1. 歌詞の概要
「Pale Blue Eyes」は、The Velvet Undergroundが1969年にリリースした3作目のセルフタイトル・アルバム『The Velvet Underground』に収録されたバラードであり、ルー・リードの最もパーソナルで叙情的な作品として知られている。この曲の核にあるのは、**「忘れられない恋」と「罪の意識」**である。語り手は、淡く優しい眼差しをもつ「青い目の君」への想いを抱きながらも、その恋が報われることのないものであると知っている。しかも、その彼女にはすでに「夫」がいるという背景が、語り手の愛をより複雑で切ないものにしている。
この楽曲における「愛」は、希望でも幸福でもなく、静かに心の奥に居座り続ける傷のように描かれる。語り手は、相手の存在によって癒やされるどころか、かえって「何もかも壊されてしまった」と感じており、甘さと苦さが同時に胸を刺すようなラブソングとなっている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Pale Blue Eyes」は、ルー・リードが大学時代に交際していた女性シェリー・アルバート(Shelley Albin)を想って書いたと言われている。彼女は後に別の男性と結婚し、ルーとは結ばれなかったが、その“手の届かない愛”こそが本曲の根幹を成している。リードは後年、「この曲は彼女が結婚していたからこそ生まれた。そうでなければ、書けなかった」と語っており、叶わない恋こそが最も美しく、最も苦しいという逆説がここに表れている。
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドは、それまでの作品でドラッグ、暴力、性といった退廃的テーマを中心にしてきたが、3rdアルバムではより内省的で静謐なサウンドに変化した。「Pale Blue Eyes」はその象徴的な一曲であり、ジョン・ケイル脱退後の空間的で繊細な編成の中で、ルー・リードの歌詞とメロディが穏やかに響いている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Pale Blue Eyes」の印象的なフレーズとその和訳を紹介する。
Sometimes I feel so happy
時々、ものすごく幸せな気がするSometimes I feel so sad
でも時には、ものすごく悲しくなるI guess I just don’t know
結局、よくわからないんだI guess that I just don’t know
本当は自分でも気持ちが分かっていないんだろうThought of you as my mountaintop
君のことを、僕の「山の頂」だと思ってたThought of you as my peak
人生の“最高点”だと思ってたThought of you as everything
君がすべてだったI’ve had but couldn’t keep
でも僕は、それを手に入れても守れなかったIt was good what we did yesterday
昨日の出来事は、とても良かったAnd I’d do it once again
もう一度やり直せるなら、また同じことをするよThe fact that you are married
でも君がもう結婚しているということがOnly proves you’re my best friend
むしろ、君が“最愛の人”だって証明してるんだ
引用元:Genius Lyrics – The Velvet Underground “Pale Blue Eyes”
4. 歌詞の考察
「Pale Blue Eyes」の歌詞は、一見するとシンプルで日常的な言葉で構成されているが、その奥には未練、後悔、そして罪悪感が折り重なるように隠されている。ルー・リードはこの曲において、ドラマティックな愛の高揚を描くことはせず、むしろ“後になっても心に残り続ける静かな痛み”を淡々と綴っている。
「The fact that you are married only proves you’re my best friend」という一節には、恋人を失った哀しみだけでなく、それでもなお心から相手の幸せを願うような諦観がにじんでいる。愛するがゆえに手放さなければならない関係――そのやるせなさは、リードの囁くような声と、穏やかに流れるアルペジオと共鳴し、リスナーの胸に深く刺さる。
また、「Sometimes I feel so happy / Sometimes I feel so sad」という冒頭の対比は、喜びと悲しみが混在する恋愛の真実を見事に描いており、これは“幸福な記憶”が時として“深い孤独”と直結しているという構造を示している。つまりこの曲は、愛することがそのまま喪失の予感を孕んでいるという、ルー・リード独自の“愛の美学”の極致でもある。
※歌詞引用元:Genius Lyrics – The Velvet Underground “Pale Blue Eyes”
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Perfect Day by Lou Reed
日常の何気ない一日が、誰かとの記憶と重なる。シンプルな言葉に込められた深い感情が共通する。 - I Threw It All Away by Bob Dylan
愛を手放した後悔と静かな自省を描いたバラード。淡々とした語りが「Pale Blue Eyes」と共鳴。 - Kathy’s Song by Simon & Garfunkel
遠く離れた愛への手紙のような一曲。感情の余白が美しい。 - The Book of Love by The Magnetic Fields
愛について語る“記録”のような曲調。控えめなメロディと内省的なリリックが似ている。
6. “愛の不在”を愛するという詩的態度
「Pale Blue Eyes」は、“愛されること”でも“愛すること”でもなく、“愛があったという記憶”に寄り添う曲である。語り手は、もはや叶わぬ関係の中にこそ真実の愛を見出し、その不在を慈しむように歌い続ける。これはルー・リードというソングライターが持つ、喪失を肯定する強さであり、それがこの曲を“ただの失恋ソング”に終わらせない深みを与えている。
また、彼がこの作品で用いる語り口は、演技的な感情の爆発ではなく、呟きのような語り=自己との対話に近い。それゆえに、この曲は聴き手にとっても、自分の中の誰にも話せない想いと向き合う“鏡”のような存在となる。
「Pale Blue Eyes」は、言葉にできない感情、語るには苦しすぎる記憶、それでも美しく思える恋の記憶を、そっと包み込んでくれる楽曲である。そして、それは「人生において最も深く刻まれるのは、得た愛ではなく、失われた愛である」という真実を、私たちに静かに教えてくれる。
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