アルバムレビュー:Sabotage by Black Sabbath

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発売日: 1975年7月28日
ジャンル: ヘヴィメタル、プログレッシブ・ロック、ハードロック


傷だらけの叙事詩——怒り、混乱、そして自己の再構築

1975年、Black Sabbathは6作目となるSabotageで、最も内省的かつ苛烈なアルバムを世に送り出した。
バンドは当時、金銭問題とマネジメントとの法廷闘争の真っ只中。
創造的ピークにありながらも、その足元は揺らぎ続けていた。

タイトルのSabotage(破壊工作)は、その状況を象徴するものだ。
このアルバムは、音楽的実験とメタル的怒り、そして精神的混乱が生々しく同居した“闘争の記録”である。
Vol. 4Sabbath Bloody Sabbathでの美と構築性に比べ、本作はよりむき出しの衝動と鋭利な構成が印象的だ。

音楽的にはさらにプログレッシブな展開が増しつつも、ヘヴィメタルの核は損なわれていない。
むしろ、ここにはサバスの中で最も“人間的な叫び”が刻まれている。


全曲レビュー

1. Hole in the Sky

冒頭からギターが唸りを上げる、まさに“怒りの幕開け”。
タイトル通り“空に空いた穴”から現実の歪みや世界の崩壊を覗き込むような一曲。
曲が突然終わる構成も衝撃的で、その不安定さすら計算されているように感じる。

2. Don’t Start (Too Late)

クラシカルなアコースティック・ギターによる短いインスト。
本編への導入として機能しており、アイオミの作曲家としての幅を示す。

3. Symptom of the Universe

サバス史上屈指の名曲にして、スラッシュメタルの源流とされるスピード感を持った一曲。
“宇宙の症状”というテーマで、存在論的混沌を爆音で描く。
後半には突然アコースティックのパートが挿入され、宇宙的な静寂と祝祭が交錯する。
リフのキレ、構成の大胆さ、そして思想の深さが三位一体となった傑作。

4. Megalomania

約10分に及ぶプログレッシブな大作。
自己崩壊と誇大妄想というテーマを、ゆったりとした導入から狂気的な爆発へと展開させていく。
オジーの歌声が最も演技的に聴こえる楽曲で、語りと叫びの狭間を行き来する。
構成力と感情表現が頂点に達した異色作。

5. The Thrill of It All

重厚なリフと高揚感あるメロディが交差する中盤のキートラック。
“現実の無意味さ”と“精神的逃避”をテーマにした哲学的ロックナンバー。
後半のコーラスワークが美しく、希望の光を一瞬見せる。

6. Supertzar

コーラスとギターによるインストゥルメンタル。
宗教的荘厳さとオカルティックな緊張感が同居した、まるで悪夢のミサ曲のような構成。
バンドの音楽的野心とアレンジ力の結晶。

7. Am I Going Insane (Radio)

ポップ寄りなサウンドだが、リリックは“狂気への疑念”を繰り返す不穏な内容。
副題の“Radio”は“ラジオ用”ではなく、ロンドンの精神病院“ラドクリフ”の俗称に由来する。
そのユーモラスな響きと裏腹に、内容は極めて個人的で切実。

8. The Writ

アルバムの掉尾を飾る、最もパーソナルで痛切な一曲。
マネージャーへの怒りと裏切りへの失望、そして自らのアイデンティティへの問い。
オジーのヴォーカルは怒号から呟き、皮肉から絶望へと変化していき、
最終的には“子供のような声”によるメロディアスなアウトロへと雪崩れ込む。
終わり方までもが“崩壊の美”を宿している。


総評

Sabotageは、Black Sabbathの中で最も“傷口が開いたまま”のアルバムである。
怒りと苦悩、自己破壊と創造、信頼と裏切りがそのまま音に刻まれており、
聴いているこちらまで精神を揺さぶられるような生々しさに満ちている。

それは整った芸術ではない。
だが、崩壊寸前だからこそ生まれる真実の熱量がここにはある。

本作は、ヘヴィメタルがただ“重い音”ではなく、精神のドキュメントとなり得ることを証明した。
そしてこの痛みの記録こそが、サバスをただのバンドではなく“伝説”にしたのだ。


おすすめアルバム

  • Sabbath Bloody Sabbath / Black Sabbath
     構築と幻想の極み。崩壊寸前の前夜を描いた前作。
  • The Wall / Pink Floyd
     自己崩壊と社会批判の精神的ロック・オペラ。内面の迷宮へと続く道。
  • Stained Class / Judas Priest
     内省と構成美が共存する知的メタル。80年代メタルの美学の源泉。
  • Sound of White Noise / Anthrax
     グルーヴと精神的深みが交錯した“成熟期メタル”の名盤。
  • Lateralus / Tool
     構造、精神、重量、すべてをメタルで昇華した現代の“知的サバス”。

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