Rare by Selena Gomez(2020)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Rare」は、Selena Gomezセレーナ・ゴメス が2020年に発表した同名アルバム『Rare』のタイトル曲であり、アルバムの冒頭を飾る象徴的な楽曲です。この曲は、自分の価値を再認識し、それを他者にも求める姿勢を明確に打ち出したセルフ・エンパワーメントのアンセムであり、セレーナが長年の葛藤を経てたどり着いた“自己肯定”の境地を、軽やかなポップサウンドに乗せて語っています。

歌詞のテーマは「私は希少(rare)な存在なのに、あなたはそれをちゃんとわかってくれなかった」という自己主張。相手に認められなかった過去の関係に対して、“愛されなかった自分”ではなく、“愛される価値があるのに理解されなかった自分”という視点から描かれており、セレーナの成熟した視野が垣間見える作品です。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Rare」は、セレーナ・ゴメスの3rdスタジオアルバムのタイトルトラックであり、長らく沈黙していた彼女の**“再スタート”を告げる作品群の中心に位置する楽曲**です。2010年代後半、彼女は心身の療養、自己免疫疾患(ループス)の治療、精神的な闘病、そして公私にわたる人間関係の断絶を経験しており、そうした背景の中で「Rare」は生まれました。

ソングライターとして関わったのは、Madison Love、Brett McLaughlin(Leland)、Nolan Lambroza(Sir Nolan)などの気鋭の作家たち。セレーナはこの曲について、「どんな人でも、ちゃんと見てもらえるべき。価値を認められない関係に甘んじるべきじゃない」と語っており、自身のこれまでの経験をもとに、“見過ごされた存在”が声を取り戻す物語としてこの楽曲を位置づけています。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に「Rare」の印象的な一節とその和訳を紹介します:

“Baby, you’ve been so distant from me lately
And lately, don’t even wanna call you ‘baby’”

「最近、あなたはずっとよそよそしい
もう“ベイビー”と呼ぶ気にすらなれない」

“Didn’t even notice, just to get to focus on my kiss
You don’t even know how rare this is”

「私のキスにばかり気を取られて
それがどれほど貴重かなんて、わかってすらいない」

“It feels like you don’t care
Why don’t you recognize I’m so rare?”

「あなたは気にしてないように感じる
どうして気づかないの? 私が“レア”な存在だってことに」

“I’m not gonna beg for you
I’m not gonna let you make me cry”

「もうあなたにすがったりしない
もう泣かされたりしない」

引用元:Genius Lyrics

これらのリリックは、悲しみの中にも毅然とした自信と再出発の意志が宿っており、まさに**“自己価値を取り戻すプロセスの詩”**とも言える内容です。

4. 歌詞の考察

「Rare」の歌詞は、自分の存在を軽く扱われてきた経験を肯定的に変換し、相手に“見る目がなかった”ことを突きつけるような逆転の構造が特徴です。セレーナは、かつての自分が相手の無関心に振り回されていたことを認めながらも、今はそれを客観的に捉え、「私にはもっとふさわしい愛がある」と宣言します。

特に、“Why don’t you recognize I’m so rare?”という繰り返しのラインは、自己主張であると同時に、恋愛や人間関係における“評価されることの不安”をテーマ化した象徴的な言葉でもあります。自分が大切にしているものが他人に軽んじられる経験は、誰にでも起こり得ること。この曲はその痛みを認めつつ、そこから立ち上がる自尊心の物語として多くの共感を集めています。

また、“I’m not gonna beg for you”のようなラインからは、もはや相手に愛を乞わないという決意が感じられ、「愛されたい」から「自分を愛する」へと重心が移動する瞬間が描かれているのです。これは「Lose You to Love Me」から連続する“自己再生のステップ”の次章であり、より明るく、より自律的な方向へと進化しています。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Love Myself by Hailee Steinfeld
    自分自身への愛と自立をテーマにした、セルフ・ラブのアンセム。

  • God is a Woman by Ariana Grande
    女性の神秘と力を誇る、エンパワーメント・ポップソング。

  • Truth Hurts by Lizzo
    自己肯定と失恋からの立ち直りをユーモアとともに歌い上げた名曲。

  • No Tears Left to Cry by Ariana Grande
    悲しみを乗り越えた先にある明るさを感じさせる、再生のポップソング。

  • Look at Her Now by Selena Gomez
    「Rare」と同時期に発表された楽曲で、失恋を経て再生した自分を称えるアップビート・チューン。

6. 特筆すべき事項:“レア”という言葉に込められたポップ・フェミニズム

「Rare」というタイトルには、単なる“希少”という意味以上に、**「他人に評価されなくても、自分自身の価値を信じる」**という、現代的なフェミニズム的視点が込められています。セレーナ・ゴメスは、ディズニー出身という固定観念や、メディアに翻弄されてきたパブリック・イメージを乗り越え、アーティストとしての声を持ち始めた時期にこの曲をリリースしました。

ミュージックビデオでは、自然の中で自分自身と向き合うセレーナが描かれており、装飾や演出に頼らないシンプルな映像美の中に、“自分という存在そのものが美しい”というメッセージが込められています。


**「Rare」**は、他者に評価されることでしか価値を感じられなかった過去を振り返り、自分自身に対する眼差しを取り戻すきっかけとなる1曲です。セレーナ・ゴメスはこの曲を通して、もはや愛にすがる少女ではなく、愛を選び取る力を持った女性としての自己像を確立しました。やわらかくも芯のある歌声で、「私は希少な存在」だと告げる彼女の姿は、聴く人にも同じように“あなたもレアな存在だ”というメッセージを届けているのです。

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