イントロダクション
Loveland(オハイオ州)の新スタジオ Portage Lounge に、ハモンドの咆哮、シカゴ仕込みのドラム・グルーヴ、シアトル発ファンキー・ギターが交差する。
2024 年夏、コールマイン・レコーズから現れた Parlor Greens は、60 年代ブルーノート期のソウルジャズと現代ジャム・バンドのダイナミクスを接ぎ木したフレッシュなオルガン・トリオだ。
“インストなのに歌心満載”という矛盾をさらりと成立させるその演奏は、ファンク、ブルース、ジャズ、サイケが溶け合うグリーンの渦を生む。
バンドの背景と歴史
構想はドラムの Tim Carman(GA‑20)がレーベル代表 Terry Cole に「昔の Prestige/Blue Note みたいなオルガントリオをやりたい」と打ち明けた一言から始まった。
Carman が白羽の矢を立てたのが、ギターの Jimmy James(True Loves、元 Delvon Lamarr Organ Trio)と、オルガンの重鎮 Adam Scone(Scone Cash Players/Sugarman 3)。
2024 年 3 月 26 日、3人がスタジオで最初に合わせた即興リフがそのままデビュー・シングル〈West Memphis〉となり、Parlor Greens が正式に誕生するParlor Greens。
同年 7 月 19 日、3日間の一発録りで仕上げた 11 曲入り LP『In Green We Dream』をリリース。
限定 100 枚の Bandcamp 盤は瞬く間に完売し、アナログ派ディガーの話題をさらったParlor Greens。
2025 年 2 月 7 日には7インチ『Driptorch / 200 Dollar Blues』でバンドの“ネオ・ブギー”路線を提示し、米インスト・ファンク界の次期看板候補として注目を集めているParlor Greens。
音楽スタイルと影響
Parlor Greens の核はハモンド B‑3 のぶ厚いリズム。
Adam Scone がダイナミクスごと鍵盤を揺らし、低音ぺダルでベースを補完するため、トリオ編成でも残響はビッグバンド級に膨張する。
Jimmy James のギターは J.B.’s 直系のチャカポコ・カッティングから、ブルースの泣きフレーズ、さらにはサイケ期グラント・グリーンを想起させるエフェクトまで縦横無尽。
そこへ Carman の堅牢なシャッフルが根を張り、オールドスクールの匂いとヒップホップ世代の重心が同居する。
影響源はメルヴィン・スパークス、Dr. Lonnie Smith、The Meters、さらに GA‑20 で培ったシカゴ・ブルースのグルーヴ。
録音は Tascam 388 テープ機に直結し、モノクロ写真のようなザラつきをあえて残すことで、アナログの温度感を現代ストリーミングへ持ち込んでいる。
代表曲の解説
West Memphis
バンド結成の瞬間を刻んだ最初の録音。
ギターの単音リフがスロウ・ブーガルーを誘発し、Scone のオルガンが縦横に走る。
ジャムの中でメロディが組み上がるプロセスがそのまま定着しており、“録音=創作”という本来のジャズ的瞬発力を体感できる。
In Green We Dream
デビュー LP のタイトルトラックであり、美しいワルツ系3拍子。
オルガンがドローバーを滑らかに引き出し、ドラムはブラシからスティックへ移行しながらピアノのようなニュアンスを刻む。
中盤のギター・トレモロはミシシッピの川霧を思わせるアンニュイさを呼び込み、曲全体が“緑の夢”というタイトルを視覚化する。
Driptorch
2025 年シングルの A 面。
点火用トーチ(ドリップトーチ)の名の通り、ファズギターとハモンドが火花を散らすハードファンク。
A メロでドラムが 16 分ゴーストを刻み、サビで一気に4分裏ノリへジャンプする構成が中毒性を高める。
アルバムごとの進化
『West Memphis』(Single, 2024‑03‑26)
初ジャムの空気をそのままパッケージ。テイク1を採用した潔さが光る。
『In Green We Dream』(LP, 2024‑07‑19)
全曲 “一室・三日・テープ直録り”。ブレイク毎にブリード音が入り、ライブ感が手触りとして残る。
フロントジャケットのデュオトーン写真は、コールマインが育んできたソウルリバイバル美学のアップデートといえる。
『Driptorch / 200 Dollar Blues』(7″, 2025‑02‑07)
バンド初のブルース・シャッフル〈200 Dollar Blues〉を収録。
ミックスは低域をさらに強調し、クラブ PA でも埋もれない“重心低めのインスト・ファンク”へシフト。
影響を受けた音楽とアーティスト
- Jimmy Smith や Brother Jack McDuff に代表される 60 年代ソウルジャズ・オルガンのグルーヴ感
- Grant Green、Eddie Hazel、Khruangbin などギターのメロディアスなミニマリズム
- J.Dilla 以降のビートメイカーが提示した“タメ”の解釈
これらがバンドのフィルターを通ることで、ヴィンテージとモダンが自然に混ざり合う。
影響を与えたシーンへの波及
リリースから半年で、米西海岸ファンク勢や UK ジャズ・ファンク若手が “オルガン・トリオ回帰” を掲げる動きを見せ始めた。
KEXP ライブ映像のバイラルヒットにより、ブラス抜き編成のインストがフェスの小屋ステージを席巻する兆しもあるYouTube。
レーベルメイト Khruangbin のツアー前座抜擢も決定し、スロウテンポのダンス観を共有するリスナー層を広げつつある。
オリジナル要素
- テープ直結レコーディング
DAW を介さず Tascam 388 へ直接録音し、そのまま 24‑bit デジタル化。
ミックス段階でのエフェクトは極少に抑え、“録った瞬間の空気”をマスターに残す手法が評価された。 - “Green Room Sessions”
レーベル倉庫の片隅で行う月例無観客ライブを映像配信。
視聴者投票でセットリストが決まるインタラクティブ企画として機能し、ファンコミュニティを拡張している。 - 楽器メーカーとのコラボ
Hammond USA と共同開発したカスタム・ドローバー “Dream Green” を 2025 年秋に限定発売予定。
鮮やかなグリーンノブがステージ照明に反射し、視覚的アイコンとしても効果を発揮する。
まとめ
Parlor Greens は“懐古”と“革新”を二項対立で捉えない。
テープに焼き付けたヴィンテージの手触りを、現代のビート感覚で呼吸させることで、ソウルジャズを次の世代のダンスフロアへリレーさせた。
もしあなたが深夜の部屋で古いブルーノート盤を愛でる人でも、最新フェスで踊りたい人でも、このトリオの音は同じ温度で鼓膜を震わせるだろう。
緑色のドリーム――その続きを体験する準備はできているか。
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