Rina Sawayama(リナ・サワヤマ)は、日本に生まれ、ロンドンを拠点に活動するシンガーソングライターである。1990年代から2000年代のポップ、R&B、ニューメタル、インディー・ロック、ダンスミュージックを大胆に組み合わせ、2020年代のポップを代表する個性的な存在となった。
彼女の音楽では、Britney SpearsやDestiny’s Childを思わせる滑らかなポップの直後に、Kornのような重いギターが鳴ることもある。さらにカントリー、UKガラージュ、ポップパンクまで入り込む。
それでも曲がばらばらに聞こえないのは、Rina自身がジャンルを「別々の箱」として扱っていないからだ。日本人としてイギリスで育った経験、クィア・コミュニティとのつながり、家族や自己受容への複雑な感情を、複数の音楽を使って表現している。
現在までの中心作品は、2020年の SAWAYAMA と2022年の Hold the Girl である。二作を通して、彼女は「何でもできるポップスター」から、自分の過去と向き合う大きな物語を歌うディーヴァへ変化してきた。
Rina Sawayamaの背景と経歴
Rina Sawayamaは1990年、新潟県に生まれた。5歳の頃に父親の仕事の関係でイギリスへ移り、その後は母親とロンドンで暮らした。
日本にルーツを持ちながらイギリスで成長した経験は、後の音楽に大きく影響する。自分はどこに属しているのか。周囲からどう見られているのか。家族と文化の間で何を受け継ぐのか。こうした問いは作品の重要なテーマになった。
ケンブリッジ大学では政治学、心理学、社会学を学んだ。音楽活動が本格化する前にはモデルとしても活動している。
2010年代半ばから自主的に楽曲を発表し、2017年のEP RINA で注目を集めた。「Cyber Stockholm Syndrome」「Alterlife」などでは、2000年代のR&Bやポップを未来的な電子音で作り直していた。
この時点ですでに、懐かしい音をそのまま再現するのではなく、少し違う角度から組み立て直すという彼女の方法が見えている。
2020年にはDirty Hitからファースト・アルバム SAWAYAMA を発表した。「XS」「STFU!」「Comme des Garçons (Like the Boys)」「Bad Friend」などを収録し、世界的な評価を獲得する。
同作ではポップ、R&B、ニューメタル、ロックが激しくぶつかり合った。アルバム全体では家族、人種、消費社会、友情、アイデンティティといったテーマが扱われている。
2021年にはElton Johnとの「Chosen Family」も発表。同じ頃、英国の主要音楽賞における参加資格をめぐる問題にも声を上げ、長期居住者を含める方向へ基準が見直されるきっかけの一つとなった。
2022年にはセカンド・アルバム Hold the Girl を発表する。ここでは音楽の規模がさらに大きくなり、カントリー、ポップパンク、UKガラージュ、オルタナティブ・ロックなどを取り込んだ。
2023年には映画『John Wick: Chapter 4』で俳優としても本格的に映画へ進出した。音楽だけでなく、ファッションや映画を含めた現代的なポップスターとして活動の範囲を広げている。
Rina Sawayamaの音楽スタイルと特徴
Rina Sawayamaの最大の特徴は、ジャンルの切り替えそのものを曲の演出として使うことだ。
たとえば「XS」では、2000年代初頭のR&Bを思わせる滑らかなメロディが流れているところへ、突然重いギターが割り込んでくる。
普通なら別の曲になりそうな二つの音を、あえて衝突させている。
「STFU!」ではさらに極端だ。静かで甘いポップから、低く歪んだギターと叫ぶようなボーカルへ一気に変わる。この落差そのものが、歌詞にある怒りを表している。
Rinaの歌唱も幅広い。
柔らかいR&B的な声、力強い高音、ロックの叫び、抑えた語り口を曲ごとに使い分ける。単に声量を見せるのではなく、どの声を使えば歌詞の感情が最も伝わるかを考えている。
そして彼女のポップには、常に少し過剰な部分がある。
