1. 歌詞の概要
「Renegade(レネゲイド)」は、アメリカのロックバンド、スティクス(Styx)が1978年にリリースしたアルバム『Pieces of Eight』に収録された楽曲であり、後にシングルカットされて大ヒットを記録したバンドの代表曲である。タイトルの「Renegade」は「反逆者」「追われる者」を意味し、その名の通り、逃亡者の視点から語られる緊迫感に満ちたロック・バラードである。
楽曲は、アカペラによる静かな出だしから始まり、突如としてハードなギターリフとドラムが炸裂するダイナミックな展開を持つ。歌詞では、死刑を目前にした逃亡者が、母への最後の言葉や迫り来る運命への恐怖を吐露している。自由を求めて戦ったはずが、裏切りと法の網に捉えられ、処刑の時が近づいている――その切実な状況が、ドラマティックな構成の中で生々しく描かれる。
しかしその一方で、この曲は単なる西部劇的な物語ではなく、社会に背を向け、自分の信念のために生きようとしたすべての“異端者”たちの歌としても読むことができる。スティクスの中でも最もストレートで力強いロックナンバーのひとつであり、今なおライヴでは定番の人気曲である。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Renegade」は、バンドのギタリストでありヴォーカリストの**トミー・ショウ(Tommy Shaw)**によって書かれた。彼がヴォーカルも担当し、スティクスの中でも特に“ロック志向”の強い側面を担う楽曲としてバンドのレパートリーに加わった。
当時のアメリカ社会は、ベトナム戦争後の空虚感、政府不信、個人主義の高まりなど、時代の転換期にあった。「Renegade」はその空気感を反映するように、法や体制から逃れ、自分だけの正義を貫こうとする者の末路をテーマにしている。つまりこれは単なるフィクションではなく、アメリカン・アイデンティティの根底にある“フロンティア精神”と“自由の代償”を象徴する歌なのだ。
また、この曲の劇的な構成は、当時隆盛を誇っていたクイーンやボストン、エアロスミスといったアリーナロック勢に対抗するバンドの“勝負曲”としての役割も果たしていた。冒頭の静けさから爆発的なサウンドへと切り替わるそのダイナミクスは、1970年代後期のアメリカン・ハードロックの象徴のひとつである。
3. 歌詞の抜粋と和訳
Oh mama, I’m in fear for my life from the long arm of the law
ああ母さん 俺の命は今や法の長い腕に脅かされているLawman has put an end to my running and I’m so far from my home
保安官が俺の逃亡に終止符を打ち 家から遠く離れたこの場所でOh mama, I can hear you a-cryin’, you’re so scared and all alone
ああ母さん あんたの泣く声が聞こえる 怖くてたまらず、一人きりでHangman is comin’ down from the gallows and I don’t have very long
絞首台から死刑執行人が下りてくる 俺の時間ももうわずかだ
(参照元:Lyrics.com – Renegade)
この冒頭の4行だけで、逃亡者の心理的緊迫、母への思慕、そして死を前にした冷たい現実がひとまとまりに表現されている。まさに“劇的な導入”の模範例である。
4. 歌詞の考察
「Renegade」は、語り手である“俺”の視点で描かれており、まるで一編の短編映画を見るような構成をしている。最初は静かに語られる“死の予感”から始まり、やがて逃げ切れなかった運命と向き合う壮絶な心理が、爆発的な音と共に解放されていく。
だが、この歌詞には“英雄的な逃亡者”の美学だけではなく、**罪を自覚しながらもなお逃げ続けた者の“人間らしさ”**が色濃くにじんでいる。彼は逃げて、そして捕まった。だが、母を思い、自分の死を受け入れようとするその姿勢は、単なるアウトローではない深さを持っている。
また、「絞首台から執行人が下りてくる」という象徴的なイメージは、死刑という制度そのものへの批評としても読むことができる。自由を求めた者が、どれほどの罪を背負っていたとしても、その最後に向き合うのは国家の手ではなく、自分自身の選択と生の総決算なのだという思想が込められている。
このように、「Renegade」はアクション映画的なスリルの中に、静かな倫理観と人間存在の悲哀が折り重なった深い作品である。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Wanted Dead or Alive by Bon Jovi
孤独な放浪者としての自己を描いたバラッド。アウトロー的ロマンが共通する。 - Simple Man by Lynyrd Skynyrd
母の言葉を胸に人生を歩む男の物語。親子関係の情感が「Renegade」と響き合う。 - Riding the Storm Out by REO Speedwagon
厳しい状況の中を走り抜けようとする決意とサウンドが類似している。 -
Turn the Page by Bob Seger
孤独なツアー生活を綴った哀愁のロックバラッド。逃亡者的視点と重なる。
6. “反逆者”が象徴するアメリカン・スピリット
「Renegade」は、単なるロックの名曲にとどまらず、アメリカという国の“逃亡者的自我”を体現した作品である。法と自由、罪と許し、家族と孤独――そうした相反する要素がひとつの楽曲の中でせめぎ合いながら展開していく。
アリーナでのライヴでは、冒頭のアカペラから観客が一斉に合唱し、ギターリフが入った瞬間に爆発的な歓声が巻き起こる。それはまるで、日常の制約から一瞬だけ自由になれる“ロックの儀式”のようである。つまり、「Renegade」は、聴き手にとっての一時的な逃避であり、同時に自分自身の中の“反逆者”と向き合うための鏡でもあるのだ。
“反逆者”とは社会に対する反発だけでなく、自分自身の中にある不安、恐れ、孤独に抗う存在でもある。だからこそこの曲は、時代を超えて鳴り続ける。ギターが唸りを上げるその瞬間、人々は“逃亡者”という名のロックスターに、自らの魂を投影するのだ。
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