1. 歌詞の概要
「Rebel Rebel」は、ジェンダーの境界を軽やかに飛び越え、自己表現とアイデンティティの解放を祝福するグラム・ロックのアンセムである。
歌詞の語り手は、メイクをし、ドレスをまとった“君”を「反逆者(Rebel)」と呼び、その姿に驚き、戸惑いながらも、魅了され、称賛する。
「You’ve got your mother in a whirl(君の母さんは混乱してる)」「Hot tramp, I love you so(派手なトランプ、君を愛してる)」といったフレーズは、性別・規範・常識を裏切る存在への愛と熱狂を、ボウイならではの言葉遊びとともに描いている。
この曲は、反抗や混乱を悲壮感ではなく、祝祭のように高らかに響かせている点が特徴である。
そこにあるのは、怒りでも主張でもない。ただ「そのままでいい」「むしろ、そうであってほしい」という、解放の賛歌なのである。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Rebel Rebel」は、1974年のアルバム『Diamond Dogs』に収録されたシングル曲であり、David Bowieが自らギターを弾いて制作した、最もロックンロール然とした楽曲のひとつである。
この時期、ボウイは“Ziggy Stardust”というキャラクターを終焉させ、新たな音楽性とアイデンティティを模索していた。
その過程で生まれた「Rebel Rebel」は、**グラム・ロックの精神を象徴する最後の“純粋なロックンロール”**とも言われる。
性の曖昧さ、中性的なファッション、そして若者文化への肯定的視線。ボウイが1970年代初頭に蒔いた“ジェンダー解体”の種は、この曲でひとつの結実を迎える。
そして、それは後に続くアーティストたち――プリンス、マドンナ、レディー・ガガなど――に多大な影響を与えることとなる。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元:Lyrics © BMG Rights Management
You’ve got your mother in a whirl
She’s not sure if you’re a boy or a girl
― 君の母さんは混乱してる
君が男か女かも分からない
Hey babe, your hair’s alright
Hey babe, let’s stay out tonight
― なあベイビー、髪型はバッチリだ
今夜は外で遊ぼうぜ
You like me, and I like it all
We like dancing and we look divine
― 君は僕が好き、僕も君が大好きさ
踊るのも、見た目の派手さも、全部が最高だ
Rebel Rebel, you’ve torn your dress
Rebel Rebel, your face is a mess
― 反逆者よ、ドレスが破れてる
顔もめちゃくちゃだ
Rebel Rebel, how could they know?
Hot tramp, I love you so!
― 反逆者よ、誰に分かるっていうんだ?
派手なトランプ、君を愛してる!
4. 歌詞の考察
「Rebel Rebel」が持つ最大の力は、“抵抗”を肯定し、笑顔で歌う姿勢にある。
この曲に登場する“君”は、明らかに社会の規範から外れた存在である。性別不明の外見、乱れた服装、反抗的な姿勢――しかし語り手は、それらを否定せず、むしろ魅力として称える。
「君がどんなふうであれ、それが素晴らしいんだ」と。
そこには、政治的な主張や社会的メッセージを超えた、**“ボウイ流の寛容”と“芸術的肯定”**が感じられる。
また、この曲は自伝的とも読める。
Ziggy Stardustというペルソナを脱ぎ捨て、素のDavid Bowieとして再出発する中で、自らを「反逆者」と位置づけたうえで、「変わっていくこと」「誰にも定義されないこと」への覚悟と喜びを宣言しているのだ。
そしてその“Rebel”とは、若さの象徴でもあり、他者とは違うことへの誇りでもある。
それは時代を問わず、あらゆる“少数派”に響きうる言葉だ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Walk on the Wild Side by Lou Reed
性の境界や都市のサブカルチャーを題材にした名曲。ボウイとも親交が深く、テーマも共鳴している。 - I’m Coming Out by Diana Ross
自己解放と誇りをポップに歌ったソウル・クラシック。“Rebel”精神が形を変えて昇華されたような一曲。 - Born This Way by Lady Gaga
ジェンダーやアイデンティティの肯定をストレートに歌うアンセム。ボウイの遺伝子を色濃く受け継ぐ現代版「Rebel Rebel」。 - Personality Crisis by New York Dolls
グラムとパンクの狭間で性別もアイデンティティも揺れる青春を描く、荒削りな反抗の歌。
6. “Rebel”とは、恥じることなく違う自分を生きること
「Rebel Rebel」は、David Bowieにとって“最後の純粋なロックンロール”とも言われるが、その輝きはただノスタルジックなものではない。
この曲がリリースされた1974年は、ボウイがZiggy Stardustというキャラクターを捨て、“キャラクターを作らずして変化を受け入れる”ステージに移行し始めた瞬間でもあった。
それは自らの変化だけでなく、他者の変化・違いをも受け入れる視線として、この曲の中に刻まれている。
“反逆”とは、怒りではなく、誇り高き自己肯定の姿勢であり、“違うままでいること”への祝福である。
ボウイが語りかける「Hot tramp, I love you so」は、そのまま全てのアウトサイダー、ノンバイナリーな魂、従わない者たちへのラブレターでもあるのだ。
「Rebel Rebel」は、時代を超えて“あなたはそのままで美しい”と伝える、最もピュアで力強いメッセージ・ソングである。
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