ギターは必要以上に重く、ストリングスは映画音楽のように大きく、サビはスタジアムで歌うことを想定したように広がる。
この「やりすぎる」感覚がRina Sawayamaの魅力だ。
同時に、歌詞はかなり個人的である。家族との関係、人種差別的な扱い、消費主義、友情の崩壊、自分を受け入れることなどを扱っている。
派手な音の中に個人的な痛みがある。この組み合わせが、彼女を単なるレトロ・ポップのアーティストではない存在にしている。
Rina Sawayamaの代表曲
「Cyber Stockholm Syndrome」
2017年のEP RINA を代表する曲である。
タイトルは、インターネットやスマートフォンとの関係を「離れたいのに離れられない状態」として捉えたものだ。
音楽は1990年代末から2000年代のR&Bを思わせるが、シンセサイザーや細かな電子音によって未来的に加工されている。
Rinaが初期から「懐かしいポップを現在の問題と結びつける」アーティストだったことがよく分かる。
「STFU!」
2019年に発表され、後に SAWAYAMA に収録された代表曲である。
静かなイントロから始まるが、突然ギターが重くなり、ニューメタルに近い爆発的な音へ変わる。
歌詞では、アジア系女性に向けられる偏見や、無神経な発言への怒りを扱っている。
穏やかに対応することを期待される状況そのものを拒否するように、曲も途中から激しく崩れる。音楽の構成と歌詞の意味が直接つながった一曲だ。
「XS」
2020年の SAWAYAMA を代表するポップソングである。
軽快なR&Bのビートと滑らかなボーカルの間へ、突然ハードロックのギターが入る。
「もっと欲しい」という消費社会の欲望を、きらびやかなポップとして歌いながら、途中で不快なほど重い音をぶつける。そのため、曲そのものが消費主義の過剰さを表しているように聞こえる。
Rina Sawayamaのジャンル横断を最も分かりやすく体験できる曲の一つである。
「Comme des Garçons (Like the Boys)」
SAWAYAMA の中でも特に踊りやすい曲である。
2000年代初頭のクラブ・ミュージックやハウスを思わせるビートが中心で、ギターよりリズムとベースが前に出る。
歌詞では、自信を持つためには男性的に振る舞わなければならないのかという感覚を皮肉に扱っている。
表面的には華やかなダンス・ポップだが、その内側ではジェンダーと自信の関係を考えている。
「This Hell」
2022年の Hold the Girl を代表する曲である。
冒頭からカントリーを思わせるギターが鳴り、そこへ大きなポップのサビが入る。
歌詞では、クィアな人々を宗教的な価値観から非難する言葉を逆手に取る。「地獄へ行くなら一緒に楽しもう」というようなユーモアへ変えている。
重いテーマを暗く歌うのではなく、みんなで歌える祝祭的なポップに変えるところがRinaらしい。
「Hold the Girl」
セカンド・アルバムのタイトル曲である。
静かな歌から始まり、R&B、UKガラージュ、ダンス・ポップへと曲が広がっていく。
テーマは自分の中に残っている子どもの頃の自分を受け入れることだ。過去を消すのではなく、その頃の自分を現在の自分が抱きしめる。
SAWAYAMA の怒りから、自己理解と回復へ向かった彼女の変化を象徴する曲である。
アルバムごとの進化
RINA(2017年)
正式なフル・アルバムではなくEPだが、Rina Sawayamaの音楽的な原点が詰まっている。
中心にあるのは1990年代末から2000年代初頭のR&Bとポップだ。
ただし、その時代の音を懐かしむだけではない。「Cyber Stockholm Syndrome」のように、インターネット時代の孤独や人間関係をテーマにしている。
プロデューサーClarence Clarityとの組み合わせも重要である。
ツヤのあるR&Bと、少し壊れたような電子音を混ぜることで、「昔聞いたことがあるようなのに、実際には存在しなかったポップ」を作った。
SAWAYAMA(2020年)
ファースト・アルバムでは、音楽の幅が一気に広がった。
R&Bだけでなく、ニューメタル、ハードロック、ダンス・ポップ、バラードまで入っている。
