Rose of Cimarron by Poco(1976)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Rose of Cimarron」は、アメリカのカントリー・ロック・バンド、Poco(ポコ)が1976年にリリースした同名アルバム『Rose of Cimarron』の表題曲であり、アメリカ西部の伝説と詩情を融合させた壮麗なカントリー・バラードである。

この楽曲は、実在した西部開拓時代の女性アウトロー、**ローズ・ダン(Rose Dunn)**にインスピレーションを受けて書かれており、彼女を“Cimarron(シマロン)のバラ”と讃える形で、優しさと強さ、保護者としての慈愛を持つ女性像が描かれている。

語り手は、孤独な流れ者やアウトローたちを慰め、かばい、癒す存在としての“ローズ”に語りかける。彼女は恋人というよりも、荒野に生きる者たちの魂を救う“聖母的”な象徴として描かれ、楽曲全体には荒涼とした土地に差す一筋の光のような希望が込められている。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Rose of Cimarron」は、Pocoのメンバーでありギタリスト/スティール・ギター奏者の**Rusty Young(ラスティ・ヤング)**によって書かれた作品である。彼は、ツアー中に立ち寄ったオクラホマ州の観光パンフレットの中に、ローズ・ダンの物語を見つけ、それに強く心を動かされた。

ローズ・ダンは19世紀末のアメリカで実在した人物で、無法者をかくまった“バッド・ガール”でありながらも、慈悲深く美しい女性として語り継がれてきた存在。ヤングはこの“ローズ”に、アウトローではなく“流浪する魂”を抱えた者たちの慰め人としての役割を投影し、郷愁と理想を織り交ぜた叙情詩的バラードへと昇華させた。

バンドの音楽性も、これまでのカントリー・ロックに加えて、よりスケールの大きなアメリカーナ的サウンドへと進化しており、長尺ながら構成美に富んだ本作は、Pocoの芸術的到達点のひとつとも称されている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

Rose of Cimarron
Dusty roads lead to you
Winds of change still blow through my mind

シマロンのバラよ
ほこり舞う道が 君のもとへと続いている
変わりゆく風が まだ僕の心を吹き抜けていく

Call of your love
Comes to me like a song
Rose of Cimarron

君の愛の呼び声が
歌のように 僕の胸に響く
シマロンのバラよ

引用元:Genius 歌詞ページ

これらの歌詞は、単なる恋心ではなく、土地、記憶、そして心の安らぎへの郷愁を伴っており、“ローズ”という人物が象徴するのは、物語そのものを癒やす存在、歌そのものが語りかける対象であることがわかる。

4. 歌詞の考察

「Rose of Cimarron」は、Pocoの中でもとりわけ叙情性と映像的な広がりを持つ楽曲として異彩を放っている。

まず特筆すべきは、“ローズ”の描かれ方である。彼女はロマンティックな対象であると同時に、**救済者、導き手、そして“心のふるさと”**のような存在として描かれている。その姿には、母性や信仰、そしてアメリカ開拓時代の“夢と現実の交差点”といった象徴が重ねられている。

また、歌詞の中で繰り返される“winds of change(変化の風)”や“dusty roads(埃っぽい道)”といった表現は、流浪する人生や過去の傷を暗示しながらも、ローズという存在によってそれが癒されていく過程を描いている
つまり、これは単なるラブソングではなく、人生に疲れた旅人が、心のよりどころを見出していく“魂の巡礼”の物語なのである。

ラスティ・ヤングのスティール・ギターが紡ぐ旋律は、歌詞の情景をさらに具体的に、かつ詩的に彩っており、まるで西部劇のような映像が広がる。この音の風景が、歌詞と相互に響き合い、一編の叙事詩のような完成度をもたらしている

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Pancho and Lefty by Townes Van Zandt / Willie Nelson & Merle Haggard
    西部の男たちの哀しい物語と、土地の哀愁が宿る傑作。

  • Desperado by Eagles
    アウトローの内面を描いたバラード。孤独と救済がテーマとして重なる。

  • Wildfire by Michael Martin Murphey
    女性と風景が一体化した、幻想的で切ない西部バラード。

  • High Plains Drifter by Ennio Morricone(映画音楽)
    ローズに象徴される“静かな正義”と通じる神話的ムード。

  • Song for a Winter’s Night by Gordon Lightfoot
    愛と郷愁の詩情をたっぷり含んだ、静かなアコースティック・バラード。

6. “伝説”と“現実”が交錯する、カントリー・ロックの叙事詩

「Rose of Cimarron」は、Pocoの楽曲の中でも異色かつ特別な存在であり、物語性と音楽性が完璧に融合した詩的名曲である。

それは単なる恋の歌でも、郷愁のバラードでもない。
それは、“優しさが伝説になるとき”を描いた歌なのだ。

流れ者たちの心を包むような女性、ローズ。
彼女の姿は、どこか聖母マリアのようでもあり、
また、人生の旅の終わりに現れる“最後の安らぎ”のようでもある。

この曲を聴くたびに、
聴き手の心にもきっと“ローズ”が現れる。
それは誰かの記憶の中に、あるいは心の風景の中に生きる、救いとやすらぎの象徴なのだ。

「君の歌声が、僕の胸に響く」
そんな一節に込められた優しさと信頼が、
今も変わらず、多くの人々の旅路に寄り添い続けている。

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