1. 歌詞の概要
Unknown Mortal Orchestraの「So Good at Being in Trouble」は、2013年リリースのアルバム『II』に収録された楽曲で、タイトル通り、“トラブルに巻き込まれることが得意”な恋愛関係を描いた、シンプルながらも奥深いラブソングである。全体的に短く簡潔な歌詞の中には、喪失感、未練、諦め、そして逃れられない惹かれ合いといった複雑な感情が凝縮されている。
語り手は、過去の恋人との関係を振り返りながら、自分自身がその関係にどれほど依存していたか、そして別れによってどれほどの混乱と空虚を抱えているかを語っていく。「So good at being in trouble / So bad at being in love(トラブルに巻き込まれるのは得意だけど、愛し方は下手)」というフレーズが象徴するように、関係を壊すことはできても、築くことはできない自分への無力感がにじみ出ている。
淡々とした口調とソウルフルなサウンドに包まれたこの曲は、**愛の終わりの“静かな混沌”**を静かに描写している。声を荒げたり、感情を爆発させることはないが、だからこそ胸を打つ——そんな楽曲である。
2. 歌詞のバックグラウンド
この楽曲が収録された『II』は、フロントマンのルーバン・ニールソンが、ツアーの孤独や精神的疲弊、パーソナルな人間関係の混乱といった、内面的な世界を深く掘り下げたアルバムである。「So Good at Being in Trouble」も、そうした文脈の中で生まれたものであり、関係の破綻とそこに残る感情の残骸を、極めて誠実に描いている。
音楽的には、70年代のソウルやR&B、ローファイ・ロックの影響を強く感じさせるアレンジが特徴で、荒削りながらも洗練されたプロダクションと、ニールソンのファルセットを多用したボーカルが、楽曲全体の哀愁を際立たせている。ポップソングでありながら、その核心は極めて私的で静謐である点が、リスナーに深い余韻を残す。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「So Good at Being in Trouble」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を併記する。
So good at being in trouble
トラブルに巻き込まれるのは得意だった
So bad at being in love
でも、愛し方は本当に下手だったCan you hear me now?
聞こえるかい?
Lying in this bed
このベッドに横たわりながら
That you made when you left
君が去った後に作られたベッドでNothing’s gonna change
何も変わらない
I’m sorry
ごめん
出典:Genius – Unknown Mortal Orchestra “So Good at Being in Trouble”
4. 歌詞の考察
この曲の魅力は、ごく短い言葉の中に感情の重さを詰め込んでいる点にある。語り手は自分の過ちや未熟さを素直に認めつつ、もう戻らない関係を何度も反芻している。愛していたはずなのに、うまく愛せなかった。関係を続けたかったのに、どうしても壊してしまう。そうした自己嫌悪と未練が交錯する瞬間が、この楽曲の核をなしている。
「Lying in this bed / That you made when you left」という表現は、英語の慣用句「You made your bed, now lie in it(自分の蒔いた種は自分で刈り取れ)」を踏まえつつ、相手に去られたあとの孤独と、そこに残された自分の姿を非常に巧みに描いている。この一節には、「愛したいのにうまくいかない」「残された感情とどう向き合うべきか」といった普遍的な痛みが投影されている。
また、繰り返される「Can you hear me now?」という問いかけには、届かぬ想いと不完全なコミュニケーションが象徴されており、その哀切な響きがリスナーの胸に静かに突き刺さる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- No Other Heart by Mac DeMarco
軽やかなサウンドの中に失恋の残響を漂わせる、ローファイなラブソング。 - New Slang by The Shins
淡々とした口調とメロディの中に、心の揺れがにじむインディーロックの名曲。 - On Hold by The xx
関係の断絶とすれ違いを、繊細な言葉とビートで描いた現代的失恋ソング。 - Lover Is a Day by Cuco
若さと切なさが交差する甘美なラブソング。夢見心地のメロディが共鳴する。 -
Crying Lightning by Arctic Monkeys
恋人に対する複雑な感情を、皮肉と詩的イメージで包んだロック・ナンバー。
6. 愛し方を知らなかった者たちのための歌
「So Good at Being in Trouble」は、破局後の静けさを見つめるラブソングであり、怒りや叫びではなく、ひとりきりの部屋の静寂に響く“ごめん”という独白のような存在である。ルーバン・ニールソンは、自己肯定や断罪ではなく、ただ過去を悔やみ、言葉にならない思いを短い詩に託している。
その語り口は飾り気がなく、それでいて深い。だからこそリスナーは、自分の過去の誰か、あるいは自分自身と向き合うような感覚を得る。何も解決されないまま終わるこの曲は、現実の恋と同じように、答えのないまま記憶に残る。
「So Good at Being in Trouble」は、失った愛の重さと、それでもその愛があったことの確かさを、美しく静かに描き出した、心の記録のような楽曲である。そしてそれは、愛し方をまだ知らなかったすべての人の心に、そっと寄り添ってくれるだろう。
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