アルバムレビュー:Out of Reach by Can

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※本記事は生成AIを活用して作成されています。

cover

発売日: 1978年7月
ジャンル: クラウトロック、プログレッシブ・ロックジャズ・ロック


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概要

『Out of Reach』は、Canが1978年に発表した10作目のスタジオ・アルバムであり、バンド史上もっとも異質かつ評価が分かれる作品として知られている。
この時期、オリジナル・メンバーのホルガー・シューカイ(ベース、編集)が完全に脱退しており、その結果、Canのサウンドを根底から支えていた“編集的アプローチ”と“抽象性”が失われた。

代わりに、前作『Saw Delight』から参加したロズコ・ジー(Rosko Gee)リーバップ・クワク・バー(Rebop Kwaku Baah)が大きな影響力を持つようになり、アルバム全体がより“ジャズ・ロック的”な方向性へと舵を切っている。
特に、アフロ・カリビアンのリズムやフュージョン的なインプロヴィゼーションの色彩が濃く、従来のCanファンが抱いていた「実験的クラウトロック」というイメージとは大きく異なっている。

こうした変化により、『Out of Reach』はCanの“らしさ”が最も希薄な作品とされることも多いが、その一方で、新しい音楽的接続や時代的文脈に触れている試みとして再評価される動きもある。
実際、同時代にはWeather ReportやMahavishnu Orchestraのようなジャズ・フュージョンが世界的な潮流を形成しており、Canもまたその空気の中で“別のリアル”を模索していたのかもしれない。


全曲レビュー

1. Serpentine

フュージョン的ギターリフとパーカッションが交錯する、エネルギッシュなオープニング。
かつてのCanにあった“空間”よりも、より密集した“運動”が前景化している。
反復よりも展開に比重が置かれ、即興性が前に出ている点が新鮮とも言える。

2. Pauper’s Daughter and I

哀愁を帯びたメロディとアフロ・ビート的リズムが交差するミディアム・トラック。
ヴォーカルは曖昧だが、“歌”への意識は以前よりも強く、ポップへの接近が見られる。
だがそれはCan特有の“音響実験”ではなく、より一般的なロック文脈での構築に近い。

3. November

短めのインストゥルメンタルで、アンビエント的なギターのディレイが印象的。
アルバム全体の中では異質な静寂を持っており、束の間の“内省”を与える。
Canらしさをかろうじて感じることができる数少ない瞬間。

4. Seven Days Awake

ホーンのようなシンセ、断片的なヴォーカル、滑らかなグルーヴが絡む長尺トラック。
フュージョンの手法とCan的リズムの交差点にあるが、どこか統一感に欠ける。
各パートが優れているだけに、全体としての編集的統制が不在なのが惜しまれる。

5. Give Me No “Roses”

ファンク的リフとパーカッシブな展開。
音数が多く、勢いがある反面、Canの持っていた“間”や“ズレ”の美学は薄れつつある。
ジャム感が前面に出ており、ライブ・バンドとしてのCanの別の顔が垣間見える。

6. Like INOBE God

ややサイケデリックな導入から始まるが、徐々にロック・ジャムへと展開。
ギターが主導権を握り、Canとしては異例な“ギターバンド”然とした構成。
演奏の熱量は高いが、編集の妙がないため、即興の羅列に聞こえてしまうことも。

7. One More Day

アルバムのクロージングにふさわしいメロウなトラック。
過去作『Future Days』の残響をわずかに感じさせる空間感があり、Canらしさの名残を感じるラスト。
もしこの感触をアルバム全体で維持できていたら、評価も異なっていたかもしれない。


総評

『Out of Reach』は、Canというバンドが持っていた**“音楽的装置としての異物性”が一度喪失した作品である。
シューカイ不在によって編集美学が消え、代わりにロズコとリーバップによる
ライブ的な一体感と演奏力**が前に出ることで、バンドの性質が大きく変質した。

これは必ずしも“失敗作”ではない。
むしろ、Canが自身の“構造”を解体されたまま音楽の現場に放り出されたとき、何が残るのかを見せてくれた作品とも言える。
そこには混乱もあるが、同時に純粋な演奏の熱量や、新たなサウンドへの試行錯誤が確かに記録されている。

結果として、『Out of Reach』はCanの枠から最もはみ出たアルバムであり、それゆえに“Canを脱構築的に捉えたいリスナー”にとっては興味深い一枚となるだろう。
これはCanのアルバムというより、“Canという名前の別バンド”の作品として聴くべきなのかもしれない。


おすすめアルバム(5枚)

  1. Can – Saw Delight (1977)
     直前作。ロズコ&リーバップ加入直後で、ポップと多文化要素のバランスが優れる。

  2. Weather Report – Heavy Weather (1977)
     フュージョン黄金期の代表作。『Out of Reach』と同時期のグルーヴ重視アプローチ。

  3. Mahavishnu Orchestra – Inner Mounting Flame (1971)
     即興性とジャズ・ロックの結晶。Canの変化を捉える比較対象に。

  4. King Crimson – Discipline (1981)
     複雑な構造とポリリズム。Canの“失われた知性”を別の形で追求したアルバム。

  5. Burnt Friedman & Jaki Liebezeit – Secret Rhythms 2 (2005)
     Canのドラマーによる、後年の“ポストCan”とも言えるリズム実験。


制作の裏側(Behind the Scenes)

『Out of Reach』は、バンド内部における構造的断絶の記録でもある。
ホルガー・シューカイの脱退は、単なるベーシストの不在ではなく、Canの中核的な“編集思想”そのものの崩壊を意味していた。

録音は従来通りInner Spaceで行われたが、編集・構成面ではヤキ・リーベツァイトやマイケル・カローリが中心となったため、構造ではなく演奏に重心が移行している。
特にリーバップはパーカッションのみならず、楽曲構成にも積極的に関与しており、本作では“Canというより、Rebop & Rosko Band”と呼ぶ方が正確かもしれない。

結果として『Out of Reach』は、Canというバンドが“装置”ではなく“集合体”として振る舞ったときの結果を提示した、特異な資料的作品なのである。

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