird

カントリータッチのフォーキーな楽曲。
自由を求める魂を、羽ばたく鳥になぞらえた象徴的な歌詞が印象的。

6. Sierra

1988年の『Other Roads』収録曲のセルフカバー。
よりナチュラルなアレンジと、熟成されたヴォーカルによって、新たな深みを獲得している。

7. Lost It

メランコリックなブルースナンバー。
失われた愛や夢への哀惜が、静かな怒りとともに滲み出る。

8. Time

淡々と刻まれるリズムと、浮遊感のあるメロディ。
時間の流れと、それに抗えない人間の儚さを、穏やかに歌っている。

9. Illusion

スムースなアコースティック・グルーヴに乗せて、幻想と現実の間を揺れる心情を描く。
ボズらしい繊細なリリシズムが光る。

10. Follow That Man

ブルージーでソウルフルなクロージングナンバー。
どこか人生の師を思わせる存在を追い求める、深いスピリチュアルな余韻を残して幕を閉じる。

総評

『Some Change』は、派手さとは無縁だが、
だからこそボズ・スキャッグスというアーティストの本質――温かさ、誠実さ、成熟した感性――が、
ありのままに表れたアルバムである。

時代のトレンドとは距離を置き、
必要以上に”今風”に合わせることなく、
自らの声と、確かな演奏、丁寧なソングライティングだけを頼りに作り上げた一枚。

聴き手を派手に驚かせることはない。
しかし、静かに寄り添い、心の深い部分に染み込んでくる力を持っている。

長いキャリアの中でも、この『Some Change』は、
「変わりゆく時代の中で、変わらずに大切なものを守り続けたアルバム」として、特別な意味を持っているのだ。

都会の喧騒を離れて、静かに自分自身と向き合いたい夜に、
そっと耳を傾けたくなる一枚である。

歌詞の深読みと文化的背景

『Some Change』に通底するテーマは、「受容」と「変化への適応」である。

90年代初頭、バブル崩壊後の不安定な空気が世界中を覆う中で、
ボズ・スキャッグスは、無理に未来を楽観視するのではなく、
変化を自然なものとして受け入れ、その中で自分自身の場所を見つけようとする姿勢を歌に込めた。

とりわけ、タイトル曲「Some Change」や「Time」には、
時間と共に失われるものへの哀惜と、それでも生きていく強さが、静かに、しかし力強く響いている。

派手な時代に抗うのではなく、そっと脇に退き、
自分のペースで、自分の音楽を奏で続ける。
そんなボズ・スキャッグスの姿勢が、このアルバムには深く刻まれているのだ。