「STFU!」では重いギター、「Comme des Garçons (Like the Boys)」ではクラブ・ミュージック、「Bad Friend」では2000年代のポップ、「Chosen Family」では大きなバラードへ進む。
特に重要なのが「XS」である。
R&Bとハードロックを一つの曲で衝突させながら、消費社会への批判を歌う。ジャンルの組み合わせが単なる遊びではなく、歌詞の意味にもつながっている。
アルバム全体では家族との関係も大きなテーマになっている。
「Dynasty」では世代を超えて引き継がれる痛みを扱い、「Akasaka Sad」では日本とイギリスの間にいる自分について考える。
音楽的な派手さの奥に、かなり個人的な作品が隠れている。
Hold the Girl(2022年)
セカンド・アルバムでは、さらに大きなポップ作品へ進んだ。
前作にあったニューメタルの比重は下がり、カントリー、アリーナ・ロック、ポップパンク、UKガラージュなどが増えている。
Rina自身はこの作品を作る過程で、Dolly PartonやKacey Musgravesなどのカントリーにも強く関心を持った。
カントリーから受け取ったのは、必ずしも音そのものだけではない。
複雑な感情を簡単な言葉で直接伝えるストーリーテリングにも影響を受けている。
「Catch Me in the Air」ではThe Corrsを思わせる1990年代的なポップロック、「Frankenstein」ではBloc Partyにつながる鋭いインディー・ロック、「This Hell」ではカントリーと巨大なポップを組み合わせる。
「Send My Love to John」はさらに違う。
派手な電子音を抑え、カントリー/フォークに近い静かな演奏で、クィアな子どもと親との関係を描いている。
SAWAYAMA が外へ向かう怒りの強い作品だったとすれば、Hold the Girl は過去の自分の内側へ戻る作品である。
影響を受けたアーティストと音楽
Rina Sawayamaの音楽的なルーツはかなり幅広い。
本人が挙げてきた日本のアーティストには宇多田ヒカルや椎名林檎がいる。
宇多田ヒカルにつながる部分として分かりやすいのは、R&Bをポップソングとして自然に聞かせる感覚だ。椎名林檎とは、ジャンルを固定せず作品ごとに大胆な音を使う姿勢に共通点がある。
海外の音楽ではMariah Carey、Destiny’s Child、Justin Timberlakeなど、1990年代末から2000年代初頭のR&B/ポップが大きな土台となった。
一方で、ロックへの関心も同じくらい強い。
SAWAYAMA ではKornやSlipknotを思わせるニューメタル、「Frankenstein」ではBloc Partyにつながる2000年代の英国インディーが聞こえる。
Hold the Girl ではさらにKacey Musgraves、Dolly Parton、Shania Twainなどカントリーの影響が加わった。
この幅広さは、Rinaが何度も音楽性を変えた結果ではない。
最初から複数のジャンルを同時に聴いてきたため、それらを同じポップの材料として扱っているのである。
ポップの境界をどう変えたのか
Rina Sawayamaが2020年代のポップで重要なのは、「ポップとはこういう音」という考え方をかなり自由にしたことにある。
もちろん、彼女以前にもジャンルを横断するアーティストは多く存在した。
それでも SAWAYAMA が強い印象を残したのは、2000年代のティーンポップとニューメタルという、当時は別の文化として扱われることが多かった音楽を堂々と同じ作品へ入れたからだ。
しかも、どちらかを冗談として扱わない。
Britney Spears的なポップも、Korn的なギターも、どちらも本気で好きな音楽として使う。
この姿勢は、現在のリスナーの聴き方ともよく合っている。
ストリーミング時代には、R&Bの次にメタルを聴き、その後K-POPやカントリーへ移ることも珍しくない。Rinaの作品は、そうしたプレイリスト的な感覚を一人のポップスターの中にまとめている。
