
発売日: 1964年3月2日
ジャンル: サーフ・ロック、ホットロッド・ロック、ポップ
概要
『Shut Down Volume 2』は、ザ・ビーチ・ボーイズ(The Beach Boys)が1964年に発表した5作目のスタジオ・アルバムである。
タイトルに「Volume 2」とあるのは、前年にキャピトル・レコードが他アーティストのコンピレーションとしてリリースした『Shut Down』にちなんでおり、実質的にはビーチ・ボーイズによる“続編的コンセプト作”として位置づけられる。
本作は、サーフィンや車といった既存テーマを軸にしつつも、サウンド面での成熟と内省的な作風への転換が始まった過渡期の作品である。
「Fun, Fun, Fun」や「The Warmth of the Sun」といった代表曲は、ポップの枠を超えて感情表現の深みを獲得しており、ブライアン・ウィルソンが本格的に作家・プロデューサーとして台頭したことを示す。
また、バンドの演奏力やスタジオ技術も格段に向上しており、後の『Today!』(1965)へとつながる“音の設計”が始まっていることがわかる。
全曲レビュー
1. Fun, Fun, Fun
アルバムを象徴する大ヒット曲であり、ティーンエイジャー文化の自由と反抗をテーマにした傑作。
オープニングのギターリフはチャック・ベリー直系だが、そこにブライアン特有のハーモニーが重なり、独自の明るさと疾走感を生む。
2. Don’t Worry Baby
本作最大の名曲にして、ブライアン・ウィルソンの内面性を決定づけたバラード。
恋と不安、希望と恐れが同居する心理描写を、天上のようなハーモニーで包み込む。
この曲は『Pet Sounds』への扉を開いたといっても過言ではない。
3. In the Parkin’ Lot
放課後の駐車場を舞台にした青春スケッチ。
学校帰りの甘酸っぱさを漂わせるリズムとヴォーカルの掛け合いが微笑ましい。
4. “Cassius” Love vs. “Sonny” Wilson
マイク・ラヴとブライアン・ウィルソンの架空の口喧嘩を模したコミカルなトラック。
バンド内の軽妙な空気を伝える小品で、当時のティーン誌文化を意識した演出でもある。
5. The Warmth of the Sun
ジョン・F・ケネディ暗殺直後に書かれたとされる、深い喪失感に包まれた楽曲。
“悲しみの中にも温もりがある”というメッセージが、静謐なメロディの中で美しく響く。
ビーチ・ボーイズの音楽が“精神的慰め”へと昇華した最初の瞬間といえる。
6. This Car of Mine
デニス・ウィルソンがリードを務めるロックンロールナンバー。
粗削りながらも情熱的なヴォーカルが魅力で、兄弟間の音楽的個性の違いが際立つ。
7. Why Do Fools Fall in Love
フランキー・ライモンのカバー。
オリジナルのドゥーワップにブライアン流のハーモニーを加え、50年代的ノスタルジーを現代化している。
8. Pom Pom Play Girl
軽快なガールソング。
サーフィン・サウンドの明るさとティーンポップ的甘さが融合した初期らしい楽曲。
9. Keep an Eye on Summer
切なさを含んだ青春の小品。
過ぎ去る季節を見つめる視点が、のちの“永遠の夏”テーマの萌芽となる。
10. Shut Down, Part II
インストゥルメンタル・トラック。
ホットロッド文化の勢いを音で再現した、エネルギッシュな演奏。
11. Louie Louie
キングスメンのヒット曲をカバー。
荒々しい演奏がバンドのルーツを感じさせる。
12. Denny’s Drums
デニス・ウィルソンのドラムソロ。
ライブ感あふれるクロージングで、バンドの“生音”の魅力を伝える。
総評
『Shut Down Volume 2』は、ビーチ・ボーイズがサーフィンと車という題材を超えて、“感情”と“物語”を音楽に託し始めた作品である。
その中でブライアン・ウィルソンは、作曲家としてだけでなくプロデューサーとしての感性を確立し、ハーモニーと録音技術を駆使して独自の美学を築き上げた。
「Don’t Worry Baby」や「The Warmth of the Sun」に漂う陰影は、1960年代ポップスにおける感情表現の深度を一段階押し上げた。
同時に、明るさと切なさのバランスを巧みに操るブライアンの才能が、本作で初めて明確に形を取ったといえる。
この時期、ビートルズが登場し、アメリカのポップシーンは大きな転換点を迎えていた。
そんな中で『Shut Down Volume 2』は、“アメリカの音”の誇りを守りながらも、芸術性へと舵を切った歴史的作品として評価される。
おすすめアルバム
- All Summer Long / The Beach Boys
続く作品として、明るくも成熟した“永遠の夏”を描く。 - Today! / The Beach Boys
感情表現とスタジオ技術がさらに深化した次なる転換点。 - Pet Sounds / The Beach Boys
ブライアン・ウィルソンの芸術的到達点。 - Drag City / Jan & Dean
ホットロッド文化を共有する同時代的名盤。 - Summer Days (And Summer Nights!!) / The Beach Boys
明るさと内省のバランスを極めた中期の代表作。
制作の裏側
『Shut Down Volume 2』の録音は、1963年末から64年初頭にかけて行われた。
当時ブライアンは神経症的な不安を抱えながらも、スタジオでの指揮を完全に掌握していた。
彼はヴォーカル・トラックのバランスに徹底的にこだわり、リヴァーブやダブルトラッキングを駆使して音像を立体化。
「Don’t Worry Baby」は最初、ザ・ロネッツに提供する予定だったが、最終的に自身のヴォーカルで録音され、結果的に彼の最も個人的な作品となった。
この頃からブライアンはツアーから離れ、スタジオ専任プロデューサーへと変貌していく。
その最初の転機が、この『Shut Down Volume 2』なのである。



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