発売日: 1967年9月18日
ジャンル: サイケデリック・ポップ, アート・ポップ, ローファイ
『Smiley Smile』は、The Beach Boysの最もユニークで実験的なアルバムのひとつであり、もともと未完成に終わった伝説のアルバム『Smile』の代替作品として世に出された。ブライアン・ウィルソンが計画していた壮大なサイケデリック・ポッププロジェクトの一環であった『Smile』は、膨大な録音作業とウィルソンの精神的な疲労により完成しなかった。しかし、その一部の楽曲が縮小された形で収録され、『Smiley Smile』としてリリースされることとなった。
このアルバムは、サイケデリックで奇妙な要素とローファイな質感が特徴的で、The Beach Boysのこれまでのサウンドとは大きく異なる。また、非常に内向的でミニマルなプロダクションが施されており、リスナーにとって驚くような実験的なアプローチを感じさせる作品だ。特にウィルソンの精神的な変化や彼の独創的な音楽性が強く反映されており、既存のポップの枠組みを超えた作品となっている。
商業的には成功しなかったものの、その後の評価では前衛的な試みとして高く評価され、カルト的な支持を集めている。混沌としながらも、美しい瞬間が点在するアルバムだ。
それでは、この不思議で幻想的な作品をトラックごとに見ていこう。
1. Heroes and Villains
もともとは『Smile』の中心楽曲のひとつとして構想されていたこの曲は、壮大なポップオペラの一部だった。カウボーイの物語を描いた歌詞と、不規則なリズム、コーラスの繰り返しが特徴的で、The Beach Boys特有の美しいハーモニーと実験的なサウンドが融合している。フラグメント的な構成はサイケデリックな世界観を作り出し、ブライアン・ウィルソンの音楽的な野心が垣間見える。
2. Vegetables
「野菜を食べる」というシンプルで奇妙なテーマを描いたこの曲は、ウィルソンのユーモアと実験精神が前面に出ている。ペコペコとした音や不思議なリズムが耳に残り、歌詞もどこか子供っぽい遊び心を感じさせる。リズムやメロディは軽快だが、背後に漂う不思議な雰囲気が、アルバム全体の独特なムードを作り出している。
3. Fall Breaks and Back to Winter (W. Woodpecker Symphony)
インストゥルメンタル的なこのトラックは、まるで自然の中にいるかのような音響的な広がりを感じさせる。ウッディ・ウッドペッカーの鳴き声を模したシンセサイザーの音が鳴り響き、幻想的でミステリアスな雰囲気を作り出している。まさに『Smiley Smile』のサイケデリックな性質を象徴する楽曲だ。
4. She’s Goin’ Bald
この曲は、実験的なボーカルエフェクトが印象的で、The Beach Boysの一般的なハーモニーとは異なるアプローチが取られている。歌詞も風変わりで、どこか皮肉的なユーモアが込められており、アルバムの中でも特に奇妙なトラックだ。ポップとアートの境界線を探るかのような音楽的試みが垣間見える。
5. Little Pad
温かくメランコリックなギターのイントロから始まり、ウクレレの音色がリラックスした雰囲気を生み出す。ウィルソンのボーカルも柔らかく、アルバムの中では比較的親しみやすい曲だ。ハワイの島々への憧れを描いた歌詞も、どこかエスケープ感を与え、夢見るような雰囲気が漂っている。
6. Good Vibrations
このアルバムで最も有名なトラックであり、The Beach Boysの代表曲とも言える。この曲は『Pet Sounds』のセッションから生まれ、ポップミュージックの歴史に残る名曲だ。サイケデリックで実験的なサウンドが詰め込まれた6分間は、複雑なアレンジとリズムチェンジが特徴的で、特に「ポケット交響曲」とも呼ばれるほどに密度の濃い楽曲だ。メロトロンやテルミンといった新しい楽器の使用も、ウィルソンの革新的な音楽性を示している。
7. With Me Tonight
ミニマルなボーカルアレンジが特徴のこの曲は、The Beach Boysのハーモニーが美しく重なり合い、シンプルながらも深い感情を伝えている。ローファイなプロダクションが、親密な雰囲気を醸し出しており、アルバム全体に漂う神秘的なムードに寄与している。
8. Wind Chimes
『Smile』から引き継がれたこの曲は、ウィルソンの音楽的な実験が色濃く表れた楽曲だ。風鈴の音を模したサウンドや、幽玄的なコーラスが印象的で、音楽そのものが幻想的な風景を描き出している。サイケデリックなムードが強く、まるで夢の中をさまようかのような感覚を与える。
9. Gettin’ Hungry
軽快なビートとソウルフルなボーカルが特徴のこのトラックは、アルバムの中でも異彩を放つ一曲だ。リズムセクションが強調され、グルーヴ感があり、他の楽曲に比べてよりシンプルでストレートな印象を受ける。ウィルソンとマイク・ラブのデュエットもこの曲の魅力を引き立てている。
10. Whistle In
アルバムの最後を飾るこの曲は、シンプルな構成ながらもハーモニーが心地よく、リラックスしたムードを持っている。アルバム全体の奇妙で実験的な要素に対して、ここでは軽やかで温かみのあるフィナーレを感じさせる。
アルバム総評
『Smiley Smile』は、The Beach Boysにとって最も大胆で実験的な作品であり、その奇妙な魅力と不完全さが独特のカルト的人気を持っている。サイケデリックな要素とローファイなプロダクションが融合したこのアルバムは、リスナーにとって挑戦的な聴き心地を提供するが、その中には美しさと不思議な魔力が詰まっている。ウィルソンの破壊的な創造性が際立つ作品であり、ポップ音楽の枠を超えた前衛的な試みが評価されている。最初のリリース時には商業的成功を収めなかったが、後に多くのアーティストやリスナーに影響を与えた作品だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
- 『The Piper at the Gates of Dawn』 by Pink Floyd
サイケデリックな音楽が好きなリスナーにはぴったりの一枚。幻想的なサウンドスケープと実験的なアプローチが『Smiley Smile』と共通している。 - 『The Soft Parade』 by The Doors
サイケデリック・ロックとポップの融合が感じられるアルバム。奇妙で複雑な楽曲が特徴で、『Smiley Smile』の実験的な側面を楽しむ人におすすめ。 - 『Forever Changes』 by Love
サイケデリック・フォークの名盤。緻密なアレンジとサウンドの実験精神が、The Beach Boysのアプローチと響き合う作品だ。 - 『Odyssey and Oracle』 by The Zombies
バロック・ポップとサイケデリックな要素が融合した美しい作品。ウィルソンの影響を感じさせる豊かなハーモニーが魅力的。 - 『Smile Sessions』 by The Beach Boys
『Smiley Smile』のオリジナル構想であった『Smile』の完成形に近いアルバム。ウィルソンの壮大なビジョンがより明確に描かれ、実験的なサウンドが楽しめる。
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