
1. 楽曲の概要
「Setting Sun」は、イギリス・オックスフォード出身のオルタナティブ・ロック・バンド、Swervedriverによる楽曲である。2015年発表のアルバム『I Wasn’t Born to Lose You』に収録され、同作に先立って公開されたシングルでもある。Swervedriverにとって『I Wasn’t Born to Lose You』は、1998年の『99th Dream』以来、約17年ぶりのスタジオ・アルバムであり、「Setting Sun」はその復帰を告げる重要な曲だった。
Swervedriverは、Adam FranklinとJimmy Hartridgeのギターを中心に、1990年代初頭の英国シューゲイザー、オルタナティブ・ロックの文脈から登場したバンドである。ただし、彼らの音楽はMy Bloody ValentineやSlowdiveのような浮遊感だけでは説明しきれない。轟音ギター、ロードムービー的な疾走感、アメリカン・ロックの硬さ、乾いたメロディ感覚が合わさっており、同時代の英国バンドの中でも独自の位置を占めていた。
「Setting Sun」は、復帰後のSwervedriverが過去のスタイルを単に再現するのではなく、成熟した形で再提示した楽曲である。1990年代の「Son of Mustang Ford」や「Rave Down」のような荒々しい速度感は抑えられているが、ギターの厚み、メロディの哀感、広がりのある音像は明確にSwervedriverらしい。演奏時間は3分弱と比較的短く、復帰作の入口として聴きやすい構成を持っている。
シングルとしては、Televisionの「Days」のカバーをB面に収めた7インチでもリリースされた。Televisionはニューヨーク・パンク以後のギター・ロックに大きな影響を与えたバンドであり、そのカバーを組み合わせたことも、Swervedriverがシューゲイザーだけではなく、より広いギター・ロックの系譜に属していることを示している。
2. 歌詞の概要
「Setting Sun」という題名は、「沈む太陽」を意味する。一般的には終わり、夕暮れ、喪失、時間の経過を連想させる言葉である。この曲でも、沈む太陽は明るい希望の象徴ではなく、過ぎ去ったもの、失われたもの、取り戻せない記憶を照らす存在として機能している。
歌詞には、船、海、沈没、石を投げる行為、記憶の中の沈黙した海といったイメージが現れる。Swervedriverの初期楽曲では、車、道路、砂漠、速度のイメージが目立ったが、「Setting Sun」では水や海が中心に置かれている。これは、復帰後のバンドが以前のような直線的な疾走だけではなく、時間の深さや記憶の沈殿を扱うようになったことを示している。
語り手は、何か決定的な出来事を振り返っているように聴こえる。船が転覆するという表現は、関係の崩壊、計画の失敗、あるいは世代や人生の転換点の比喩として読める。ただし、歌詞は具体的な物語を説明しない。誰が船に乗っていたのか、何が原因で沈んだのかは明示されない。断片的な場面によって、記憶の中に残る衝撃だけが描かれる。
「Setting Sun」は、過去を懐かしむだけの曲ではない。沈む太陽は終わりを示すが、その光はまだ残っている。語り手は完全な絶望の中にいるわけではなく、失われたものを見つめながら、なお音の中で前へ進んでいる。Swervedriverらしいギターの広がりは、この歌詞の沈み込みを支えつつ、単なる哀しみに閉じ込めない役割を果たしている。
3. 制作背景・時代背景
『I Wasn’t Born to Lose You』は、2015年にCobrasideから発表されたSwervedriverの復帰作である。バンドは1989年に結成され、1990年代にCreation Recordsから『Raise』『Mezcal Head』『Ejector Seat Reservation』などを発表した。だが、レーベル事情やメンバー交代、時代の変化もあり、1998年の『99th Dream』以降、長い期間スタジオ・アルバムを発表していなかった。
2008年に再結成した後、Swervedriverはライブ活動を再開した。2013年には新曲「Deep Wound」を公開し、バンドが単なる再結成ツアーのための存在ではなく、新しい作品へ向かっていることを示した。その流れの中で発表されたのが『I Wasn’t Born to Lose You』であり、「Setting Sun」はその最初の本格的な導入曲のひとつとなった。
