1. 歌詞の概要
「Runnin’ with the Devil」は、Van Halenが1978年に発表したセルフタイトルのデビューアルバム『Van Halen』のオープニング・トラックであり、彼らのロックンロール哲学を象徴する代表的なナンバーである。ド派手なギターリフ、圧倒的なグルーヴ、そしてデイヴィッド・リー・ロスの挑発的なヴォーカルが合わさり、ロック界に“新たな神話”の幕開けを告げた一曲と言える。
タイトルの「Runnin’ with the Devil(悪魔と走る)」は宗教的な響きを持ちながらも、実際には体制や道徳からの解放、自由な生き方への決意を象徴している。歌詞は明確なストーリーを語るものではなく、自由を求めて家を飛び出し、既存の価値観に背を向けて“悪魔と共に生きる”ことを選ぶ放浪者の心情を描写している。
悪魔(Devil)は、ここでは単なる“悪”の象徴ではなく、常識から外れた自由、欲望、反逆、そして快楽と痛みが混在するロック的生き方のメタファーである。「Runnin’ with the Devil」は、そのような精神の宣言として、デビュー作の一曲目に配置されたことにも深い意味が込められている。
2. 歌詞のバックグラウンド
Van Halenは1970年代末、パンクやディスコ、アートロックが混在する混沌とした音楽シーンに登場し、その**超絶技巧と陽性のエネルギー、そして“悪びれない自己肯定”**によって一躍注目を浴びた。中でも「Runnin’ with the Devil」は、彼らの美学——ロックンロールを生きるという選択——を端的に伝える名刺代わりの楽曲となった。
歌詞の着想について明確な逸話は多くないが、デイヴィッド・リー・ロスが好んだ“神と悪魔”“自由と規律”といった二項対立を象徴するテーマの一つであり、ロス自身の**人生観(ルールや制度を拒否し、感覚に従って生きる)**が色濃く反映されている。
また、曲の冒頭に鳴る不気味で不穏なベース音は、ベーシストのマイケル・アンソニーが何台もの車のクラクションをテープ逆再生で重ねて作ったもので、“悪魔と走る”前の混沌とした導入部として、圧倒的なインパクトを与える演出になっている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Runnin’ with the Devil」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳とともに紹介する。
I live my life like there’s no tomorrow
俺は、明日なんて来ないと思って生きてるんだAnd all I’ve got, I had to steal
今持っているものは、全部奪い取ったものばかりさAin’t got nobody waitin’ at home
家で俺を待ってる奴なんていないRunnin’ with the devil
俺は悪魔と一緒に走ってるI’ll tell ya all about it
この生き方のすべてを、お前に教えてやるよ
出典:Genius – Van Halen “Runnin’ with the Devil”
4. 歌詞の考察
「Runnin’ with the Devil」の語り手は、社会のルールや安定した生活、家族的価値観といった“普通”の生き方を捨て、孤独で不安定でも、自分の意志で生きることを選んだ者である。彼はその代償として愛も安定も捨てたが、それでも「これが俺のやり方だ」と力強く宣言する。
「I live my life like there’s no tomorrow(明日がないつもりで生きてる)」という一節は、文字通り刹那的な快楽主義ともとれるが、同時に生きることへの“真剣な姿勢”の表れとも読める。現代的な意味での「自分らしさの探求」にも通じる、自己決定への固い意志が表現されている。
悪魔(Devil)という言葉は、しばしば道徳的失敗の象徴とされるが、この楽曲では**“規範外であることの誇り”**を表すものであり、既存の道徳や神の支配から自由であろうとするロス的アティチュードが滲んでいる。
さらにこの曲が印象的なのは、激情的に怒りを爆発させるのではなく、どこかクールで飄々とした語り口で自己の選択を語る点にある。これは、「社会を敵に回す俺、カッコいいだろ?」という虚勢ではなく、“それでも俺はこうやって生きる”という静かな宣言であり、だからこそ今なおリスナーの心を打つ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Looks That Kill by Mötley Crüe
破壊的な女性像とロックの危険性を描いた80年代ハードロックの象徴的トラック。 - Hell’s Bells by AC/DC
悪魔的なイメージを纏いつつ、堂々たるリフでロックの力を誇示する一曲。 - You’ve Got Another Thing Comin’ by Judas Priest
社会の常識を覆す意志を、メタルらしい重厚さで歌い上げる名曲。 - Breaking the Law by Judas Priest
法を破ることで初めて自分を見つける、反逆者のためのアンセム。 - Heaven and Hell by Black Sabbath
善悪の曖昧さと精神世界を重厚なリフで描く、哲学的なヘヴィ・メタル。
6. “悪魔と共にある自由”——Van Halenが提示したロックの生き方
「Runnin’ with the Devil」は、Van Halenのデビューアルバムの一曲目として、バンドの美学と哲学をすべて詰め込んだ、宣戦布告のような楽曲である。ラジオ向けに加工されたポップではなく、感情むき出しのハードロックでもない。その中間にある、“自分の欲望と孤独に素直であろうとする態度”こそが、この曲の最大の魅力である。
音楽的にも、この曲はヘヴィなベースライン、リフの反復、ギターソロの切れ味、そしてヴォーカルのドラマ性すべてにおいて、Van Halenというバンドの基礎構造を明確に打ち出している。その後のアメリカン・ハードロックの美学を決定づけたといっても過言ではない。
「Runnin’ with the Devil」は、ロックというジャンルが提示し続けてきたテーマ——自由と孤独、快楽と代償、反逆と生きる覚悟——を最も純度高く提示した曲のひとつである。そしてそれは、現代においてもなお、“誰にも縛られない生き方”を渇望する人々の心を揺さぶり続けている。この曲の中で“悪魔と走る”ことは、実は“自分の人生に責任を持つ”ことなのかもしれない。
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