1. 歌詞の概要
「Scared of the Dark」は、イギリスのポップグループStepsが2017年にリリースしたアルバム『Tears on the Dancefloor』のリードシングルである。2001年の「Words Are Not Enough/I Know Him So Well」以来、およそ16年ぶりの本格的なシングルとして発表され、大人のポップへと進化したStepsの新章を告げる楽曲となった。
楽曲のテーマは、「暗闇の中でも恐れずに前へ進む」という力強い決意。恋愛や人生における“恐れ”や“不安”を乗り越えようとするメッセージが、力強いメロディとともに語られる。タイトルの“Scared of the Dark(暗闇が怖い)”というフレーズは比喩的で、実際には心の孤独や喪失への恐れを意味している。
華やかでドラマティックな構成と、サビでの大きな展開が特徴で、悲しみを乗り越えて自ら光になるような、ポジティブでエンパワーメントに満ちた世界観が描かれている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Scared of the Dark」は、Stepsの再結成後に発表された最初のオリジナルシングルであり、グループとしての第二章を象徴する重要な楽曲である。プロデュースにはCarl RydenとFiona Bevanが参加し、EDMやクラシックなユーロポップの要素を融合した、時代に即したダンス・ポップに仕上がっている。
再結成といってもただの懐古主義ではなく、この曲には大人になった彼らが人生の複雑さと向き合いながら、ポップスの力を再定義しようとする姿勢がはっきりと感じられる。サウンドは80年代風のストリングスやシンセが特徴で、ABBAやKylie Minogueの影響を思わせつつも、どこかミュージカル的なスケール感を持っている。
イギリスのチャートではダンス・チャートで1位を記録し、ラジオでも高い評価を受けた。特にLGBTQ+コミュニティを中心に、再びStepsの名が支持されるきっかけとなった楽曲でもある。
3. 歌詞の抜粋と和訳
I’m not scared of the dark
私はもう、暗闇なんて怖くないWhen the sun goes down, you light the night
太陽が沈んでも、あなたが夜を照らしてくれるDon’t leave me in the shadows
私を影の中にひとりにしないでI’m not afraid anymore
もう恐れてなんかいないLove me right through the night
一晩中、私を愛してI’m not scared of the dark
暗闇なんて、もう怖くないの
引用元:Genius Lyrics – Steps / Scared of the Dark
4. 歌詞の考察
この楽曲の魅力は、「恐れを手放し、愛に身を委ねる」という感情の転換にある。冒頭ではまだどこかに影を残した不安が描かれているが、サビに向かってその不安が自信へと変わっていく。まるで夜明けを迎えるかのような構成が、リスナーの感情を引き上げるのだ。
「暗闇(the dark)」は、恋人を失うことへの恐れ、自分が愛されないのではという疑念、あるいは孤独そのものを象徴している。だがそれを「私はもう怖くない」と歌うことで、Stepsは“成熟した愛”を提示しているようにも思える。これは10代の恋ではなく、人生を経験した大人たちが再び恋に落ちたときの感情だ。
また、歌詞は明確なジェンダーを持たず、誰もが自分自身の物語として投影できる普遍性を持っている。だからこそ、この曲は多くの人々、特に人生の転機や試練の中にいる人にとって、ひとつのエールとなるのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Dancing On My Own” by Robyn
孤独の中でも踊り続ける姿が重なる、エモーショナル・ダンスポップ。 - “Into the Blue” by Kylie Minogue
傷を乗り越えたその先にある自由を歌った、前向きなポップアンセム。 - “Runaway (U & I)” by Galantis
エレクトロニックな高揚感と切なさが交錯する一曲。 - “Alive” by Sia
サバイバルと自己肯定の力強さが、力をくれる。 - “Call the Shots” by Girls Aloud
関係の終わりと自己主張を、美しくクールに描いた名曲。
6. “ポップであること”の再定義
「Scared of the Dark」は、Stepsにとってただのカムバックソングではない。これは彼らが自らのルーツを再確認しながら、新しい時代に即したポップスのかたちを模索した結果であり、“懐かしさ”と“革新”が見事に融合した作品である。
90年代のアイドルグループが再結成する場合、しばしばノスタルジーに寄りかかる傾向があるが、この楽曲は違う。むしろ、過去を踏まえたうえで、今この瞬間のリスナーと真正面から向き合おうとしている。だからこそ、「Scared of the Dark」は世代を越えて響くのだ。
それは、歳を重ねてもなお「ポップであること」が持つ力を信じる全ての人にとって、小さな希望のような存在なのかもしれない。夜の静けさの中に、静かに灯るその光のように──。
コメント