発売日:1975年10月24日
ジャンル:アートロック、グラムロック、ポップロック
概要
Roxy Musicの6作目『Siren』は、バンドの1970年代前半を締めくくる重要作であり、同時に彼らのキャリアの中でもっとも広く知られた作品のひとつである。前作『Country Life』で見せた洗練された官能性とポップ性をさらに推し進めつつ、本作ではその魅力がいっそう整理され、より大衆的な届き方を獲得している。結果として『Siren』は、Roxy Musicが持っていたアートロック的な知性、退廃的な美意識、そしてポップ・バンドとしての即効性が高い次元で結びついたアルバムとなった。
Roxy Musicはデビュー以来、単なるロック・バンドではなかった。ブライアン・フェリーの粘り気のある歌唱と洗練された美意識、アンディ・マッケイのサックスとオーボエによる妖しい色彩、フィル・マンザネラの鋭くも流麗なギター、ポール・トンプソンの力強いドラミング、そしてエディ・ジョブソンのキーボード/ヴァイオリンが生み出す人工的かつ耽美的な質感。そのどれもが、同時代のロックの中では際立っていた。彼らはグラムロックの華やかさを持ちながらも、David Bowieのような変身譚やT. Rexの原始的な快楽とは異なり、より都会的で、よりファッション感覚に優れ、どこか冷ややかな距離感をまとっていた。
その意味で『Siren』は、Roxy Musicの美学がもっともわかりやすく結晶した作品と言える。初期の『Roxy Music』『For Your Pleasure』には実験精神や破格の混沌が濃く残っていたし、『Stranded』『Country Life』ではよりバンドとしてのまとまりが強まっていた。本作ではその流れの先にある、完成されたスタイルが聴ける。初期の危うさはやや後退しているが、その代わりに楽曲の輪郭が非常に明瞭で、メロディとムードのコントロールが圧倒的にうまい。つまり本作は、Roxy Musicが“前衛的でスタイリッシュなバンド”であるだけでなく、洗練されたヒット曲を書けるポップ・グループでもあったことを証明している。
その象徴が、アルバム冒頭に置かれた「Love Is the Drug」である。この曲の成功によって『Siren』はRoxy Musicの代表作としての位置を確かなものにしたが、本作の価値は決してその一曲に尽きない。むしろアルバム全体を通して聴くと、恋愛、欲望、退廃、都市生活、人工美といったRoxy Music的主題が、統一された質感の中で流れていることがわかる。ブライアン・フェリーの歌詞には、愛を理想化するのではなく、駆け引きや依存や演技を含んだものとして描く傾向があるが、本作ではその傾向が特に鮮やかだ。ここにあるのは純粋なラブソングではなく、恋愛をめぐる欲望と演出の美学なのである。
また、『Siren』は1970年代後半から1980年代にかけてのポップ/ニューウェイヴ/ニューロマンティック以降に与えた影響という意味でも重要である。Roxy Musicはもともと後続世代への影響が大きいバンドだが、本作の人工的なグルーヴ感、ラグジュアリーな退廃、クールな色気は、Duran DuranやJapan、Spandau Ballet、さらには後年の洗練されたポップ・ロック全般へつながっていく。ロックが“生々しさ”や“本物らしさ”ばかりを価値としがちな中で、Roxy Musicは一貫して人工性や装飾性を武器にしていた。そして『Siren』は、その人工性が最も魅力的に機能した一枚なのである。
全曲レビュー
1. Love Is the Drug
Roxy Music最大級の代表曲であり、本作の顔とも言える楽曲。跳ねるようなベースライン、シャープなギター、しなやかなリズム、そしてブライアン・フェリーの粘り気のあるボーカルが組み合わさり、極めて洗練されたポップ・ロックに仕上がっている。タイトルだけ見ると愛を賛美する歌のようだが、実際には“愛”というより“欲望”や“中毒性”の感覚が前面にある。恋愛はここで幸福ではなく、追い求める快楽、都市の夜のゲーム、やめられない衝動として描かれる。
この曲の革新性は、ロック、ファンク、ポップの要素をきわめてスマートに融合している点にもある。グラムロック的なけばけばしさは抑えられ、その代わりに都会的な色気と運動性が強調されている。Roxy Musicが単に耽美なアートロック・バンドではなく、身体を動かさせる洗練されたグルーヴを持っていたことがよくわかる名曲だ。
2. End of the Line
冒頭曲の勢いを受け継ぎながら、よりメロウで哀感を帯びた表情を見せる一曲。タイトルの“終着点”というイメージどおり、関係の終わりや感情の行き止まりがにじんでいる。とはいえ、Roxy Musicはこの種のテーマを露骨な悲劇としては歌わない。むしろどこか余裕を残したまま、終わりそのものをスタイリッシュに見せる。そのバランス感覚が実に彼ららしい。
演奏面では、リズムの安定感と装飾の巧さが光る。派手な爆発はないが、その分アルバム全体の流れを整える役割が大きい。『Siren』が単なるヒット曲集に終わらず、統一されたアルバムとして成立しているのは、こうした曲の配置が絶妙だからでもある。
3. Sentimental Fool
タイトルどおり、感傷的な愚か者、つまり恋に振り回される存在を扱った楽曲。Roxy Musicにおいて“センチメンタル”は、無垢な純情というより、どこか自己演出的で、少し自虐を含んだ感情として描かれることが多い。この曲でも、恋に酔い、傷つき、わかっていながら抜け出せない人物像が浮かぶ。
音楽的にはバラード寄りの落ち着いたトーンを持ちながら、サウンドの質感はあくまで洗練されている。フェリーの歌唱は感情を剥き出しにするのではなく、あくまで“演じながら本音をにじませる”タイプであり、その独特の距離感がこの曲を甘すぎないものにしている。Roxy Musicのラヴソング観がよく表れた一曲である。
4. Whirlwind
アルバム中盤に置かれたこの曲は、その名の通り渦巻くような運動感を持つ。テンションは比較的高く、サウンドにも前進力があり、アルバムに再び勢いをもたらす役割を担っている。Roxy Musicの楽曲にはしばしば、優雅さと不安定さが同居するが、この曲ではその不安定さがより表に出ている。
歌詞

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