発売日: 2004年10月26日
ジャンル: ドリームポップ、インディー・ロック、ローファイ
概要
『Rendezvous』は、Lunaが2004年にリリースした7作目にして最終作となるスタジオ・アルバムであり、解散を前にしたバンドの円熟と静かな熱がにじむ“別れのための作品”である。
本作では、それまでの作品に見られたドリーミーでレイヤーの厚いサウンドから一歩引き、シンプルでアナログ感のあるアプローチに舵を切っている。
プロデュースも控えめで、ギター、リズム、歌詞がむき出しで響く構成となっており、Lunaの“最後の言葉”がよりストレートに伝わってくる。
“Rendezvous（ランデヴー）＝約束の場所／出会い”というタイトルもまた、バンドとリスナーの静かな再会と別れの場を象徴している。
全曲レビュー
1. Malibu Love Nest
オープニングを飾るミッドテンポのギター・ロック。
「マリブの愛の巣」というタイトルに反して、歌詞はどこか乾いていて、現実逃避と孤独の香りが漂う。
2. Speedbumps
疾走感のある軽快なナンバー。
“スピードバンプ（道路の減速帯）”は、人生のつまずきや予想外の減速を暗示する。
3. Astronaut
宇宙飛行士になぞらえた疎外感と浮遊感の歌。
静かに語られる“距離”の感覚が、ディーン・ウェアハムらしい詩情を湛える。
4. Broken Chair
アルバム中もっともメランコリックな楽曲のひとつ。
“壊れた椅子”は、喪失や関係の崩壊を象徴する。
5. Cindy Tastes of Barbecue
不思議なタイトルに反して、サウンドは穏やかでスウィート。
抽象的な比喩が恋愛のイメージを鮮やかに喚起するユーモラスな一曲。
6. The Owl and the Pussycat
同名の童話を引用したロマンティックな小品。
ギターのレースのようなアレンジが、Luna特有のメランコリックな温もりを際立たせる。
7. Motel Bambi
ロードソング的なテイストを持つ、ややビターなナンバー。
モーテル、バンビ、アメリカーナ…切なさと風景の断片が音に浮かぶ。
8. Speedbumps (Reprise)
2曲目のモチーフを再演。
反復されることで“振り返る時間”のような静けさが生まれる。
9. Still at Home
シンプルで穏やかなコード進行が、タイトルの“家にいる”という状態を音にする。
過去との決別と現在への受容がテーマとなっているようにも感じられる。
10. Buffalo Boots
やや荒涼としたサウンドが印象的なラスト曲。
バッファローブーツ＝旅と孤独の象徴。最後にふさわしい“歩き続ける者”の歌。
総評
『Rendezvous』は、Lunaというバンドが自己模倣や過去の栄光に頼ることなく、静かに地上へと着地したアルバムである。
ここには、サウンド的な派手さはない。
しかし、すべての音とリリックには“生きていること”“別れを迎えること”の確かな実感が込められており、Lunaが最後までロックを“感情の媒体”として大切にしていたことが伝わってくる。
終わりを受け入れながら、音楽として残すこと。
『Rendezvous』は、喧騒の向こうでささやかに鳴っている“最終章の挨拶”なのだ。
おすすめアルバム
- Dean & Britta / L’Avventura
Luna解散後の二人による静かで美しい継続の物語。 - Yo La Tengo / Fade
成熟と内省、別れと継続のあいだにある穏やかなロック。 - The Clientele / Bonfires on the Heath
都市の縁辺で語られるメランコリックな音世界が、Lunaの終章と共鳴する。 - Red House Painters / Old Ramon
別れと静けさを抱えた90年代後期の遺言的スロウコア。 - Lambchop / Is a Woman
ジャンルを超えて静寂と叙情を突き詰めた音楽のあり方が似ている。
ファンや評論家の反応
『Rendezvous』は、ファンから“静かなる傑作”としてじわじわと愛される一方、批評家からも“潔く美しい幕引き”と評価された。
特に「Malibu Love Nest」や「Buffalo Boots」は、解散を控えたLunaの心境を想像させる楽曲として語られることが多い。
このアルバムをもって、Lunaは表舞台から姿を消す。
だが、彼らの音楽は今もなお、ひっそりとした夜の片隅で、出会いのように、別れのように鳴り続けている。
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