発売日: 1974年5月
ジャンル: ハードロック、ブルースロック、ジャズロック
抑えきれない衝動と技巧が交錯する、過渡期の実験作
『Shock Treatment』は、Edgar Winter Groupが1974年に発表したスタジオアルバムであり、前作『They Only Come Out at Night』の商業的成功を受けて制作された作品である。
ここには、エドガー・ウィンターのプレイヤーとしての技巧と、当時のバンドとしての緊張感が同居している。
『Frankenstein』のような突き抜けた一撃はないが、その代わりにアルバム全体での構成美やグルーヴ感が強化され、音楽的にはむしろ深化していると言えるかもしれない。
ジャンル的にはブルースロックをベースにしつつも、ジャズやファンク、サイケデリックなテクスチャーを取り込み、70年代中盤のロックの変容を反映している。
全曲レビュー
1. Somebody’s Gotta Do It
スローなテンポとブルース風味が際立つオープニング。
エドガーのヴォーカルが、力強くも哀愁を帯びた表情を見せる。
2. Easy Street
ファンキーなリズムセクションが牽引する軽快なナンバー。
ホーンアレンジが印象的で、スティーリー・ダン的な洗練された空気を感じさせる。
3. Sundown
夕暮れ時のムードを思わせるしっとりとした曲。
メロディアスな旋律と穏やかなギターが、静かな内省を誘う。
4. Miracle of Love
ソウルフルなバラードで、エドガーの多面的な音楽性が垣間見える。
甘美なストリングスの使い方も特徴的。
5. Do It Again
前作の「Free Ride」に通じる明快なロックンロール・チューン。
カラッとしたギターリフが印象的で、ライヴ映えする曲調。
6. Rock & Roll Woman
タイトル通り、ロックンロールへのオマージュに満ちた一曲。
ヴォーカルとギターが絡み合うシンプルな構成の中に、強い熱量が込められている。
7. Captain Video
異色のインストゥルメンタル。
スペース・ジャズ的とも言えるサウンドスケープで、エドガーの実験精神が光る。
8. River’s Risin’
アルバムの中でも最もキャッチーな一曲で、シングルとしても成功を収めた。
爽快なテンポと力強いコーラスは、アメリカン・ロックの王道を行く。
9. Can’t Tell One From the Other
ヴォーカルハーモニーとブルース・ギターが融合した楽曲。
内省的ながらもドラマチックな展開が魅力。
10. Maybe Some Day You’ll Call My Name
どこか郷愁を感じさせるミディアム・バラード。
ピアノとストリングスによる叙情的なアレンジが、心の奥を静かに打つ。
11. Someone Take My Heart
アルバム終盤に現れるロマンティックな曲。
繊細な歌声とジャジーなリズムが、ナイトクラブ的な情景を想起させる。
12. Animal
エンディングを飾るファンキーでアグレッシヴな一曲。
野性味とエネルギーが全開で、タイトルの通り“獣性”を表現しているかのようだ。
総評
『Shock Treatment』は、Edgar Winter Groupがバンドとして円熟期を迎えつつあった時期に制作されたアルバムである。
前作のようなインパクト重視の楽曲構成から一歩進み、より多様なジャンルの融合と構成力に重きを置いている。
ブルース、ジャズ、ソウル、ファンクを自在に行き来するスタイルは、70年代半ばのクロスオーバー感覚を体現しており、当時の音楽シーンの空気を豊かに伝えてくれる。
派手さは控えめであるが、その分だけ“演奏で語る”という本質的なロックの美学が前面に出た作品とも言える。
深く音楽に入り込みたいリスナー、あるいはジャズやファンクを愛する耳にとって、本作は“エドガー・ウィンターという才能”の輪郭をより鮮明に捉えさせてくれる一枚なのだ。
おすすめアルバム
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Steely Dan – Countdown to Ecstasy
ジャズとロックの融合という点で、本作と通じる洗練されたアレンジが魅力。 -
Billy Preston – That’s the Way God Planned It
ソウルとロックの接点にあるプレイヤビリティと熱量に共鳴する作品。 -
**Frank Zappa – Apostrophe (’)
技巧と実験精神を併せ持つZappaの音世界は、エドガーの野心と重なる。 -
Chicago – Chicago VII
ホーン・セクションとロックの融合という文脈で、構成美と多様性を併せ持つアルバム。 -
Average White Band – AWB
ファンクやソウルといったブラックミュージックの影響を感じさせる白人バンドの好例。
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