1. 歌詞の概要
「Pain Lies on the Riverside」は、アメリカのロックバンドLiveが1991年にリリースしたデビューアルバム『Mental Jewelry』に収録された楽曲であり、彼らの音楽的出発点を象徴する作品のひとつである。
タイトルの「Pain Lies on the Riverside(痛みは川辺に横たわっている)」というフレーズは、象徴的でありながら非常に詩的で、苦しみを静かに受け入れ、手放すための「場所」や「儀式」を暗示している。
この曲が描くのは、精神的な目覚めや内的解放のプロセスであり、現実社会の不条理や精神的な重圧と向き合いながら、それらを超えていく意志を持つ主人公の姿だ。
歌詞には「限界」という言葉が何度も登場し、それは制度や思い込み、人間関係、あるいは自らの内面の壁を意味しており、それを超えること、あるいはその“外側”にこそ真実や救済があるという認識が込められている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Pain Lies on the Riverside」は、Liveの前身バンド「Public Affection」時代のスピリットを引き継ぎつつ、Ed Kowalczyk(エド・コワルチック)を中心とした新たな哲学的アプローチのもとで誕生した楽曲である。
この時期のエドは、インドの精神思想家ジッドゥ・クリシュナムルティの思想に大きな影響を受けており、特定の宗教や制度ではなく「自己を知ることによる自由」を重要視していた。
『Mental Jewelry』はそうした精神的な探求をテーマとしたアルバムであり、「Pain Lies on the Riverside」はその中でも最も明快に「限界と解放」を描いた楽曲である。
また、この曲はLiveにとって初めてラジオで注目を集めたシングルでもあり、バンドの存在を広く知らしめるきっかけとなった。
サウンド面では、ファンク的なベースラインとヘヴィなギター、複雑なリズムの組み合わせが印象的で、後のLiveの叙情的なバラードとは異なる、攻撃的で挑発的な音像が特徴的である。

3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Pain Lies on the Riverside」の印象的なフレーズを英語と日本語訳で紹介する。
“I have never taken life / Yet I have often paid the price”
「僕は誰の命も奪ってはいない / それでもいつも代償を払ってきた」
“And you, you are a victim / But you still play the victim’s role”
「君は被害者だろう / でも自らその役を演じ続けているじゃないか」
“I don’t believe in forced entry / I don’t believe in rape”
「僕は強制的な侵入なんて信じない / レイプなんて信じない」
“I don’t believe in the government / Or in the president”
「政府も、大統領も、僕は信じていない」
“I don’t know where the limits are / But I know that I have them”
「限界がどこにあるかはわからない / でも、それがあることはわかっている」
歌詞全文はこちらで確認可能:
Live – Pain Lies on the Riverside Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
この楽曲の核にあるのは、「限界を越えること」と「被害者意識からの脱却」である。
「君は被害者だが、その役を演じている」というラインは、痛烈な皮肉であると同時に、精神的な目覚めへの促しでもある。エドはここで、「被害を受けた過去に囚われるな」と命じているのではなく、「その物語を自分で握っていないか?」と問いかけている。
また、政治や制度への不信感が明示的に歌われている点も重要であり、それは単なる反権威主義ではなく、「自ら考えることの重要性」を訴える啓蒙的な姿勢の表れでもある。
「限界がどこにあるかはわからないが、それを越えてみせる」——このような意志の表明が、曲全体に漲っている。
そして、タイトルにある「riverside(川辺)」は、古来から“再生”や“境界”の象徴であり、聖書的には洗礼の場でもある。
ここに「痛みが横たわっている」ということは、苦しみが“手放されるべき場所”に置かれている、つまりそれはもう過去のものとなるはずだという希望のニュアンスも含まれている。
音楽的にも、リズムの躍動感とサビでの開放感がこの精神的な旅路を体現しており、心の混乱から静かな悟りへの移行を感じさせる構成になっている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Freedom by Rage Against the Machine
政治的支配と精神的束縛に対する怒りと問いを叩きつけるラディカルなナンバー。 - One by U2
人間関係と救済を巡る詩的な問い。内面の対話と超越のテーマが共鳴する。 - Them Bones by Alice in Chains
死生観をストレートに突きつけるグランジの傑作。限界と運命を受け入れる覚悟を感じさせる。 - No Excuses by Alice in Chains
葛藤と自己省察、そして関係のなかにある“赦し”をテーマにした深いバラード。 -
Release by Pearl Jam
父と子、過去と赦しというテーマをスピリチュアルに描いた壮大なクロージングトラック。
6. “限界のその先へ”向かう精神の第一歩
「Pain Lies on the Riverside」は、Liveのキャリアの出発点において、すでにその精神性と批評性が強く現れていたことを示す楽曲である。
激しさのなかに明確な哲学があり、混沌の中に「目覚めよ」というメッセージが込められている。
それは不条理に声を上げるロックではなく、不条理を超えるための“意志”を音にしたロックだ。
Liveはここで、ただの怒りや悲しみではなく、それらを超えて自分自身を“解放”するための音楽を提示している。
「痛み」は、川辺に横たわっている。
それは、洗い流すべきものとしてそこにある。
そして、もしあなたがそこへ走っていけるなら──その痛みは、もうあなたの中に留まらなくていい。
「Pain Lies on the Riverside」は、魂の脱皮を促す、最初の鐘のような楽曲である。
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