1. 歌詞の概要
「She’s So Modern（彼女は超モダン）」は、**The Boomtown Rats（ブームタウン・ラッツ）**が1978年にリリースしたセカンド・アルバム『A Tonic for the Troops』の先行シングルとして発表されたナンバーであり、彼らの初期の勢いと鋭い風刺性を併せ持った、ポップかつパンキッシュなアンセムである。
タイトル通り、この曲は「モダン＝現代的な女の子」をテーマにしているが、ここで歌われる“モダンさ”は単なる称賛ではなく、社会やメディアによって作り上げられたアイデンティティへの皮肉や疑念を含んでいる。見た目は派手で、トレンドを完璧に押さえていて、時代の空気を読んでいるように見える。でも、その実態はどこか空虚で、仮面のようにも思える。
この楽曲における「彼女」は、ファッションとしてのフェミニズム、消費文化としての個性、ポップ・アイコンとしての若者像を象徴する存在だ。**70年代末のUK社会における“新しい女の顔”**が、ゲルドフの言葉によって、愛と批判の入り混じった視線で描かれていく。
2. 歌詞のバックグラウンド
1978年当時、イギリスではパンク・ムーブメントが頂点を迎えつつあり、そのエネルギーを引き継ぎながら、よりメロディアスで風刺的なアプローチを試みたのがThe Boomtown Ratsだった。バンドはダブリン出身の6人組であり、ボブ・ゲルドフを中心に、反骨精神とポップセンスを絶妙に融合させた音楽を展開していた。
「She’s So Modern」は、パンクの“反体制”の精神を内包しながらも、その反体制すらも商品化されていく80年代的消費社会の予兆に対して鋭く切り込んでいる点が特異である。
この曲で歌われる“彼女”は、どこにでもいるような若者でありながら、同時に広告やTV、雑誌の中から飛び出してきたような抽象化されたキャラクターでもある。The Boomtown Ratsは、そうした“イメージだけが一人歩きする人物像”に、辛辣なユーモアで迫っていく。
3. 歌詞の抜粋と和訳
She’s so modern
She’s so 20th century
She’s so modern
She’s been plastic since the Seventies
彼女は超モダン
20世紀そのものみたいな女の子
彼女は超モダン
70年代からずっと“つくられた”存在
このフレーズが繰り返されることで、語り手の視点が明確になる。「モダン」という言葉に込められているのは、単なるスタイルへの驚嘆ではなく、その“つくられた感”への気付きと、ある種の疲れや冷笑である。
She’s got her calculator
She’s got her LPs
She’s got her name on the back of a matchbook
彼女は電卓を持ってる
LP（レコード）も持ってる
マッチの裏には彼女の名前が書いてある
この描写は、70年代後半の“オシャレ女子”像の記号化をユーモラスに捉えている。何を持っているか、何を聞いているか、どこに出入りしているか──そうした記号の積み重ねが彼女の“個性”となっている。
And every time she does
She sucks more juice out of the boys
そしていつだって
彼女は男たちからエネルギーを吸い取っていく
ここでは、彼女が“能動的に仕掛ける者”として描かれているが、その行動もまた、社会が仕掛けた消費と欲望のゲームの中にあることが暗示されている。
（出典：Genius Lyrics）
4. 歌詞の考察
「She’s So Modern」は、ボブ・ゲルドフらしい**二重の視線（賞賛と批判）**が際立つ作品である。
一見すると、“今風のカッコいい女の子”を歌ったアップテンポなポップソングのように聴こえる。だが、歌詞の奥には、“流行に乗ること”“自己を演出すること”の虚しさや、現代社会において女性像がいかにメディアや文化によって構築されているかへの疑念がうっすらと差し込まれている。
この“モダンな彼女”は、自由でセクシーで、男たちを翻弄する。しかしそれは本当の自由なのか、それとも“自由に見えるように設計された存在”なのか？ The Boomtown Ratsはそこに答えを出さないが、消費文化と個人性のねじれた関係を浮き彫りにしている。
このテーマは、のちにマドンナやレディー・ガガ、あるいはソフィーやチャーリーXCXといった“自己をメディア化する女性アーティストたち”によって、さらに複雑化されていくことになる。その原型がすでに1978年のこの曲の中に見て取れるのは驚異的である。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Mirror in the Bathroom by The Beat
自己イメージと社会的視線の交錯を描いた、ニューウェーブの名曲。 - This Charming Man by The Smiths
スタイルとアイデンティティを戯画的に描いたインディー・ポップの傑作。 - Girls on Film by Duran Duran
メディアと女性の視覚消費を鋭く捉えたグラマラスな批評ポップ。 - Common People by Pulp
階級やライフスタイルの“演じる”ことへの痛烈な風刺を描いた名曲。
6. ポップの中に潜む、スタイルと皮肉のせめぎ合い
「She’s So Modern」は、ポップ・カルチャーが“進化”の名の下に何を失っていったのかを、華やかなビートとともに描き出す鋭利な一曲である。
時代を象徴する“彼女”は、本当に自由なのか？ それとも新たなスタイルという罠に囚われているだけなのか？ その問いは、今を生きる私たちにもなお突き刺さる。
The Boomtown Ratsの「She’s So Modern」は、軽やかに聴こえる音の奥に、消費される自己像への憂いと風刺が詰まった、知的なポップ・ソングである。時代が彼女をモダンに仕立て上げた。でも、彼女自身は、それに気づいているのだろうか？――その問いが、曲の最後に、ふっと残る。
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