1. 歌詞の概要
「P-Funk (Wants to Get Funked Up)」は、Parliamentが1975年に発表したアルバム『Mothership Connection』のオープニング・トラックであり、彼らの音楽的・思想的宇宙“P-Funk神話”への招待状とも言える重要な楽曲である。この曲は従来のラジオ番組を模した構成を採り、リスナーに語りかける形式で進行していく。冒頭からジョージ・クリントンが“DJ Dr. Funkenstein”のようなキャラクターとして登場し、「あなたの耳を支配し、魂をファンクに浸す」ことを高らかに宣言する。
この楽曲は、単なる音楽ではなく、P-Funkという概念そのものを具現化するものであり、ファンクとは音楽だけでなく哲学であり、文化であり、解放の手段であることを明示している。リスナーはこの曲を通じて、現実から切り離された“ファンクの宇宙”へと誘われていく。まるでラジオの電波を通じて別世界と接続されるように、語りと音楽が一体となったトリップ体験が展開されていく。
Parliamentにとって「P-Funk」とは、ただのジャンル名ではない。それは肉体的な快楽と精神的な自由、そして黒人文化の肯定を同時に実現する“音楽的武器”であり、この曲ではその全貌がドラマティックに語られている。
2. 歌詞のバックグラウンド
1975年のParliamentは、George Clintonのもとで“P-Funk”という新たな音楽的・思想的コンセプトを打ち立てていた。それは、既存の音楽業界の形式や価値観に囚われず、自由で創造的なファンクを通じて精神の解放を追求する運動でもあった。
「P-Funk (Wants to Get Funked Up)」は、その中でもとりわけ重要な位置を占めている。なぜならこの曲は、アルバム『Mothership Connection』全体の導入部として、リスナーを“P-Funk宇宙”に誘う儀式のような役割を担っているからだ。語りかけの形式は、当時の深夜ラジオやブラックDJ文化を模倣しており、そこにはアメリカの黒人コミュニティにおけるメディアの力、つまり「自分たちの声を持つこと」への渇望が込められている。
さらに、歌詞の中では「白人にとってはマリファナ、黒人にとってはファンクだ」という一節があり、Parliamentのファンクが単なる娯楽ではなく、黒人にとっての“精神的薬草”であることを明言している。これは当時のアメリカにおける社会的・人種的な対立構造の中で、音楽が果たす役割についての強烈なメッセージでもある。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「P-Funk (Wants to Get Funked Up)」の印象的な一節とその和訳を紹介する。
“Good evening, do not attempt to adjust your radio, there is nothing wrong”
こんばんは。ラジオを調整しようとしないでください。何も問題はありません。
“We are controlling transmission. We will control the horizontal. We will control the vertical”
今、我々が送信を支配しています。横も縦も我々の制御下にあります。
“We want the funk. Give up the funk.”
俺たちはファンクを求めている。ファンクをよこせ。
“Put a glide in your stride and a dip in your hip and come on up to the Mothership”
歩みにしなやかさを、腰にはノリを乗せて、マザーシップに乗り込め
“P-Funk, uncut funk, the bomb”
P-Funk、それは混じりけのないファンク、本物だ
“The funk not only moves, it can remove”
ファンクはただ身体を動かすだけじゃない、魂の障壁を取り除く力もあるんだ
歌詞引用元:Genius – Parliament “P-Funk (Wants to Get Funked Up)”
4. 歌詞の考察
「P-Funk (Wants to Get Funked Up)」の最大の特徴は、楽曲でありながらもその構成がラジオ放送風であるという点である。これは、P-Funkが音楽という形式を“メディア”として再解釈し、リスナーとの間に“電波”のような架空のコミュニケーションを作り出していることを意味する。
「ラジオを調整するな、我々が制御している」という言葉は、音楽によって意識をハイジャックするという宣言であり、既成概念や固定観念を破壊していくことを予告している。その後に続く“マザーシップに乗り込め”という表現は、現実からの脱出、もしくは精神的な覚醒を暗示しており、P-Funkという存在がただの音楽ジャンルではなく、ひとつの“宗教的啓示”に近いものとして機能していることを示している。
また、「ファンクは動くだけでなく、除去することもできる」という一節は非常に象徴的である。ここでいう“除去”とは、心のブロックや社会的抑圧、あるいは人種差別やアイデンティティの葛藤といった精神的障壁を指している。Parliamentのファンクは、そうした障壁を音楽の力で取り払おうとする“音の薬”であり、救済手段なのである。
このように、「P-Funk (Wants to Get Funked Up)」は単なる楽曲というよりも、P-Funk神話の序章としての役割を果たしており、Parliamentが提示する世界観の入口として極めて重要な位置を占めている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Mothership Connection (Star Child) by Parliament
この曲の続編ともいえる存在で、P-Funk神話の中核となる“Star Child”が登場する。宇宙的かつ祝祭的なファンクが炸裂する代表作。 - Sir Nose D’Voidoffunk (Pay Attention – B3M) by Parliament
ファンクを拒むキャラクター“Sir Nose”との対立を描いたストーリー曲。P-Funk宇宙の物語性をさらに深く味わえる。 - Do That Stuff by Parliament
同じ『Mothership Connection』に収録されており、ファンクのグルーヴとユーモアが交錯するParliamentらしい一曲。 - Unfunky UFO by Parliament
宇宙とファンクの融合をテーマにしたトラックで、浮遊感と重量感が同居する唯一無二のサウンドが魅力。
6. “P-Funk放送局”としての革新
「P-Funk (Wants to Get Funked Up)」は、音楽をメディアとして用い、自己解放や共同体意識を生み出すツールとして活用した革新的な試みであった。まるで架空のラジオ局“W-E-F-U-N-K”が放送する電波のように、リスナーの耳を通して精神を揺さぶる仕掛けが施されている。
この手法は、後年のヒップホップやエレクトロ、さらにはKanye WestやKendrick Lamarといった現代のアーティストたちにも受け継がれており、「音楽による自己世界の構築」という発想の源流として再評価されている。
「P-Funk (Wants to Get Funked Up)」は、Parliamentが提示した“音楽の宇宙”への入り口であり、リスナーを巻き込むことで新たな現実を提示する一種のマニフェストである。その言葉と音の力によって、現実の重力から解き放たれたリスナーは、ファンクという名の宇宙を漂い始めるのだ。音楽が宗教となり、放送が儀式となるその瞬間、P-Funkの魔法が始まる。
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