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1. 歌詞の概要
「Repeater」は、アメリカのポストハードコアバンド Fugazi が1990年にリリースしたアルバム『Repeater』のタイトル曲であり、バンドの代表曲の一つです。この曲は、Fugaziが持つ政治的・社会的メッセージを象徴する作品であり、特に暴力の連鎖とアメリカ社会の暴力性をテーマにしています。
歌詞では、「暴力が暴力を生み出し、それが止まらない」ことを痛烈に批判しています。タイトルの「Repeater(繰り返す者)」は、暴力や抑圧が繰り返される社会構造を示唆しており、特に都市部での銃犯罪や貧困、社会的不公正などを背景に持つと考えられます。
楽曲のサウンドは、Fugaziの特徴である鋭利なギターリフ、グルーヴ感のあるベースライン、突き刺さるようなボーカルが際立ち、ポストハードコアのアイコン的存在となっています。
2. 歌詞のバックグラウンド
Fugaziは、元 Minor Threat のフロントマン イアン・マッケイ(Ian MacKaye) を中心に1987年に結成されたバンドで、ワシントンD.C.を拠点に活動しました。彼らはDIY精神を貫き、メジャーレーベルとの契約を拒否し、すべての作品を自身のレーベル Dischord Records からリリースしました。
アルバム『Repeater』は、Fugaziにとって初のフルアルバムであり、ハードコアの激しさとファンクのグルーヴ感を融合させたサウンドで、ポストハードコアの先駆けとなりました。タイトル曲「Repeater」は、アルバムの中でも特に強烈なインパクトを持ち、Fugaziの音楽性とメッセージ性を象徴する楽曲となりました。
この楽曲が発表された1990年当時、アメリカでは都市部の犯罪率が高まり、暴力や社会的不平等が深刻な問題となっていました。特に、ワシントンD.C.は当時「Murder Capital(殺人の首都)」と呼ばれるほど、銃犯罪が頻発していた地域でした。Fugaziはそうした現実を目の当たりにし、「Repeater」を通じて社会に対する怒りや疑問を投げかけました。
3. 歌詞の抜粋と和訳
歌詞の一部抜粋
You say I need a job
I’ve got my own business
You want to know what I do?
None of your fucking business
お前は俺に仕事が必要だと言う
俺には自分のやるべきことがある
何をやってるか知りたいのか?
そんなのてめえの知ったことじゃない
このラインは、社会から押し付けられる価値観や「正しい生き方」への反抗を示しています。ここでの「仕事」は単なる職業ではなく、自己のアイデンティティや価値観を指しているとも解釈できます。
You call it a crime
I call it a cure
You call it a crime
I call it a cure
お前はそれを犯罪と呼ぶ
俺はそれを治療と呼ぶ
この部分は、社会が一方的に定義する「犯罪」と、暴力が生まれる背景にある社会問題を対比させています。つまり、「犯罪」とされる行為の背後には、抑圧や貧困といった社会の病があるという視点を提示しているのです。
Repeater! Repeater! Repeater!
このフレーズが繰り返されることで、「暴力の連鎖」が止まらない状況を象徴的に表現しています。まさに「Repeater(繰り返す者)」とは、暴力を繰り返す社会そのものを指しているのでしょう。
4. 歌詞の考察
「Repeater」は、単なる反抗的なパンクソングではなく、社会構造に対する鋭い批評を含んだ楽曲です。
この曲が描くのは、暴力が絶えない社会の現実と、それを止められない人々の無力感です。アメリカでは、貧困や差別が暴力や犯罪を生み、その暴力がさらに暴力を生むという負の連鎖が続いていました。その中で、Fugaziは「単に暴力を非難するのではなく、その根本的な原因を考えろ」というメッセージを投げかけています。
また、歌詞の中で「犯罪」を「治療」と呼ぶことで、暴力に追い込まれる人々の立場を示唆しています。つまり、犯罪を起こす側もまた、社会の犠牲者であるという視点を持つことで、単純な善悪の二元論を超えた社会批判が成立しているのです。
Fugaziの音楽は、単なるアジテーション(煽動)ではなく、リスナーに「考えること」を促すものです。「Repeater」はその最たる例であり、単純に反権力的な態度を示すのではなく、「なぜ暴力が繰り返されるのか?」という根本的な問いを投げかける楽曲と言えるでしょう。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Waiting Room” by Fugazi
Fugaziの代表曲であり、社会へのフラストレーションを鋭く描いた楽曲。 - “Rise Above” by Black Flag
反権力的なメッセージと激しいサウンドが特徴のハードコアパンクの名曲。 - “Gimme Shelter” by The Rolling Stones
戦争や暴力に対する社会的なメッセージを込めたロックの名曲。 - “Know Your Enemy” by Rage Against the Machine
政治的なメッセージを持つパンク/ハードコアの影響を受けた楽曲。 - “Bullet in the Head” by Rage Against the Machine
権力構造への鋭い批判を込めたラップメタルの代表曲。
6. 楽曲の影響と文化的意義
「Repeater」は、ポストハードコアというジャンルを確立した重要な楽曲であり、その影響は後のオルタナティブロックやポストパンクシーンにも広がりました。特に、Rage Against the Machine、At the Drive-In、Refused などのバンドに大きな影響を与え、彼らの社会的なメッセージ性にも繋がっています。
また、FugaziのDIY精神と独立した音楽活動の姿勢は、後のインディーロック/ハードコアシーンに多大な影響を与えました。商業主義に頼らず、音楽を通じて社会的なメッセージを伝えるというFugaziの理念は、今なお多くのアーティストに受け継がれています。
結論
「Repeater」は、単なるパンクソングではなく、社会に対する鋭い洞察とメッセージを持った楽曲です。その音楽的な斬新さと政治的なメッセージは、今なお色褪せることなく、多くのリスナーに影響を与え続けています。
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