2010年代半ばには、1990年代のシューゲイザーやオルタナティブ・ロックの再評価が進んでいた。My Bloody Valentineは2013年に『m b v』を発表し、Slowdiveも再結成後に新作へ向かっていた。そうした流れの中で、Swervedriverの復帰も単なる懐古ではなく、1990年代のギター・バンドが現代にどのような音を出すかという文脈で受け止められた。
「Setting Sun」は、過去のSwervedriverを知るリスナーにとっては、非常に自然な復帰曲だった。ギターは厚く、メロディは乾いており、Adam Franklinの声は過度に感情を押し出さない。一方で、1990年代初期のような荒々しさや混乱は抑えられ、音はより整っている。これは、バンドが年齢を重ねたことを隠すのではなく、その変化を音楽の中に取り込んだ結果といえる。
また、アルバム全体はSwervedriverのクラシックな要素を保ちながら、無理に流行へ接近しない作品である。2015年のロック・シーンにおいて、シューゲイザー的な音響は再び若いバンドにも参照されていたが、Swervedriverは自分たちが作ってきたギター・ロックを、過度に現代化せずに提示した。「Setting Sun」は、その姿勢を端的に示す曲である。
4. 歌詞の抜粋と和訳
You setting sun
和訳:
君は沈みゆく太陽
この短い一節は、曲の中心にあるイメージをそのまま示している。「setting sun」は、終わりに向かう光であり、同時に最後まで残る明るさでもある。語り手が「you」と呼びかけているため、この太陽は自然現象であると同時に、誰か特定の人物、記憶、あるいは過去の時間を指しているように聴こえる。
ここで重要なのは、太陽がすでに沈みつつあるという点である。完全に消えたわけではないが、昼の力は失われている。だからこそ、この言葉には喪失と接近が同時にある。Swervedriverのギターが作る広い音像は、この夕暮れの光を感傷的に飾るのではなく、時間の流れとして響かせている。
歌詞の引用は、批評・解説の目的に必要な最小限の範囲にとどめている。歌詞の権利は作詞者および権利管理者に帰属する。
5. サウンドと歌詞の考察
「Setting Sun」のサウンドは、Swervedriverの復帰作らしく、初期の特徴を保ちながらも過度に若作りしていない。ギターは厚く重ねられているが、『Raise』や『Mezcal Head』のように衝突するような荒々しさを前面に出すというより、より滑らかで広い。轟音でありながら、曲のメロディを覆い隠さない。
Adam FranklinとJimmy Hartridgeのギターは、Swervedriverの核である。この曲でも、二本のギターは単純にリフを重ねるだけではない。片方がコードの厚みを作り、もう一方が空間や動きを与える。音の層はシューゲイザー的だが、輪郭は比較的はっきりしている。Swervedriverのギターは、夢の中に沈むための音ではなく、記憶の中を走るための音である。
リズムは、初期の代表曲ほど前のめりではない。ドラムは曲をしっかり支えているが、過剰にスピードを強調しない。これにより、歌詞の持つ夕暮れや沈没のイメージが落ち着いて響く。もしこの曲が初期のような高速のビートで演奏されていれば、歌詞の沈み込みは弱くなっていただろう。復帰後のSwervedriverは、速度よりも密度を選んでいる。
ベースは低音の安定感を作り、ギターの広がりを下から支えている。Swervedriverの音楽では、ギターの存在感が大きいためベースが目立ちにくいが、「Setting Sun」では低音が曲の落ち着きを決めている。沈む太陽、沈む船、静かな海という歌詞のイメージに対して、ベースは曲の重力として機能している。
ボーカルは、Adam Franklinらしい抑制された歌い方である。強く叫ぶのではなく、言葉を音の中に置いていく。これにより、曲は個人的な喪失を大げさな悲劇としてではなく、時間の経過の中にある出来事として扱う。歌詞のイメージはかなり劇的だが、歌い方は落ち着いている。この距離感が、曲を成熟したロック・ソングにしている。
歌詞とサウンドの関係で重要なのは、曲が「終わり」を扱いながら、完全な停滞には向かわない点である。沈む太陽、転覆する船、静かな海というイメージは、喪失や終息を示す。しかし、演奏は前へ進む。テンポは穏やかでも、ギターの流れは止まらない。ここに、Swervedriverの復帰曲としての意味がある。過去を見つめながらも、音楽は現在形で鳴っている。
1990年代のSwervedriverと比較すると、「Setting Sun」は「Duel」や「Last Train to Satansville」のような明確な推進力とは異なる。むしろ『99th Dream』に近い、ややメランコリックで開けたメロディ感覚がある。一方で、ギターの質量はSwervedriverらしく、軽い復活曲にはなっていない。
