発売日: 2000年6月19日
ジャンル: オルタナティヴ・ポップ、グラムロック、エレクトロポップ
きらめきの残骸から——Duran Duranが描く“虚飾”と“夢”の肖像
2000年、20世紀が終わりを迎えたこの年に発表されたDuran Duranの9作目Pop Trashは、ある種の終末感と過剰な装飾性が共存する“夢の残骸”のようなアルバムである。
前作Medazzalandで見せたエレクトロニックかつ内省的な実験性を継承しつつ、本作ではさらにグラムロック的な煌びやかさ、映画的なスケール感、そして“消費されるポップ”への皮肉が色濃く滲む。
ジョン・テイラー不在のまま、サイモン・ル・ボン、ニック・ローズ、ウォーレン・ククルロの3人体制で制作された本作は、“壊れたポップスター像”の自画像のようでもあり、リスナーに夢と幻影の境界を問いかける。
アルバムタイトル“Pop Trash(ポップのゴミ)”という自嘲的なワードに込められたのは、ポップカルチャーへの愛と疲弊、そしてそれでもなお信じたいという矛盾した情熱なのだ。
全曲レビュー
1. Someone Else Not Me
本作唯一のシングル。
シンプルでメランコリックなメロディとアコースティックなサウンドが、孤独と喪失を静かに描く。
サイモンの歌唱がひときわ深く響く珠玉のバラード。
2. Lava Lamp
サイケでゆったりと揺れるビートに、夢と現実の狭間を漂うような詞。
70年代的なサウンドと電子音が織り成す、幻覚的ポップ。
3. Playing with Uranium
退廃と近未来の空気をまとった異色曲。
“ウラン”という不穏なモチーフに、破壊と快楽のイメージが重ねられている。
4. Hallucinating Elvis
グラムロック+トリップホップ的ビートの混血的トラック。
“エルヴィスの幻覚”というタイトルが示すように、過去の偶像と現在のポップが交錯する。
5. Starting to Remember
ドリーミーなアコースティック・ポップ。
記憶の断片と再生をテーマにした、どこか懐かしく温かいナンバー。
6. Pop Trash Movie
映画の脚本のようなリリックに、耽美なストリングスとグラムなギターが重なる。
元々はニック・ローズとウォーレンがオスマンドのために書いた楽曲。
7. Fragment
短く幻想的なインストゥルメンタル。
アルバムの“夢”パートを繋ぐインタールード的機能。
8. Mars Meets Venus
サイバー・グラムとでも言うべき世界観。
男女の関係を惑星に喩え、未来的サウンドで描くユニークな一曲。
9. Lady Xanax
“ザナックス(抗不安薬)”という女性像に仮託された、不安と沈静の物語。
ウォーレンのギターとシンセのコントラストが美しい。
10. The Sun Doesn’t Shine Forever
アルバム後半のハイライト。
煌びやかなアレンジの裏に、過ぎ去った青春への追悼がにじむ。
11. Kiss Goodbye
別れの瞬間を描いたバラード。
切ない旋律と余白のある構成が、情感をじっくりと浮かび上がらせる。
12. Last Day on Earth
映画のエンディングのようなスケール感。
“この地球での最後の日”というタイトルが示す通り、終末的な美と静けさが全編を包む。
総評
Pop Trashは、Duran Duranという“ポップの申し子”が、その役割に傷つきながらもなお美を信じようとした記録である。
そこには、売れるための明確な“ヒット曲”は少ない。
だがその代わりに、消費され、忘れ去られ、また拾い集められる“ゴミ=Trash”の中に光を見出すような、倒錯したロマンチシズムが満ちている。
このアルバムは、“終わり”を知った者だけが奏でられる、静かな祝祭のような音楽なのだ。
そして、そこにはやはりDuran Duranらしい優雅な毒気と、美学が残っている。
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