
1. 歌詞の概要
「Rock ‘n’ Roll Fantasy(ロックンロール・ファンタジー)」は、1979年にリリースされたBad Companyの5作目のアルバム『Desolation Angels』のリードシングルとして登場した楽曲である。
タイトルが示すように、この曲の主題は“ロックンロールの幻想”。すなわち、音楽が生み出す夢、救い、陶酔、そしてその裏にある現実とのせめぎ合いが描かれている。
サビでは何度も「This is my rock ‘n’ roll fantasy(これが俺のロックンロール幻想さ)」というフレーズが繰り返され、まるで呪文のように、あるいは願望のように、ロックがもたらす力と矛盾を投げかけてくる。
一見すると観客に向けたコンサート賛歌のようでもあり、バンドマン自身が理想と現実の間で自らに言い聞かせる自己暗示のようにも思える。軽快なギターリフと、シンセサイザーの導入によるモダンなアレンジが相まって、Bad Companyの中期以降の音楽的方向性を象徴する一曲となっている。
2. 歌詞のバックグラウンド
この楽曲は、ボーカルのポール・ロジャースによって書かれ、バンドの新しい時代の始まりを告げる曲として位置づけられている。1970年代後半、Bad Companyは初期の泥臭くも力強いブルース・ロックから脱却し、より洗練されたサウンドへと移行し始めていた。その中で生まれたのがこの「Rock ‘n’ Roll Fantasy」である。
制作のきっかけは、あるライブの最中にポール・ロジャースが突然浮かんだリフを元に即興で作り上げたという逸話がある。ステージの興奮、客席との一体感、そしてその瞬間のエネルギーがそのまま楽曲に投影されたとも言われている。
加えてこの時代、ロックバンドはかつての理想主義を失い、商業的成功と芸術的信念の狭間で揺れていた。そんな背景の中で、「ファンタジー」としてのロックンロールを再確認するこの楽曲は、時代の鏡としての意味合いも強い。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元:Genius Lyrics
Here comes the jesters, one, two, three
「道化師たちがやって来た、1人、2人、3人と」
It’s all part of my fantasy
「すべては俺の幻想の一部さ」
I love the music and I love to see the crowd
「音楽が好きで、人々が沸くのを見るのがたまらない」
Dancin’ in the aisles and singin’ out loud
「客席で踊って、大声で歌ってくれるんだ」
ここで描かれているのは、ステージに立つ者の視点――音楽に集い、解放される人々の光景である。
そしてそれが「fantasy(幻想)」であるという表現は、ポール・ロジャースの自覚を表している。夢のように輝く瞬間でありながら、それは永遠には続かない“幻”でもあるという両義性がそこにはある。
This is my rock ‘n’ roll fantasy
「これが俺のロックンロール・ファンタジーなんだ」
このサビは、自分の生き方そのものを肯定するようでありながら、同時に「これはただの幻想だ」と言い聞かせるような響きも持っている。
4. 歌詞の考察
「Rock ‘n’ Roll Fantasy」は、そのタイトルが示す通り、“ロックンロールという幻想”についてのメタ的な楽曲である。
「幻想」とは夢、希望、救済のイメージを持つ言葉だが、それは同時に現実逃避や虚構の側面も含む。この曲においてポール・ロジャースは、自分たちが作ってきたロックンロールの世界が、どこか“幻想の産物”であったことを認めながら、それでもなおその幻想にすがり、信じたいと歌っている。
バンドとファンとの絆、ステージ上の高揚感、観客の声とダンス――それらが作り出す“場”こそが、彼にとってのファンタジーなのだ。それは短い時間で終わってしまう儚いものだが、だからこそ美しく、何度でも体験したくなる魔法のような空間でもある。
70年代末という、ロックの理想主義が風化し始め、商業化と分岐を余儀なくされた時代において、この曲は「それでも自分は信じ続ける」という静かな抵抗でもあったのかもしれない。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Dream On by Aerosmith
ロックと夢、現実と幻想というテーマを詩的に描いたバラード。人生をかけて“歌い続ける”者の叫びが共鳴する。 - Bohemian Rhapsody by Queen
幻想、演劇性、人生の意味――すべてを“音楽”という幻想に託した名作。 - Juke Box Hero by Foreigner
少年がスターになるという夢を追い、ステージに立つという“ロックンロールの夢”を具現化した楽曲。 - Rock and Roll Band by Boston
バンドの成り立ちと夢への情熱をストレートに描いたナンバー。ファンタジーとしてのロックの典型例。
6. 信じたい幻想がある限り、ロックは生きる
「Rock ‘n’ Roll Fantasy」は、Bad Companyというバンドの成熟と、ロックというジャンルが辿ってきた幻想の終焉、そしてその中に宿る再生の希望を同時に描いた作品である。
この曲が放つメッセージは、シンプルでありながら深い。
「それが幻想でも構わない。俺はそれを信じて歌い続ける。」
ロックンロールという音楽が、ただの娯楽にとどまらず、人々を結びつけ、癒し、解放し続ける限り、それは現実よりもリアルな“ファンタジー”なのだ。
そしてポール・ロジャースの声は、今もどこかで、その幻想を信じる者たちの心に届いている。
それこそが、ロックンロールの幻想=Rock ‘n’ Roll Fantasy の真実なのである。
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