同じ『I Wasn’t Born to Lose You』の中では、「Autodidact」や「Last Rites」がよりロック色を強く示し、「English Subtitles」はメロディアスな側面を持つ。「Setting Sun」は、それらの中で最も復帰の象徴として機能する曲である。短い演奏時間の中に、過去の余韻と新しい出発の感覚がまとめられている。
6. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Deep Wound by Swervedriver
再結成後のSwervedriverが最初に新曲として提示した重要曲である。「Setting Sun」よりも勢いがあり、復帰後のバンドが単なる懐古ではないことを示している。
- Duel by Swervedriver
1993年の『Mezcal Head』を代表する楽曲である。「Setting Sun」のメロディ感覚が好きな人には、より若く鋭い時期のSwervedriverを知る入口になる。ギターの厚みと歌の輪郭が高いレベルで結びついている。
- Last Train to Satansville by Swervedriver
ロードムービー的な歌詞と強いリフが特徴の曲である。「Setting Sun」が海や記憶のイメージを持つのに対し、こちらは道路や移動の感覚が前面に出る。Swervedriverの別の核心を示す曲である。
- 99th Dream by Swervedriver
1998年のアルバム『99th Dream』の表題曲で、復帰後の「Setting Sun」に近いメロディの柔らかさを持つ。初期の荒々しさから、より開放的でメランコリックな方向へ進んだSwervedriverを理解しやすい。
- Leave Them All Behind by Ride
同じオックスフォード周辺のシューゲイザー文脈で比較できる曲である。Swervedriverよりも浮遊感が強いが、ギターの広がりと長い時間感覚を共有している。「Setting Sun」の開けた音像が好きな人には関連して聴ける。
7. まとめ
「Setting Sun」は、Swervedriverが2015年に発表した復帰作『I Wasn’t Born to Lose You』を象徴する楽曲である。1998年の『99th Dream』以来となるスタジオ・アルバムに先立って公開され、バンドが長い空白の後もSwervedriverらしいギター・ロックを鳴らせることを示した。
歌詞は、沈む太陽、転覆する船、静かな海、記憶といったイメージを通じて、時間の経過と喪失を描いている。初期Swervedriverに多かった車や道路のイメージとは異なり、この曲では水と夕暮れが中心にある。その違いは、復帰後のバンドが過去の速度感だけでなく、成熟した時間感覚を扱うようになったことを示している。
サウンド面では、厚いギター、抑制されたボーカル、落ち着いたリズムが組み合わされている。轟音は残っているが、過度に攻撃的ではない。曲は終わりのイメージを扱いながら、音としては前へ進んでいる。この点が、復帰曲としての説得力につながっている。
「Setting Sun」は、Swervedriverの最も激しい曲ではない。しかし、長い沈黙の後にバンドがどのように戻ってきたのかを示すうえで重要な一曲である。過去の音を単に再現するのではなく、時間の経過を受け入れた上で鳴らされたSwervedriverのギター・ロックとして、復帰期を代表する楽曲といえる。
参照元
- Pitchfork – Swervedriver Return With New Album I Wasn’t Born to Lose You, Share “Setting Sun”, Announce Tour
- Pitchfork – Swervedriver: I Wasn’t Born to Lose You Album Review
- Discogs – Swervedriver – Setting Sun / Days
- Discogs – Swervedriver – I Wasn’t Born To Lose You
- Spotify – Setting Sun by Swervedriver
- Swervedriver Official
- Dork – Setting Sun by Swervedriver

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