発売日: 1974年6月
ジャンル: カントリーポップ、アダルトコンテンポラリー、フォークロック
概要
『Reunion: The Songs of Jimmy Webb』は、グレン・キャンベルが1974年に発表したスタジオアルバムであり、
長年の盟友ジミー・ウェッブの楽曲だけを取り上げた、特別なトリビュート作品である。
「By the Time I Get to Phoenix」「Wichita Lineman」「Galveston」など、
これまでも数々のヒット曲を共に生み出してきた二人だが、
本作ではその絆をさらに深め、
ウェッブの緻密なソングライティングとキャンベルの温かな歌唱が理想的な形で融合している。
アルバムの全体像は、
単なるベストヒット集ではなく、
愛、喪失、希望、孤独といった普遍的テーマを静かに描き出す、叙情的な旅のような仕上がりとなっている。
全曲レビュー
1. Roll Me Easy
ロマンティックな漂泊者の心情を、シンプルなギター伴奏で描く美しいオープニング。
2. Just This One Time
過ぎ去った恋の記憶を、優しくも切ないタッチで描いたバラード。
3. You Might as Well Smile
別れを乗り越えようとする苦い決意を、温かみのあるメロディに乗せて表現している。
4. Wishing Now
夢と現実のあいだで揺れる心情を、繊細なアコースティックサウンドに乗せて描く。
5. About the Ocean
大海原をモチーフに、自由と孤独を重ね合わせた詩的なナンバー。
6. Ocean in His Eyes
別れの痛みと希望を、海のイメージとともに叙情的に綴った佳曲。
7. The Moon’s a Harsh Mistress
ジミー・ウェッブの最高傑作のひとつ。
叶わぬ愛を、月に例えて歌うこのバラードで、キャンベルは静かで崇高な表現に達している。
8. I Keep It Hid
秘めた想いを抱えながら生きることの苦しさと優しさを、しっとりと歌い上げる。
9. Adoration
純粋な愛の喜びを讃える、柔らかく明るいミディアムナンバー。
10. It’s a Sin
愛することへの罪悪感と救い難い感情をテーマにした、深く内省的な曲。
11. Christiaan No
若者の無垢と、社会に飲み込まれていく哀しみを描いた、寓話的なナンバー。
総評
『Reunion: The Songs of Jimmy Webb』は、
グレン・キャンベルとジミー・ウェッブという、
アメリカ音楽史における最良のコンビネーションのひとつが結晶化したアルバムである。
ウェッブの精緻な言葉選びとドラマティックなメロディ、
それを無理なく、しかし情感豊かに伝えるキャンベルの透明な歌声。
二人の才能が互いに高め合い、
単なるシンガーとソングライターの関係を超えた、音楽的な対話と信頼が全編に溢れている。
とりわけ「The Moon’s a Harsh Mistress」では、
グレン・キャンベルのキャリアの中でも屈指の繊細なパフォーマンスが聴ける。
『Reunion』は、
ヒットを超えたところで、静かに永遠性を獲得したアルバムなのだ。
おすすめアルバム
- Glen Campbell / Wichita Lineman
ジミー・ウェッブとの初期最高のコラボレーションを収めた歴史的名盤。 - Jimmy Webb / El Mirage
ソングライター自身が歌う、成熟した大人のためのポップアルバム。 - Glen Campbell / Galveston
故郷への思慕と時代の不安を美しく織り交ぜた、叙情的カントリーポップの傑作。 - Gordon Lightfoot / If You Could Read My Mind
70年代初頭のフォーク叙情を代表するシンガーソングライター作品。 - Art Garfunkel / Watermark
ジミー・ウェッブ作曲による、アート・ガーファンクルの繊細なボーカルアルバム。
歌詞の深読みと文化的背景
1974年――
アメリカはベトナム戦争終結の間近にあり、
社会的にも個人的にも疲弊と再生の狭間にあった。
『Reunion: The Songs of Jimmy Webb』に漂うのは、
そんな時代を背景にしながらも、
喪失への痛みと、それでもなお続いていく人生への静かな肯定である。
「The Moon’s a Harsh Mistress」は、
冷たい現実と甘い幻想の間で揺れる人間の本質を、
「Wishing Now」や「Ocean in His Eyes」では、
夢と現実を隔てる見えない壁を――
グレン・キャンベルは、
ジミー・ウェッブの紡ぐ繊細で複雑な世界観を、
優しさと悲しみをたたえた声で見事に受け止めた。
『Reunion』は、
そんな**傷ついた心に静かに寄り添う、
時代を超えた”癒しの叙情詩集”**なのである。
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