People of the Sun by Rage Against the Machine(1996)楽曲解説

1. 歌詞の概要

「People of the Sun」は、Rage Against the Machine(以下RATM)のセカンドアルバム『Evil Empire』(1996年)に収録された楽曲であり、そのタイトルが象徴するように、ここでは“太陽の民”――すなわち、アステカをはじめとした先住民の子孫たちや、中南米の被抑圧民族――の歴史と怒りが、鋭く、そして詩的に描かれている。

この曲の主題は、欧米の帝国主義や植民地主義によって破壊された文化、奪われた土地、抹消されたアイデンティティに対する痛烈な抗議である。

冒頭から炸裂する「Yeah! People come up!」というザック・デ・ラ・ロッチャの叫びは、まるで歴史の中で沈黙させられてきた人々の魂が立ち上がる瞬間を告げる合図のようだ。

「People of the sun has comin’ back around again(太陽の民が再びやってくる)」というラインには、単なる歴史的回顧ではなく、今まさに“忘れられた民が帰ってくる”という現代的な闘争の鼓動が刻まれている。

この楽曲は、過去を語りながら、現在の闘いを描き、未来の解放を予感させる“歴史と怒りの連歌”なのである。

2. 歌詞のバックグラウンド

「People of the Sun」は、メキシコ南部の先住民族による武装蜂起、すなわち「サパティスタ民族解放軍(EZLN)」の運動にインスパイアされて書かれた。

ザック・デ・ラ・ロッチャ自身がメキシコ系アメリカ人であり、実際にサパティスタの拠点であるチアパス州を訪れたことがきっかけでこの曲は生まれた。

1994年、北米自由貿易協定(NAFTA)に反対して蜂起した彼らは、土地や文化を奪われ続けてきた先住民族の“生きた証人”であり、その存在はまさに「太陽の民」の象徴であった。

その姿を目の当たりにしたザックは、自らのルーツと重ね合わせながら、ラップとロックを通じて“奪われた者たち”の声を現代に蘇らせた。

また、曲中ではアステカ帝国の滅亡、スペイン人征服者による虐殺、ロサンゼルス暴動といった出来事が、ひとつの怒りの連鎖として紡がれていく。
これは単に“政治的な歌”ではなく、“歴史そのものを武器に変える行為”でもある。

3. 歌詞の抜粋と和訳

出典:genius.com

Back to the days of the conquistadores
 コンキスタドール(征服者)たちの時代へ戻れ

But now we’ve got the number one bullet
 だが今、俺たちは“弾丸ナンバーワン”を手にした

Checka, comin’ back around again
 見ろよ、俺たちがまた戻ってきたぜ

This is for the people of the sun
 これは“太陽の民”のための歌だ

このサビは、強奪と虐殺の歴史を乗り越え、再び声を取り戻そうとする“民の再生”を高らかに宣言している。

また、この曲には以下のような象徴的なラインも登場する。

It’s coming back around again
 歴史は再びめぐってくる

This is for the people of the sun
 これは太陽の民に捧げる

この繰り返しの中に、抑圧されてきた者たちが決して過去のものではなく、「今ここに生きている」ことを示す強いメッセージが込められている。

4. 歌詞の考察

「People of the Sun」は、RATMの楽曲の中でも特に“ルーツ”と“記憶”を重視した作品である。

この曲の核心は、「歴史が語られないまま忘却されていくこと」への反抗にある。

学校では教えられず、教科書からは削除されてきた“征服された側の物語”を、ザックは生々しく、かつ詩的に再構築していく。

“太陽の民”とは単に先住民族を指すだけではない。
それは、土地を奪われ、言葉を消され、名前すらも変えられてきた“すべての沈黙者たち”のメタファーなのだ。

この曲のラップは短く、言葉数も少ない。
だがそのぶん、一行一行の密度と鋭さは際立っている。
1分50秒という短さの中に、数百年の怒りと記憶が凝縮されているのである。

音楽的にも、ザックの吐き捨てるようなボーカルと、トム・モレロのうねるようなギターが、まるで歴史の裂け目から吹き出す“声なき声”を表現しているかのようだ。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Calm Like a Bomb by Rage Against the Machine
     沈黙の中に潜む怒りとアイデンティティの爆発を描いた、より内省的な作品。

  • Maria by Rage Against the Machine
     搾取される女性労働者を通じて、資本主義の暴力性と“失われた名”の回復を描く。

  • Mumia 911(feat. Dead Prez, Zack de la Rocha, Chuck D)
     政治犯ムミア・アブ・ジャマール支援のために書かれた、連帯と怒りの声。

  • Palestine by Immortal Technique
     国家とアイデンティティの闘争をラップで描いた、鋭利な国際的視点。

  • Freedom by Rage Against the Machine
     アメリカ先住民レナード・ペルティエの冤罪を主題にした、RATMの原点的楽曲。

6. “沈黙の民”が帰ってくる ― 歴史と今をつなぐレジスタンスの詩

「People of the Sun」は、歴史に“存在しなかったことにされた人々”の声を、21世紀へと届ける“時空を超えた抗議歌”である。

この曲が描く怒りは、過去への復讐ではない。

それは、語られなかった歴史を取り戻し、奪われた名を再び呼び起こし、未来を生きるためのアイデンティティを構築するための祈りである。

ザック・デ・ラ・ロッチャはこの曲を通じて、「歴史を書き換えるのは勝者だけじゃない。歌う者にもできるのだ」と私たちに伝えている。

そしてその声は、チアパスの山岳地帯から、ロサンゼルスの街角へ、さらに今を生きるすべての“無名の者”へと届く。
「People of the Sun」は、沈黙を破る者たちのためのラッパの音なのだ。

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