発売日: 2011年4月8日
ジャンル: フォークロック、ワールドミュージック
Paul Simonの12作目のソロアルバム「So Beautiful or So What」は、70歳を迎えた彼が新たに提示した音楽的ビジョンの集大成とも言える作品である。本作では、Simonの詩的な歌詞と巧みなソングライティングが際立ち、過去の多文化的なアプローチを引き継ぎながらも、より内省的で哲学的なテーマに焦点が当てられている。彼自身が「私のキャリアの中で最高の作品の一つ」と語るこのアルバムは、人生の儚さや美しさ、死生観を探求し、スピリチュアルな要素が色濃く反映されている。
音楽的には、アコースティックサウンドを基調としつつも、インド音楽やブルース、ゴスペル、電子音楽といった多様な要素が取り入れられている。SimonとプロデューサーのPhil Ramoneが共同で手掛けたプロダクションはシンプルながらも洗練されており、各楽曲が物語を紡ぐように進行していく。アルバム全体を通じて、Paul Simonの成熟した音楽的探求心と、人間性への深い洞察が感じられる名作だ。
トラック解説
- Getting Ready for Christmas Day
アルバムの幕開けを飾るこの曲は、ゴスペルのサンプリングを大胆に取り入れたエネルギッシュな楽曲。Rev. J.M. Gatesの説教が挿入され、伝統的な音楽と現代的なビートが融合している。歌詞にはクリスマス準備の喧騒の中にある社会問題や希望が描かれており、Simonらしい皮肉と洞察が詰まっている。 - The Afterlife
死後の世界をテーマにした軽快なトラック。神との対話や「登録の順番を待つ」というユーモラスな視点が、哲学的なテーマを親しみやすくしている。ブルース調のギターとリズムが、楽曲全体に柔らかさを加えている。 - Dazzling Blue
インド音楽からの影響が感じられるトラックで、タブラの音色と美しいアコースティックギターが絡み合う。愛の神秘と普遍性を歌った歌詞が、リスナーを夢のような世界へと誘う。Simonの穏やかなボーカルが印象的。 - Rewrite
タイプライターの音を模したリズムが特徴的な一曲で、自己再生や過去の振り返りをテーマにしている。人生の新しい章を書くことへの希望を歌うこの楽曲は、軽快なテンポと緻密なアレンジが心地よい。 - Love and Hard Times
ピアノを主体とした美しいバラードで、愛と困難の対比をテーマにした詩的な歌詞が心に響く。曲の前半では神話的なイメージが描かれ、後半では個人的な愛の物語にフォーカスしている。Simonのボーカルは特に感情的で、アルバムの中でも特筆すべき一曲だ。 - Love Is Eternal Sacred Light
ブルースとカントリーの要素が混じり合うエネルギッシュなトラック。宗教的なテーマを扱いながらも、現代社会の矛盾や混乱が皮肉たっぷりに描かれている。滑らかなギターワークが楽曲を引き立てている。 - Amulet
インストゥルメンタル的な短いトラックで、Simonのアコースティックギタープレイが際立つ。繊細なアルペジオが楽曲全体を支配し、次の楽曲への橋渡しとして機能している。 - Questions for the Angels
都会の喧騒から逃れた瞑想的な楽曲で、ニューヨークのブルックリン橋を背景にした幻想的な歌詞が印象的。神や天使に問いかける形で進むこの曲は、静けさと深い霊性を持つアルバムのハイライトの一つだ。 - Love and Blessings
ゴスペルの要素を取り入れたトラックで、歌詞には愛と祝福が描かれている。反復するリズムとコーラスが楽曲に安心感を与え、終盤に向けて高まる盛り上がりが印象的。 - So Beautiful or So What
アルバムのタイトル曲であり、クライマックスを飾る一曲。軽快なギターリフとリズムが楽曲を牽引し、人生の美しさや無常をテーマにした歌詞が心に響く。人生の儚さを受け入れつつ、その中に見いだす喜びが感動的に描かれている。
アルバム総評
「So Beautiful or So What」は、Paul Simonの長いキャリアの中でも特に深い内省とスピリチュアルなテーマが特徴的なアルバムだ。彼が得意とする多文化的な音楽の融合と、詩的で哲学的な歌詞が見事に調和しており、人生の美しさと儚さについての深い洞察が聴き手に語りかけてくる。
音楽的には控えめでありながらも、アコースティックサウンドやリズムの使い方が洗練されており、Simonの音楽的な成熟を感じさせる。本作は、現代音楽の中でも稀に見る芸術性と普遍性を兼ね備えた作品であり、彼のキャリアの最後の傑作と評されるにふさわしいアルバムだ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Graceland by Paul Simon
彼の多文化的アプローチの原点とも言える作品。スピリチュアルなテーマや詩的な歌詞が共通点。
There Goes Rhymin’ Simon by Paul Simon
よりメロディアスでクラシックなPaul Simonの一面を楽しめる名作。
Harvest by Neil Young
内省的でアコースティックなサウンドが特徴のアルバムで、「So Beautiful or So What」に通じる静けさがある。
Modern Times by Bob Dylan
同世代のソングライターによる、人生の深みを描いた成熟したアルバム。
Late for the Sky by Jackson Browne
愛や人生の儚さを内省的に描いたフォークロックの傑作で、Simonのスピリチュアルな一面と響き合う。
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