発売日: 2016年10月7日
ジャンル: パンクロック、オルタナティヴロック、ハートランドロック
概要
『Revolution Radio』は、Green Dayが2016年にリリースした12作目のスタジオ・アルバムであり、三部作『¡Uno!』『¡Dos!』『¡Tré!』からの混沌と遊びを経て、“再び社会と向き合うバンド”としての覚醒を刻んだ、復活の一撃である。
前作から4年の空白は、ビリー・ジョーのリハビリ、メンバーそれぞれの再構築、世界の不穏な空気など、内と外の変化に満ちていた。
その中で生まれたこの作品は、Green Dayが“怒り”と“誠実さ”を取り戻したアルバムであり、
パンクの初期衝動と中年としての知性が見事に同居する、彼らの第二の代表作ともいえる位置にある。
プロデューサーに頼らず、バンド自身のセルフプロデュースで制作され、音像もすっきりと引き締まっている。
ここにはコンセプトや三部作のような仕掛けはないが、だからこそ1曲1曲に全力が注がれた“ソリッドなGreen Day”の真価が際立つ。
全曲レビュー
1. Somewhere Now
アコースティックなイントロから一気にパンクへと雪崩れ込む、ドラマティックなオープニング。
「どこにいるか分からないけど、どこかにいる」──大人になった迷子たちへの共感と再起の宣言。
2. Bang Bang
本作のリードシングル。
大量銃乱射事件とSNS時代の自己陶酔をテーマにした、Green Day史上もっとも攻撃的な1曲。
暴力とアイデンティティの歪みを、ビリー・ジョーのシャウトが鋭く切り裂く。
3. Revolution Radio
タイトル曲にして、このアルバムの魂。
「これは静かな者たちの声だ」というリリックに、現代社会における“怒りと希望の共存”を感じさせる。
Green Day版「ラジオ・フリー・アメリカ」。
4. Say Goodbye
ダークなギターリフが印象的な中速ロック。
「僕たちに未来はあるのか？」という問いかけが、不安定な時代の感情を代弁する。
5. Outlaws
“ならず者たち”の過去を振り返るバラード。
『Kerplunk』や『Dookie』時代の自分たちを想起させるような、パンクのノスタルジーが美しく昇華された1曲。
6. Bouncing Off the Wall
再びスピードを取り戻す、短く鋭いパンキッシュ・ナンバー。
衝動性と退屈の反復を、Green Dayらしい皮肉と爽快さで描き出す。
7. Still Breathing
本作随一の感動曲。
依存症、喪失、自殺未遂といったテーマを通じて、「それでも息をしている」と歌う。
Green Day史上最もポジティブで、人間的なアンセム。
8. Youngblood
若き恋人へのストレートな愛の歌。
ビリー・ジョーの妻へのオマージュともされる。
ハートランドロックとポップパンクの中間に位置する軽快な1曲。
9. Too Dumb to Die
社会への諦めと希望の狭間を揺れる、スプリングスティーン的な視点を持つナンバー。
「愚かすぎて死ねない」という皮肉な言葉に、パンクの居直りと生への意地が込められる。
10. Troubled Times
この時代（＝2010年代中盤）の分断と絶望感を描いた社会派バラード。
“革命ラジオ”の文脈とリンクし、Green Dayの良心と静かな怒りが感じられる。
11. Forever Now
3部構成からなる7分超の大作。
「この瞬間だけが永遠なんだ」と歌いながら、**過去と現在と未来をつなぐバンドの“存在証明”**を提示する。
圧巻の構成力とエモーション。
12. Ordinary World
元々はビリー・ジョーのソロ映画のために書かれた楽曲。
世界が壊れても「普通の世界で君と生きたい」と歌う、Green Day流ラブソングの最終形。
静かで、穏やかで、深い。
総評
『Revolution Radio』は、Green Dayがすべてを経験したうえで、再び“真面目にロックする”決意を示したアルバムである。
10代の怒りを再生するのではなく、40代の怒りを“今”の言葉で歌う。
それは決して懐古ではなく、“まだ諦めない”という穏やかで強靭な宣言なのだ。
音楽的にも初期のスリーピース・パンクの簡潔さと、オルタナティヴロックの厚みが融合し、
かつてないほど“バンドとしての音の説得力”が生まれている。
商業的にも批評的にも『21st Century Breakdown』以来の成功を収め、
Green Dayが単なる90年代レジェンドではなく、今なお前線に立つロックバンドであることを証明した。
おすすめアルバム（5枚）
- Bruce Springsteen / The Rising
社会の喪失と回復を、バンドの音で描いた傑作。『Still Breathing』『Forever Now』と重なる。 - The Clash / London Calling
政治性、ロックンロール、ポップセンスが交錯する文脈で共鳴。 - Foo Fighters / Wasting Light
セルフプロデュースと原点回帰で再生したロックバンドの姿が重なる。 - Rise Against / Appeal to Reason
パンクの倫理性とメロディアスな怒り。『Bang Bang』や『Revolution Radio』に近い視点。 -
Against Me! / Transgender Dysphoria Blues
個人的な痛みと社会の葛藤を、ストレートなロックに昇華した作品。
制作の裏側
『Revolution Radio』は、Green Dayが1994年以来初めて自らプロデュースしたアルバムであり、
スタジオとライブを行き来しながら、時間をかけてじっくりと磨き上げられた。
録音はバンド自身のオークランドのスタジオ「Otis」で行われ、デジタル処理を抑えた生々しい音像が特徴。
政治的分断やソーシャルメディアの暴走、個人的な喪失と回復──
そうした複雑なテーマを、**“大声ではなく、しっかりとした声で歌う”**という姿勢が、この作品をより深いものにしている。
『Revolution Radio』は、怒りでも絶望でもなく、“呼吸”としてのパンクを鳴らすアルバムである。
かつて世界を変えようとしたバンドが、いまは世界に問う──「まだ、お前は聴いてるか？」と。
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