アイデンティティをポップに変える力
Rina Sawayamaは日本生まれ、イギリス育ちという背景を持っている。
その経験は「Akasaka Sad」や「Tokyo Love Hotel」などに現れている。
「Tokyo Love Hotel」では、日本を表面的なイメージとして消費する視線への複雑な感情が扱われる。
自分のルーツを誇りながら、その文化が他人によって単純化されることへの違和感もある。
このような矛盾を、Rinaは明確な答えに整理しない。
日本人でもあり、イギリスで育った人でもある。ポップスターでもあり、ロックを愛する人でもある。華やかなファッションを楽しみながら、消費主義を批判する曲も歌う。
矛盾を消さず、そのままポップにすることが彼女の特徴だ。
クィア・コミュニティとの関係も重要である。
「Chosen Family」では血縁だけではない家族を歌い、「This Hell」ではクィアな人々への非難を祝祭へ変えた。
そのため彼女の音楽では、個人的なアイデンティティの話が、そのまま多くの人が共有できるポップソングになっている。
Rina Sawayamaの現在地
2026年時点で、Rina Sawayamaの最新オリジナル・アルバムは2022年の Hold the Girl である。
その後は映画『John Wick: Chapter 4』への出演、他アーティストとのコラボレーションなどへ活動を広げてきた。2024年にはsaluteの「Saving Flowers」やParis Hiltonの「I’m Free」などにも参加している。
一方、公式に案内されているアルバムの中心は現在も Hold the Girl であり、次のオリジナル・アルバムへ向けた明確な全体像はまだ公表されていない。
この空白は、彼女のキャリアを考えると興味深い。
SAWAYAMA では過去のジャンル同士を激しく衝突させ、Hold the Girl ではその方法をより大きなメインストリーム・ポップへ広げた。
次に進むとすれば、単に「さらに多くのジャンルを混ぜる」だけではないだろう。
すでに彼女にとってジャンル横断は特別な実験ではなく、普通の作曲方法になっているからだ。
現在のRina Sawayamaは、「ジャンルを混ぜる新鋭」から、その方法を自分自身のポップ言語として確立した段階にいる。
後のポップへの影響
Rina Sawayamaはまだキャリアの途中にいるため、長期的な影響を確定するには早い。
それでも、2020年代のオルタナティブ・ポップを考えるうえで重要な存在になっている。
特に大きいのは、2000年代ポップを再評価する方法だ。
Y2K的な音やファッションが再流行する中で、Rinaは単純な懐古には進まなかった。当時のR&Bやティーンポップへ、メタルや社会的なテーマをぶつけることで別の意味を与えた。
また、アジア系のポップアーティストが欧米市場でどのように見られるかという問題についても、自分の経験から発言してきた。
日本的なイメージを売り物にするだけでも、それを隠すだけでもない。その複雑な立場を作品にする姿勢は、より多様になった現在のポップシーンともつながっている。
まとめ
Rina Sawayamaの魅力は、R&B、ティーンポップ、ニューメタル、インディー・ロック、カントリー、UKガラージュを大胆に組み合わせながら、それを単なるジャンル遊びで終わらせないことにある。SAWAYAMA では怒りやアイデンティティを激しい音の衝突へ変え、Hold the Girl では過去の自分を受け入れる物語を大きなポップへ発展させた。
彼女にとって「ポップ」は特定の音楽ジャンルではない。異なる文化、時代、感情を一つの曲へ入れるための場所である。2026年時点では次のオリジナル・アルバムの全体像はまだ見えていないが、すでにRina Sawayamaはジャンルの境界を越えること自体を自分の普通の表現方法にしている。現代のポップがどこまで広がれるのかを示してきたことこそ、彼女がネオ・ディーヴァとして持つ最大の強みである。


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