発売日: 2017年9月15日
ジャンル: インダストリアル・ロック、エレクトロニック、ダーク・ウェイヴ
砂漠化した未来で、人はなお歌う——終末と信仰の狭間に響く“破壊後の物語”
Savage (Songs from a Broken World)は、Gary Numanが自身のキャリア第3の黄金期を築き上げた記念碑的アルバムである。
彼の音楽がかつて予言してきた“破壊された未来”が、現実のものとなりつつある2017年。
気候変動、社会崩壊、宗教的暴力といった主題が、ここでは架空のディストピア世界を通じて描かれる。
その舞台は文明が崩壊した後の砂漠地帯。そこに残された人々は、かつての文化と信仰の残骸の中で、なおも“生きる理由”を探している。
プロデュースはNine Inch Nailsとの仕事でも知られるAde Fentonが担当。
シンセサイザーと重低音、アラビックな旋律やリズムが融合し、冷徹でありながら人間的な温度を残したサウンドスケープを生み出している。
Numanの声も、かつての冷たさに加えて“老い”と“痛み”を含む深みを得ており、この世界観を真に説得力のあるものにしている。
全曲レビュー
1. Ghost Nation
アルバムの幕開けにふさわしい、重厚なインダストリアル・ビートと焦燥感。
“亡霊の国家”とは、もはや実体を失った文明の比喩か。
神の不在と声なき祈りが、音の砂嵐の中に響く。
2. Bed of Thorns
廃墟の中のバラード。
“茨のベッド”に身を沈めるような、痛みと美しさの同居。
アラブ音階を思わせる旋律が、文明の崩壊後に残された文化の残響を思わせる。
3. My Name Is Ruin
娘のPersia Numanが参加し、幻想的なコーラスを加えた代表曲。
“私の名は破滅”というフレーズが、アイデンティティそのものの崩壊を象徴する。
抑揚とリズムのグルーヴが絶妙で、ライブでも定番化している楽曲。
4. The End of Things
静かでメランコリックな導入から、徐々に波のように押し寄せるサウンド。
「すべての終わり」は破滅ではなく、再構築の始まりを意味するようにも聴こえる。
5. And It All Began with You
砂漠の風の中で語りかけるようなラブソング。
個人の記憶と文明の滅亡がオーバーラップする、叙情的な瞬間。
6. When the World Comes Apart
ビートは強烈だが、テーマは繊細。
世界が崩壊していく中で、“心の支え”を探す人間の姿が浮かび上がる。
7. Mercy
宗教性を強く意識させる祈りのような楽曲。
破滅の中で「慈悲(Mercy)」を乞う声は、神の不在をなおも仰ぐ。
8. What God Intended
アルバム中もっとも苛烈なナンバー。
「これが神の意図だったのか?」という問いかけは、信仰と暴力、科学と責任の矛盾を鋭く突く。
9. If I Said
よりパーソナルなスケールで語られる対話的な楽曲。
関係性の中に生まれる“言葉の重み”と、“語れないもの”が同居する。
10. Pray for the Pain You Serve
歪んだギターとビートが特徴的な攻撃的トラック。
苦痛を奉仕する対象に祈りを捧げる——という逆説的な構造が、神と人の関係をアイロニカルに描く。
11. Broken
ラストを飾るのは、静かで内省的な終焉。
壊れてしまった存在、それでも“在り続けようとする”意志が、このアルバムの結論を象徴している。
総評
Savageは、Gary Numanが“老い”や“終末”といった重く現実的なテーマを、これまで以上にストレートに、かつ詩的に描いた傑作である。
シンセの冷たさ、インダストリアルの激しさ、そして異国の旋律と宗教的寓意が混じり合い、ひとつの“文明の亡霊”がここに形成される。
彼の音楽はもはや“未来を予言するもの”ではなく、“壊れた未来にどう対峙するか”を問うものへと進化している。
このアルバムが放つメッセージは、どんな宗教よりも厳しく、どんな祈りよりも切実である。
おすすめアルバム
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Splinter (Songs from a Broken Mind) / Gary Numan
Savageに先行する“精神の破壊”をテーマにした内面のドキュメント。 -
Hesitation Marks / Nine Inch Nails
冷静な怒りと静謐な絶望が共存するインダストリアルの現代形。 -
The Downward Spiral / Nine Inch Nails
破壊と自己否定の究極系。Numanの影響が最も色濃く出た作品。 -
Gone to Earth / David Sylvian
終末的叙情と宗教的メタファーが漂うポスト・アート・ポップの金字塔。 -
Mezzanine / Massive Attack
陰鬱と官能が交差する、退廃的な未来都市の音像。
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