1. 歌詞の概要
「Over Under Sideways Down」は、The Yardbirdsが1966年に発表したシングルであり、彼らのサイケデリック期を象徴する楽曲のひとつである。タイトルにもある「Over Under Sideways Down(上、下、横、逆さ)」という言葉は、混乱・自由・無重力感を象徴しており、リリック全体を貫くのは「快楽の探求」と「アイデンティティの揺らぎ」である。
歌詞では、若さ、自由、反抗、欲望といった感情が断片的かつキャッチーなフレーズでコラージュのように描かれる。明確なストーリー性はなく、断片的なイメージが音とリズムに乗って流れていく構成は、当時台頭し始めていたサイケデリック・ロックの特徴そのものである。
この曲は、**物理的にも精神的にも“方向感覚を失うような感覚”を表現しており、それは1960年代中盤の若者たちが感じていた価値観の転換やアイデンティティの模索とリンクしている。まさに「ポップな混乱」**としてのサイケロックを代表する一曲である。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Over Under Sideways Down」は、The Yardbirdsにとって1966年の重要なシングルであり、ジェフ・ベック期の創造性がピークに達していた瞬間を捉えた作品である。作曲にはバンドメンバー全員がクレジットされており、グループ全体の実験的精神が反映されている。
この楽曲のベースは、チャック・ベリーの「Rock and Roll Music」からインスピレーションを得たもので、ベックがギターでそのリフを発展させた。だが、そこにファズギターの歪みや、東洋的スケールのメロディライン、そしてサイケデリックな歌詞を重ねることで、一線を画する斬新なサウンドに仕上がった。
当初、歌詞は性的に挑発的すぎるとBBCによって問題視され、「That’s the best way I have found(それが僕の見つけた最高のやり方)」というラインも編集を受けた経緯がある。しかしその騒動もまた、この曲が時代の境界を押し広げようとした試みであったことの証である。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Over Under Sideways Down」の印象的なフレーズと和訳を紹介する。
Over, under, sideways, down
上へ、下へ、横へ、逆さへBackwards, forwards, square and round
後ろ、前、四角、そして円のようにWhen will it end?
いったい、いつ終わるんだ?With all the girls and the music going round
女の子たちと音楽がぐるぐる回ってるこの世界でHey!
ヘイ!(感情の爆発)Cars and girls are easy come by in this day and age
車と女の子なんて今じゃ簡単に手に入るLaughing, joking, drinking, smoking
笑って、冗談を言って、飲んで、吸って‘Til I’ve spent my wage
給料が尽きるまで
引用元:Genius Lyrics – The Yardbirds “Over Under Sideways Down”
4. 歌詞の考察
この曲の魅力は、まさにその意味のあいまいさと断片性にある。明確な物語があるわけではなく、快楽と混乱のイメージが目まぐるしく展開する。この構造は、1960年代の若者文化、特にドラッグ体験や自由恋愛、物質主義への皮肉と結びついている。
「Over, under, sideways, down」というコーラスの繰り返しは、方向性を失った感覚そのものであり、コントロール不能な状況に快感を覚える心理状態を象徴している。一方で、「When will it end?(いつ終わるのか?)」というラインは、そうした快楽の果てにある空虚感や倦怠をも暗示しており、軽快な曲調の裏にある陰影を感じさせる。
また、「Cars and girls are easy come by」という表現に見られるように、この曲は一見享楽的な若者の風俗を歌っているように見えるが、それは決して肯定一辺倒ではない。社会の過剰な消費主義、無目的な快楽の繰り返し、それによる精神の摩耗といった要素が、ロック的なアイロニーとして巧みに織り込まれている。
※歌詞引用元:Genius Lyrics – The Yardbirds “Over Under Sideways Down”
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Tomorrow Never Knows by The Beatles
方向性を失った精神世界をサイケデリックに描いた楽曲。世界観の拡張が共通する。 - Itchycoo Park by Small Faces
幻覚的な体験と遊び心を表現した60年代後期の名曲。 - Purple Haze by The Jimi Hendrix Experience
現実感覚の喪失をギターとともに叫ぶ。ジェフ・ベックとの音の対話も感じられる。 - See Emily Play by Pink Floyd
サイケデリック・ポップの完成形。精神の“飛翔”と“混乱”がテーマ。
6. “サイケデリックの入り口”──方向感覚を失うことで見える自由
「Over Under Sideways Down」は、The Yardbirdsが1966年という**“意識変容の時代”のただ中で生み出した、最も象徴的な楽曲**である。それまでのブルース・ベースのロックから飛躍し、視覚的・心理的・文化的な広がりを持つ音楽へと到達した瞬間とも言える。
この曲は、混乱や快楽、曖昧な意識の中に身を置くことで、逆に現実を批評するという手法をとっており、それは後のサイケ・ロックやアート・ロックに連なる美学の出発点でもある。タイトルに含まれる「Over」「Under」「Sideways」「Down」という単語の反復は、方向を失うことへの不安であると同時に、それを受け入れる開き直りでもある。
このような曖昧さと快楽、批評と快感が交錯する構造は、1960年代の若者文化における根本的なテーマであり、The Yardbirdsはその先端を鋭く切り取った。結果として、「Over Under Sideways Down」はサイケデリック・ロック黎明期の金字塔となり、ジェフ・ベックというギタリストの表現力とともに、時代の音として永久に鳴り響いている。
混乱の中でこそ見える真実がある。そうした**「現実の向こう側」への感覚の扉**を、この曲は軽快に、しかし確実に開いてみせる。
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