1. 歌詞の概要
「Salad Days」は、マック・デマルコが2014年にリリースしたセカンド・フルアルバム『Salad Days』の表題曲であり、彼のキャリアにおける大きな転換点となった一曲である。タイトルの「Salad Days（サラダ・デイズ）」とは、英語圏の慣用句で「若さと無鉄砲さに満ちた日々」「青春時代」を意味しており、シェイクスピアの『アントニーとクレオパトラ』が語源とされる。
この楽曲において、主人公はすでに“サラダ・デイズ”を過ぎ去った存在として描かれている。つまり、かつての無邪気さや若さに対して、どこか諦観や哀愁を抱きながら日々を生きる姿が浮かび上がる。陽気でレイドバックしたサウンドとは裏腹に、歌詞には静かで繊細な内省が流れており、デマルコ自身の心境の変化や、インディー・スターとして注目を集めることへの違和感がにじみ出ている。
この曲は、人生の移ろいとその受け入れ方について語った、成熟と葛藤のポップソングである。
2. 歌詞のバックグラウンド
『Salad Days』は、前作『2』でインディー・シーンに名を轟かせたマック・デマルコが、その成功の直後に制作したアルバムである。デマルコは、ツアー生活やメディアからの注目、ファンとの距離感の変化に戸惑い、音楽や生活に対するスタンスを見つめ直さざるを得なくなった。その心境が反映されたのが、まさにこの「Salad Days」なのである。
本人のコメントによれば、「あの曲は“もう昔のようにはいかない”っていう気持ちを吐き出したもの」だという。若さを消費していく感覚や、自由の代償としての疲弊感。それを彼は淡々と、時に諦めたようなトーンで歌いながらも、どこか優しく自分を見守っている。
この曲はリリース当初から非常に多くの共感を呼び、マック・デマルコの代表作として広く認知されるようになった。また、彼の“ゆるいけど誠実”な作風が、表層的なノスタルジーではなく、時間の不可逆性に対する深い受容であることを証明した一曲でもある。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に印象的なリリックを抜粋し、和訳とともに紹介する。
Salad days are gone
サラダ・デイズはもう終わったMissing hippy Jon
ヒッピーのジョンがいないのが寂しいRemembering things just to tell ‘em so long
何かを思い出しては、さよならを告げるだけOh mama, actin’ like my life’s already over
ああママ まるで俺の人生はもう終わったみたいに振る舞ってるOh dear, act your age and try another year
そうさ 年相応にふるまって、次の年を迎えろよって感じだAlways feeling tired
いつも疲れてるSmiling when required
笑わなきゃいけないときだけ、無理に笑ってる
出典：Genius – Mac DeMarco “Salad Days”
4. 歌詞の考察
「Salad Days」は、ただの“懐かしさ”を歌った曲ではない。それはむしろ、若さという時代が終わりつつある中で、それを無理に引き止めるのではなく、少し苦笑いしながら受け入れようとする、大人への過渡期の歌である。
この歌における“疲れ”は、単に身体的なものではない。ツアーでの移動、インタビュー対応、期待に応えること──そうした音楽家としての義務に少しずつ心がすり減っていく感覚。それでも彼は、「それでもやっていくんだ」と、力まずに前を向こうとする。その姿勢が、非常にデマルコらしい。
また、「笑わなきゃいけないときだけ笑う」といったフレーズには、若さの象徴でもある“無邪気さ”を失ったことへの痛みが滲む。かつては心から楽しめていたはずの音楽や人間関係に、次第に“役割”が介在してくる──それは誰もが通過する人生の一幕であると同時に、創作を生業とする者にとっては深刻な問いでもある。
しかしながら、マック・デマルコはそれを悲劇的にではなく、どこか肩の力を抜いて描く。その柔らかさこそが、この曲に込められた最大の美徳であり、「サラダ・デイズが終わったって、それでもまだ音楽は鳴っているんだ」と語りかけるような穏やかさがある。
※歌詞引用元：Genius
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Chamber of Reflection by Mac DeMarco
より内省的でメランコリックな雰囲気を持つ人気曲。孤独と変化へのまなざしが共通。 - Someone New by Hozier
自己変化とアイデンティティの揺らぎを描いた、成熟した視点を持つラブソング。 - That’s Where You’re Wrong by Arctic Monkeys
青春の終わりとその認識を、滑らかなサウンドで包み込んだアンセム的楽曲。 - Lua by Bright Eyes
都会の夜をさまようような孤独感と、気だるい語り口がデマルコと共鳴する。 -
In the Aeroplane Over the Sea by Neutral Milk Hotel
過去と記憶、人生の儚さを鮮やかに描いたインディーの金字塔。
6. 時間の流れを受け入れるということ——スラック世代の小さな叙事詩
「Salad Days」は、“年を取る”というごく自然な現象を、恐れず、哀しまず、ただ静かに眺めることの大切さを教えてくれる楽曲である。それは、青春の栄光を讃えるのではなく、むしろその終わりを自覚したときに初めて見える世界の広がりを歌っている。
マック・デマルコの音楽は決して声高ではない。彼はこの曲でも、ゆるやかなリズム、ざらついたギター、気だるいボーカルを通して、時間の不可逆性と、その中で変わっていく自分を、そっと受け入れていく様子を描く。
「Salad Days」は、すべての“ちょっと大人になってしまった人々”へのラブレターであり、同時に、“まだ大人になりきれない自分”を認めるための小さな歌なのだ。その声は今も、多くのリスナーの心に、穏やかな風のように吹き込んでいる。
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