発売日: 1966年8月5日
ジャンル: ロック、サイケデリックロック、バロックポップ
アルバム全体の印象
『Revolver』は、ビートルズが音楽の限界を押し広げた歴史的なアルバムである。この作品は、サイケデリックな要素を大胆に取り入れると同時に、クラシカルなアレンジやフォークの繊細さ、そしてロックのエネルギーを融合させ、まさに「何でもあり」の音楽的実験場となっている。
プロデューサーのジョージ・マーティンの巧みなプロダクションも光り、テープループや逆回転録音など、当時としては画期的な技術が多く使用された。これらの実験的手法により、『Revolver』はポップミュージックの新たな地平を切り開き、後に続くアーティストたちに多大な影響を与えた。
アルバムのリリース当時、ビートルズはすでにライブ活動からスタジオ制作に軸足を移しており、そのクリエイティブな自由が本作で存分に発揮されている。ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスンのソングライティングはそれぞれ独自の進化を遂げ、リンゴ・スターもユニークなボーカルトラックで存在感を放っている。
『Revolver』は、ポップソングの概念を覆し、音楽を芸術として再定義したアルバムだ。人生や死、哲学や愛、そしてサイケデリックな探求がテーマとなり、アルバム全体を通してリスナーを不思議な旅へと誘う。
トラックごとの解説
1. Taxman
ジョージ・ハリスンがリードを務めたオープニングトラックで、税金制度への痛烈な批判をテーマにした楽曲。攻撃的なギターリフとファンキーなベースラインが印象的で、ジョージが政治的テーマを扱った初めての楽曲として重要な位置を占める。
2. Eleanor Rigby
ポール・マッカートニーが手がけたバロックポップの代表作。ストリングスのみを伴奏に使用し、孤独な女性の人生を詩的に描いた歌詞が心を打つ。「All the lonely people, where do they all come from?」というフレーズは、普遍的なテーマを持ちながら時代を超えて響く。
3. I’m Only Sleeping
ジョン・レノンが作詞作曲したサイケデリックな楽曲。リラックスした雰囲気の中に、逆再生されたギターサウンドが不思議な効果を与えている。夢と現実の狭間を描いた歌詞が印象的で、ジョンらしい抽象的な世界観が広がる。
4. Love You To
ジョージがインド音楽の要素を全面的に取り入れた実験的な楽曲。シタールとタブラが奏でる異国的なサウンドは、ビートルズが音楽のグローバル化を先取りしていたことを示している。哲学的な歌詞がジョージの精神性を反映している。
5. Here, There and Everywhere
ポールによる美しいバラードで、ビートルズのラブソングの中でも屈指の名曲。「To lead a better life, I need my love to be here」という冒頭が静かに心を掴む。ハーモニーの緻密さと控えめなアレンジが楽曲に洗練を加えている。
6. Yellow Submarine
リンゴ・スターがリードボーカルを務めるポップなアンセムで、子供から大人まで楽しめる普遍的な魅力を持つ。「みんなで楽しむ」というテーマが、コミカルな歌詞とキャッチーなメロディで表現されている。バックでの効果音も遊び心たっぷりだ。
7. She Said She Said
ジョンがリードするサイケデリックロックで、ピーター・フォンダとの会話からインスパイアされた歌詞が特徴。「I know what it’s like to be dead」というショッキングなフレーズが楽曲に深みを与えている。複雑なリズム構成も興味深い。
8. Good Day Sunshine
ポールが書いた陽気で楽観的な楽曲。ピアノを中心にした明るいアレンジが楽しい一曲で、夏の幸せなひとときを切り取ったような歌詞が心に残る。
9. And Your Bird Can Sing
ジョンがリードするギターポップで、軽快なツインギターのリフが印象的。歌詞にはアイロニーが込められており、深読みを誘う内容だ。エネルギッシュな演奏が聴きどころ。
10. For No One
ポールが作詞作曲した別れのバラードで、切なくも美しいメロディが際立つ。「She says her love is dead」という歌詞が冷徹な現実を突きつける。フレンチホルンのソロが楽曲にさらなる深みを与えている。
11. Doctor Robert
ジョンが書いたユーモラスな楽曲で、歌詞は特定の医師を暗示しているとも言われる。アップテンポなビートと軽快なメロディが印象的で、聴きやすい一曲。
12. I Want to Tell You
ジョージが手がけた楽曲で、言葉では伝えきれないもどかしさをテーマにしている。ピアノのディソナンスが楽曲に不安感を与える一方、キャッチーなコーラスが救いを感じさせる。
13. Got to Get You Into My Life
ポールによるソウルフルな楽曲で、ホーンセクションが際立つアレンジが特徴的だ。歌詞は恋愛をテーマにしているが、実際にはマリファナの体験を暗喩していると言われる。エネルギッシュなパフォーマンスが聴きどころ。
14. Tomorrow Never Knows
アルバムを締めくくるジョンの革新的な楽曲で、実験音楽の到達点とも言える。テープループや逆回転録音、ドローン効果などが駆使され、サイケデリックな雰囲気が支配的だ。歌詞はチベット仏教に影響を受けた哲学的内容で、「Turn off your mind, relax, and float downstream」という冒頭がリスナーを別次元へと誘う。
アルバム総評
『Revolver』は、ビートルズが音楽的に成熟し、実験精神を惜しみなく発揮したアルバムである。テーマの深さ、サウンドの多様性、そして新しい技術への果敢な挑戦が融合し、ポップミュージックの枠を超えた革新性を持つ作品となっている。楽曲ごとに全く異なる個性が光り、聴くたびに新たな発見がある。『Revolver』は、今なお音楽史における頂点の一つとして称えられるべきアルバムである。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band by The Beatles
さらに実験的な音楽が詰まったビートルズの代表作。サイケデリックな雰囲気が好きな人には特におすすめ。
Pet Sounds by The Beach Boys
繊細なアレンジと深い感情表現が共通しており、ビートルズにも影響を与えた作品。
The Piper at the Gates of Dawn by Pink Floyd
サイケデリックロックの金字塔で、音楽的な冒険心が『Revolver』に通じる。
Highway 61 Revisited by Bob Dylan
革新的な歌詞とロックの融合が特徴的で、音楽の可能性を広げた名盤。
The Velvet Underground & Nico by The Velvet Underground
前衛的なサウンドと芸術的なアプローチが、『Revolver』の実験性に共通している。
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